子どもが選んだランドセルの色「男の子の1位=黒、女の子の1位=紫色」
「ランドセル購入に関する調査2021年」(一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会)によると、「購入したランドセルの色」の1位は、男の子は黒、女の子は紫系(スミレ・ラベンダー等)でした。ただし男の子の黒が61.2%と半数以上を占めるのに対し、女の子の場合、紫系が21.5%、2位の赤が21.1%、3位の桃色系が19.3%と好みが分散しています。「ランドセル購入に関する調査2021年」【グラフ提供: 一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会】
一方で子どもが決めたランドセルの色やデザインに対して、「飽きそう」「汚れそう」などの懸念から親が反対することもあるようです。その中でも他者が関わる「みんなと違うから周囲の反応が親として心配」というのは難しい問題です。
確かに、子どもたちは他の子のランドセル本体の色だけでなく、ふちやステッチの色、デザインなどをよく見ていて、入学式やクラス替えのある4月は、ランドセルがクラスや集団登校の班でよく話題になっています。
1年のうちごくわずかな期間ではありますが、「何で女の子なのに黒なの?」と聞かれて傷ついたり、ひとりだけ違うことをからかわれて落ち込んでしまうこともあります。たとえ「みんなと違ってきれいだね」というほめ言葉であっても、その「違い」を気にしてしまう子もいます。
ですから、たとえば“男の子のピンク”などベーシックカラーと離れた目立つ色やデザインのランドセルをお子さんが選んだとき、親は、好きな色を自由に選んでほしいと思う一方で、子どもに何かあったらどうしようとモヤモヤしてしまうのでしょう。
ランドセル選びで親と子の意見が分かれたら、どうすべき?
では、ランドセルの色やデザインについて親子の意見が分かれたとき、どう対処すればいいのでしょうか。全てに共通する前提は、子どもの意見を否定せず、受け止めること。その上で、子どもの意見に沿う方法を一緒に考えてみることです。そのためには、まず親が「なぜそのランドセルではだめなのか」をよく考え、その理由を正直に話しましょう。ポイントは、勢いで返事をしないことと、嘘をつかないことです。
子どもの選択に動揺した状態では、冷静な判断はできません。落ち着いて考えてみると、子どもの好みでよいと思えることもあるでしょう。また、たとえば説得するために「小学校の決まりでダメなんだよ」などと嘘をつくと、入学後、自分の欲しかったランドセルを持っている子を見て、お子さんがショックを受けてしまうことがあるかもしれません。
その上でケース別の対処法をご紹介します。
■反対例1. デザインなどが飽きそう
ランドセルを選ぶ少し前に6年生や中学生の姿を見かけたら、「あのくらい大きくなるまで使うかばんを選ぶんだよ」と教えてあげましょう。年長さんにとって、未来を想像するのは難しいものですが、実際に成長した姿を見てみると「かなり大きくなっても使う」ということがはっきりわかるようです。購入時には、6年間大事に使う約束をするといいですね。
また、装飾やキャラクターの子どもっぽさが心配な場合は、園時代に好きだったキャラクターやアニメの変化があれば、それを例に挙げるとわかりやすいと思います。
とはいえ、もしかしたら飽きてしまったことも含めて、よい思い出になることがあるかもしれません。ある6年生は「3年生くらいからこのキラキラが子どもっぽくて嫌だったけど、卒業したらもうこういうかばんは使わないと思ったら、またなんか好きになってきた」と嬉しそうに話してくれました。
■反対例2. その色だと汚れが目立ちそう
大切に扱うことと、きちんとお手入れをするという約束をしましょう。店頭で購入するときやオンラインの相談会などでは、お手入れの方法を親子で一緒に聞くと効果的です。メーカーにより、傷になりにくいラインがあることもありますから、相談してみてもよいでしょう。
■反対例3. みんなと違うため周囲の反応が心配
