人材紹介会社では、社員の定着率が低いこと、それが採用の失敗の証拠である。実際、採用の失敗の背景には、人材紹介会社が「不摂生」に相当すること(職場環境が悪く、会社が不誠実な経営をしているなど)をしているというよりは、むしろ「養生すること(主に社員教育など)の難しさ」、つまり結果として、入社後に高いパフォーマンスを上げられるような適性の高い人材の採用と入社後の育成が、人材紹介の業界ではうまくいっていないのである。
採用のプロであるはずの人材紹介業界が抱える悩みとは
人材紹介の業界では、実績がある業務経験者を他社から中途で採用することが難しい事情がある。求人企業が抱える求人案件と求職者の情報、いわゆる顧客ベースを構築できた社員は、自分が働く人材紹介会社を辞めることを好まず、会社に定着する傾向が強い。そうした人が会社を辞める時は、本人が独立する時であり、競合他社へ転職する時ではないからだ。裏返せば、人材紹介の経験がある人で他社への転職活動をする人の中には、環境を変えて、注力する業界や職種を変えたいという人や、前職の会社が業績不振で転職を余儀なくされた場合などもある。
だが多くの場合は、じゅうぶんな顧客ベースを築けていないこと、もしくは目標とする売り上げを上げることができていないことが原因で、現職に留まれずに転職活動をしている人も少なくない。
その結果、人材紹介会社の中途採用では、業界の未経験者か、他者でじゅうぶんな実績を出せていない人を中途で採用することが多くなる。それが採用失敗の原因となっている。人材紹介以外の仕事をしてきた人の中から、本人の素養を見抜いて人材紹介の世界で活躍できそうな人を採用すること、これがなかなかうまくいかないのである。
「社員の離職率」は増加傾向にある
毎年、転職市場で人気のある会社の転職人気ランキングが様々な会社から発表される。その上位にランクインする会社は、大学生の就職人気ランキングと大差はなく、日本を代表する名だたる有名企業や大企業が並ぶ。企業のことをよく知らない学生がイメージで選ぶ就職の人気ランキングに比べれば、ビジネス経験のある社会人が選ぶ転職の人気ランキングには、年収や福利厚生をはじめ、社員の働きやすさなどの改革へ取り組む会社の経営姿勢が評価されているのだろう。大学生の就職の人気ランキングには金融や商社などが上位に多いが、転職の人気ランキングにはメーカーや外資系が増えてくる点にも注目したいところだ。
有名企業や大企業は話題に上がりやすい。報道で見かけることが多いことから、実際は社会人が選ぶ転職の人気ランキングも、結局はイメージで選ばれていることは否めないのかもしれない。どんな場合では大切な判断をイメージの影響を強く受けて行えば、それは判断ミスにつながる。
厚生労働省が2020年10月に発表した「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」によれば、新卒者の就職後3年以内の離職率は高卒で39.5%、大卒で32.8%であり、新卒の3割以上が入社後3年以内に離職している。入社した会社は、自分が想定していたイメージとギャップがあったのだろう。
総務省統計局が2020年2月に発表した労働力調査の報告書では、2019年の転職者数は351万人にのぼり、これは過去最多となっている。転職理由としては、「より良い条件の仕事を探すため」という理由をあげる人が増加傾向にある。
そして、転職先に選ぶ会社は、より待遇が良いと思われる従業員規模が大きな企業への転職を希望する人が増加傾向にあるという。実際全国には400万社を超える企業があり、その大半である99.7%が中小企業であることから、果たしてどれほどの人が転職で待遇改善を実現できているかは分からない。
人が転職する理由は待遇への不満だけではないが、会社の立場から見れば、社員の離職率が増加傾向にあるということは、社員の離職を思いとどまらせるだけの魅力が会社に足りないのと同時に、新卒採用と中途採用のどちらにおいても、会社とのマッチングの良い社員を採用できていないということはないだろうか。
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