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制服で「つらい思い」をしない社会へ… 広がるジェンダーレス制服・選択制、変える学校文化の「普通」

トランスジェンダーの子どもたちへの配慮や、猛暑・新型コロナウイルスへの対策として、学校制服の「選択制」が増えてきています。制服・私服、それぞれのメリットやジェンダーレスな制服、近年の動きなどをご紹介しながら、これからの制服のあり方についてお伝えします。

高橋 真生

執筆者:高橋 真生

子育て・教育ガイド

学校制服の必要性、アンケート結果は「あった方がいい」が約9割

ジェンダーと制服

ジェンダーや気候の問題から、私服通学や制服選択制を取り入れる学校が増えてきました

近年、トランスジェンダーの児童・生徒への配慮から、ジェンダーレスな制服を採用する学校が増えてきているのをご存じでしょうか。猛暑や新型コロナウイルスへの対策、好みの尊重などから、私服通学や選択制を取り入れる学校もあり、制服の必要性についての議論も活発に行われるようになりました。

文部科学省でも2015年4月、全国の学校に対して、自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める事例を掲載した「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」(※1)を通知しています。

けれども、「学校制服の必要性」アンケート(菅公学生服株式会社、2019年)によると、学校制服が必要だと回答した人は、「あったほうがいい」「どちらかと言えば、あったほうがいい」を合わせた約9割に上りました(※2)。

制服は本当にあった方がいいのか――今回は、ジェンダーの問題を中心に、制服・私服・選択制・男女統一化といった、学校での服装のあり方について考えていきます。
 

制服、私服……それぞれのメリット

まずは、制服と私服、それぞれの利点を整理しましょう。

■制服のメリット
  • 毎日の服装に悩まなくていい
  • 経済的である(私服を多く買わなくていい)
  • 服装による個人差(貧富・センス)が生まれない、いじめが起こらない
  • どこの学校かわかり安全である、校内で部外者が一目でわかる
  • 冠婚葬祭・受験にも着られる
  • 公私のけじめがつく
  • 愛校心を育む、所属意識が高まる、憧れの対象となる
■私服のメリット
  • 服装について考える力がつく
  • 経済的である(制服より安価・ソックスなどの小物も安価なものを選べる・制服の場合、特にきょうだいの入学が重なると大きな出費になる・制服と私服の両方を買わなくてよい)
  • 男女差が生まれない(自転車通学にスカートをはかなくてよい、女子だけ小物が指定されることがなくなる)
  • 犯罪に巻き込まれにくい(※3)
  • 天候・気温に対応しやすい
  • サイズや体質など身体に合ったものを選べる(制服の場合、身体に合うサイズがないと特注になってしまう)
  • 気軽に洗濯ができ、衛生的である
以上の例からも、服装についての個人の価値観がさまざまで、制服に関する思いや問題も複雑に絡み合っているため、これらを制服か私服かの二択で解決するのは難しいとわかるでしょう。
 

「選択制」が広がるも、「選べない」「選びづらい」という現実

そこで次に「選択制」の例を見ていきます。個人の選択肢を増やす選択制ですが、何をどう選べるのかは、学校によってかなりの差があります。

■制服の組み合わせを選べる
  • 制服の組み合わせを好きなように選べる
  • 個別対応により、好きな制服を選べる
  • 女子は、スカートとスラックスを選べる(男子はスラックスのみ)
■制服を標準服とし、私服と選べる
  • 組み合わせ自由の制服(標準服)か私服の好きな方を選べる(制服は買わなくてもよい)
  • 通常は、制服か私服の好きな方を選べる、式典のみ制服着用必須
■季節・期間限定対応
  • 猛暑対策として、夏服のみ私服着用可
  • 新型コロナウイルス感染防止策として、私服着用可もしくは原則私服着用など
上記の例は、ごく一部ですし、学校により細かなルールが定められていることもあります。
ジェンダーと制服(スカート)

スカートの下にジャージをはくのは、「寒いから」「自転車に乗るために」という声はよく耳にします。ジャージをはいてはいけないという指導よりも、根本的な問題の解決の方が大切なはずです

また、選択制であっても「選べない」「選びづらい」ものがあることがわかります。特に、制服を男女別とし着用を義務づけた上で、「身体的・心理的理由がある場合は個別対応で選択可」というのは、選択制といえるのかどうか考えざるを得ません。

トランスジェンダーだけではなく、体の性と表現する性(見た目や言動など、自分をどのように表現するかで分けられる性)とが違う子どもたちも含め、制服の選択がそのままカミングアウトになってしまうのでは、相談すらできないこともあるでしょう。さらに「異装届」などを提出する場合、まずは保護者の理解が必要になりますが、家族に話せない、保護者に認めてもらえないという子もいるはずです。

また、女子のスラックス着用などまだあまり一般的でない選択は、周囲の目が気になってしまっても、無理はありません。
 

学校の服装、最も大切なことは何か?