まずはできる限りフラットな視点をもつよう心がけてください。その上で、いじめやからかいが心配であることを説明しましょう。ゆっくりていねいに話せば、なんとなくでも理解してくれる子、わからないなりに大人の真剣さを受け止めてくれる子などは多いものです。
色を選び直す場合、本体はベーシックカラーを選び、内側ステッチやかぶせ、内側などに、お子さんの好きな色の使ってあるものを選ぶなど、それぞれの意見を上手にすり合わせましょう。
また最近は、村瀬鞄行の「レザーボルカプレミアム」や土屋鞄製造所の「RECO」など、カラフルでも落ち着いたトーンのランドセルもありますから、そちらもおすすめです。
村瀬鞄行の「レザーボルカプレミアム」
しかし、このように話をした後でも子どもの意思が変わらなければ、そのまま全力でサポートすることをおすすめします。お子さんにとって「自分で選んだランドセルで学校に通う」という喜びは、そのまま入学への期待となるでしょう。
また、お子さんが最初選んだものから変えることになったとしても、きちんと話をしたという経験は、親への信頼を深め、自分の気持ちや考えを大事にすることにつながります。
ランドセルの色選びとジェンダー・バイアス
ランドセル選びでお子さんと意見が分かれて初めて、私たちを取り巻くジェンダーの問題について考えたり、自分の中のジェンダー・バイアスに気づいて戸惑ったりした人もいるかもしれません。ただ、どんなに親がジェンダーフリーな子育てを心がけていたとしても、子どもたちは、生まれる前から身のまわりの色やおもちゃ・遊びなどで男女を区別されているというのが、私たちの社会です。そのため幼児であっても、「女の子とは一緒に遊ばないよ」「〇〇は男の子なんだから、お姉さん役はできないよ」などと言い、性別や色のもつイメージにこだわって、自分やお友だちの言動を制限することは珍しくないのです。病院などに置いてあるスリッパなどを男の子は水色、女の子はピンクを自然と選ぶのは子育て中に目撃しやすい例ですね。
「わかりやすいように」という気遣いが、男女の色の違いを刷り込んでしまう結果になってしまうこともあります
子どもは、大人が思うよりもずっと周囲をよく見ていますし、その期待に沿う態度をとろうとしてしまいます。そして、「男の子らしさ」「女の子らしさ」を理解し、周囲になじむ「こうあるべき」姿をも身につけてしまっているのです。
同調圧力やジェンダーから自由に!
今は、ランドセルが赤と黒の二色だった頃に比べて選択肢が増えた分、性別に対して違和感のある色を持つ子は減っているのかもしれません。色のイメージそのものも変化していて、ヒーロー・消防・こまち(新幹線)を連想させる赤は、男の子でも選びやすくなっていますし、おしゃれな黒を持つ女の子も増えてきています。とはいえ本当に目指したいのは、何かを選ぶときに周囲の反応を気にして大丈夫かと心配したりせず、好きなものを自由に選ぶことのできる社会ではないでしょうか。
近年は、ジェンダーによる行動の制限や「みんな同じようにすべき」というプレッシャーに反対する動きも、世界的に高まっています。
たとえば「ピンクシャツデー」は、カナダでピンク色のポロシャツを着て登校した男子生徒がいじめられたことを聞き、上級生が起こしたアクションから始まりました。今では180の国や地域でいじめに反対する活動が行われています。
また2020年台湾でも、男の子がピンクのマスクをつけて学校に行き、からかわれるということがありました。けれど、それを聞いた閣僚や国会議員がピンクのマスクをつけたり、企業がロゴをピンクに変えたりすることがあり、「#colorhasnogender」(色にジェンダーは関係ない)というハッシュタグと共に、SNSで広がりました。
ジェンダーや周りの考え方に関係なく、誰もが自分らしくいられる生きやすい社会を目指すことは、今の世界の大きな流れでもあるのです。
ランドセル選びはごく個人的なことですが、思いがけず「こうあるべき」という社会の壁を感じることがあるかもしれません。そんなときには、身近で理不尽なルールや階級や人種などの差別や偏見について、親子で改めて考えてみていただきたいと思います。
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