起業した、でも辞めたくなったら?

起業する動機は先述の通り多岐にわたるが、起業した先には何が待っているのだろうか。会社にとっては事業資金が尽きない限り、事業活動は続けられる。赤字が続き、借金を重ねて、最後は負債を抱えて倒産する会社もあるが、多くのスモールビジネスは、事業の継続の可否は事業資金のキャッシュフロー次第である。

一方、大きな借金や、想定外の大きな出費がなければ、コストと手間が少なく始めた現代版の起業スタイルは、事業活動を意外に長く続けられる。つまり、事業を辞める理由は、資金がなくなった場合だけではないということだ。

たとえば、仕事にやりがいが持てない、思ったほど稼げない、自由な時間は増えず、むしろサラリーマン時代よりも長時間労働をするようになった、収入が不安定で毎月定額の給料をもらえた生活が恋しい、資金的に自転車操業であり、貯蓄がサラリーマン時代ほど増えない、無名の零細企業を運営していることに誇りが持てなくなった、一人で働くのが寂しいなど、起業したことで十分な満足を得られない場合、事業を辞めることが頭をよぎる人もいるのではないだろうか。

当初、起業に対して持っていたイメージと、起業した後の現実の日々が大きく異なる場合、事業資金がショートしていなくても、もう一度会社勤めに戻って再出発しようと考える人がいるのである。実際、最近の転職市場では、新しい傾向として起業したことのある人が転職活動をしているケースが増えてきた印象がある。起業するハードルが下がった分、事業を継続しない判断も早まっているのではないだろうか。
 

起業経験、その後のキャリアにどう活かすか

では起業経験を職務経歴書に書いた場合、どのように見えるか、その一例を示してみたい。たとえば、不動産販売会社で営業経験を積んだ26歳の若手人材のケースとしてみよう。

22歳 都内の私立大学法学部卒業 
23歳 新卒で中堅の不動産販売会社に入社(東京都武蔵野市の賃貸販売を担当)
26歳 3年後に独立:スマホのネット広告販売代理業を行う会社を設立(代表取締役就任)
前職の不動産販売会社の後輩社員2名が事業に参加
30歳 事業を清算して、転職活動中(営業経験を活かした転職をしたいが、
不動産販売以外の業界への転職を希望している)

若手の場合、まだキャリアの年数が短く、業界や職種の専門性が定まっていない。よって30歳での転職活動でカギとなるのは、本人のコミュニケーション能力や問題解決をする際の論理的思考力など、起業経験を経て、どれだけビジネスパーソンとして成長したか、同世代の若手ビジネスマンとの対比をした際、起業経験が本人の成長を加速させたのかどうか、そこが評価されることになる。

では懸念材料はあるだろうか。業界や会社によって企業文化は異なるものだが、多くの会社では異なる世代の社員が一緒に働いていることもあり、その世代間ギャップが生み出す人間関係の悩みは、多くの人に共通して存在しているものだ。

起業した経験がある人の場合、すべて自分を中心に会社がまわっていたこともあり、社内の人間関係に悩むことは会社勤めの頃に比べれば格段に少なかったはずである。それがゆえに、起業した経験がある人が再度他の会社に転職する際、企業文化にうまくなじむことができるか、この点を心配する人は多いに違いない。

これを裏返してみれば、過去に起業経験のあるAさんを新たに採用する検討する際、会社としては、Aさんが入社した後に自社の企業文化にうまくなじんでくれるかどうか、Aさんの性格や生活習慣、仕事ぶりなどについては、慎重に検討する必要が生じる。

具体的には、複数の面接官が、いろいろ仕事に想定される場面についてケースを提示し、その場合あなたならどうしますかというように、Aさんの判断の仕方や行動パターンについて確認することになる。

ここで不合格と判断されれば、企業文化に合わない人材と評価されたことになる。起業した経験のある人は、部下として使いづらいのではないかという見方をする人もいるが、これは個人差がある。

サラリーマン時代よりも、むしろ自営業でスモールビジネスを経営している人ほど、顧客対応がより丁寧になり、人当たりが柔らかくなる人は多いものだ。起業経験が本人のコミュニケーション能力や忍耐力を育て、何でも自分で取り組めるようにもなり、問題解決を含めた顧客対応力も身に着けたことで、採用の現場では、起業経験のある人は、おおむね好評価を得ることの方が多いという印象である。

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