こういったことから、組み合わせ自由の制服(標準服)を決めて私服と選べる選択制は、制服派・私服派の両方を尊重した上で着用するかしないかを個人で判断でき、不要なストレスを防げるという意味で、よい方法だといえるでしょう。

大切なのは、制服によって行動を制限されてしまう人がどうしたら自由になれるのか、ということです。貧困による格差については福祉や社会保障の視点から考えたいですし、違いをないものとするために制服を採用するのではなく、どんな形も認め合うような環境を目指したいですね。

なお、「普段は私服通学で、念のために制服も用意しておきたいが経済的に厳しい」というときには、制服リユースがおすすめです。専門のショップもPTAが主催している学校も増えています。お下がりが禁止の学校や、新品でないとかわいそうという声も耳にしますが、制服のあり方に合わせて、こういった点も少しずつ変化していくのではないでしょうか。
 

制服そのものを、快適でジェンダーレスに

一方で、制服には多くの利点があるため、私服から切り替えた学校もあります。学校にはそれぞれの校風や思想もありますから、制服を採用するすべての学校がよくないというわけではありません。

近年は、学校にも変化が見られ、精神的にも身体的にも子どもたちに負担をかけないよう、性差を感じさせず、動きやすい制服が選ばれ始めています。

大手学生服メーカーであるトンボでは、下着の透けないシャツ、体のラインが強調されない「フリースラックス」や、動きやすく家庭の洗濯機でも洗えるニットジャケットなど、ジェンダーレスなだけではなく、「自分の気持ちに合ったスタイルを自由に選べる」制服を開発し話題となっています。
ジェンダーレス制服(トンボ)

ネクタイとリボン、スラックスとスカートなどを自由に組み合わせられる制服。ファスナーで開閉するブルゾン風ジャケットは、ジャケットのように、前合わせが気になりません【写真提供: 株式会社トンボ】

また、姫路市立山陽中学校(兵庫県)では、2021年度から男女ともにブレザーとスラックスを標準制服に採用しました(希望すれば、男女共スカート着用可)。
 

変わる「常識」、変える「普通」

最近では、「ブラック校則」が国会で取り上げられるなど、制服や校則が大きな話題となっています。そして、それらを変えていこうという動きも強まっています。

公立高校教員・西村祐二(筆名・斉藤ひでみ)さんは「制服か私服か自由選択を」とオンライン署名を求めており、2021年5月現在で1万9千人を超える人数が賛同しています。

また、2021年1月28日に、日本若者協議会では、校則見直しや学校運営において生徒の声が反映されていない現状を変えるため、高校生・大学生が中心となり「校則の改正プロセス明文化」などを求める提言書を文部科学省に提出しました(※4)。

さらに同年4月には、NHK WEB特集「僕がスカートをはく理由」では、LGBTの視点を取り入れ、制服を自由に選べる広島県立加計高校で、スカートをはいて過ごしている久保さんが紹介されました(※5)。「性別ないです」とTwitterのプロフィール欄に書くモデルの井手上漠さんも、「普通とは何か」を問いかけるフォトエッセイ『normal?』で、自身が取り組んだ制服改革について語っています。
  トランスジェンダーの生徒の性別違和を、学校文化の中にあるジェンダーとの関係から分析した論文では、「トランスジェンダー生徒のジェンダー葛藤軽減のためには、学校自身が自らの性別分化を問い直し、変容すること」が必要であることが示されています(※6)。

ジェンダーの問題に限らず、学校は、自由を制限すること、目的や意義の不明なものに関しては、きちんと根拠を示し、必要に応じて変える機会を設けるべきです。

これらの事例は、さまざまな面でつらさを抱える子どもたちを勇気づけるものでありますが、誰にとっても、変える必要のあることは、適切な手続きを踏むことで変えられるという、前向きな学びを得ることができるものでもあります。
 

制服も社会もアップデート! 好きなものを自由に着られる社会を

学校が変わり、制服を自由に選べるようになっても、家族や社会の理解がなければ「本当に好きなものを好きなように着る」のは難しいものです。たとえば、体の性が男の子のスカート着用は、たとえ私服であっても、今の日本ではハードルが高いでしょう。

そこには、社会の規範意識や同調圧力などさまざまな問題とつながる課題があります。ですから、制服について考えることを、子どもを育てている人、教育関係者だけの問題ではなく、社会の本質的な改善に向かうきっかけとしてほしいと思います。

ジェンダーだけでなく、自分と異なる人に対する無意識の偏見や差別、また「知らないこと」が人を傷つけたり排除したりしている可能性を認識し、「すべての人が生きやすい社会」について考えていきたいですね。

【参考資料】
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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