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改正コロナ特措法とは……感染者の入院拒否・虚偽報告に過料も

【医師が解説】「改正コロナ特措法」が施行されました。新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えるための「まん延防止等重点措置」が新たに設置され、「改正感染症法」では、入院拒否や入院先からの逃亡、虚偽報告などに過料が科されます(刑事罰の罰金刑とは異なる行政罰)。医師として気になる法改正に期待することと課題を含めて解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

新型コロナウイルス感染症拡大が続く中、「改正コロナ特措法」が施行

新型コロナウイルス感染症に対する特措法とは

新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えるために施行された改正コロナ特措法とは?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者、重症患者は依然多い状況が続いています。新規感染者が増えると重症患者も増え、重症患者は長期間の治療が必要となるため、医療資源やスタッフは多くの時間と力をコロナ患者の対応に割くことになります。そのため新型コロナウイルス感染症以外の疾患に対しての診療にも支障が出ている状態で、現在の医療現場は厳しい局面になっています。

日本は欧米と比較して緊急事態宣言による規制が強くない点が指摘されていましたが、それでも感染者のピークが下がっているのは、日本国民が努力してきた結果と言えるでしょう。しかし、今現在、入院したくてもできない状況での法改正には議論のあるところかもしれません。施行された特措法の変更ポイントと、医師から見て期待できると思う点、気になる点を挙げたいと思います。
 

「改正コロナ特措法」と合わせて「改正感染症法」などは……入院拒否や虚偽報告には行政罰の過料も

「コロナ特措法」は、正しくは「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)」と言うものです。もともとは新型インフルエンザに対する法律に、2020年に新型コロナウイルス感染症を追加したものです。

「改正特措法」では、「まん延防止等重点措置」が新たに設置されます。緊急事態宣言発令前の段階でも、都道府県知事は営業時間の変更などの緊急事態宣言時に近い措置が取れるようになります。

「まん延防止等重点措置」では、都道府県が飲食店などの店舗や施設に対して
  • 従業員への検査受診の勧奨
  • 入場者の整理
  • 発熱などの症状がある人の入場の禁止
  • 入場者へ感染防止のための措置の周知と、それを行わない人の入場禁止など
が措置としてできることになりました。

「緊急事態宣言」は、感染状況が最も深刻なステージ4に相当し、「まん延防止等重点措置」は、ステージ3に相当します。

同時に、感染症法も改正されました。感染症法では、指定感染症の場合、緊急事態宣言下でなくても、入院を拒否したり、入院先から逃げたりした感染者に対しては、50万円以下の過料が科されます。これは、感染拡大を防ぐために、感染者を隔離するためです。過料は刑事罰である罰金刑と異なり、行政罰ですので、いわゆる前科がつくわけではありません。とはいえ、最高50万円の支払いが命じられる厳しい罰と言えます。
 
参考までに、過料は行政罰ですが、科料は刑事罰で、前科となります。科料は罰金刑より金額が低く、1000円以上1万円未満となります。

同じく、保健所による感染経路を割り出す疫学調査に、正当な理由なく応じなかったり、虚偽の申告をしたりした場合には、30万円以下の過料が科されます。感染者との接触者を調査し、感染経路を特定し、早期に感染者を発見して隔離していくことで、クラスターと呼ばれる集団発生、パンデミックと呼ばれる社会全体の発生を防ぐことを目的としています。感染拡大を防ぐためにも正確な調査は必要です。

「改正特措法」では、緊急事態宣言下で時短や休業の要請に応じない事業者への命令が可能となり、命令に違反した場合は30万円以下の過料を科すことになりました。

また、飲食店など人と人の集まる事業による感染拡大を防ぐために時短が要請されることがありますが、まん延防止等重点措置下で事業者が時短違反をした場合、20万円以下の過料を支払わなくてはなりません。これまでの罰則のない「協力要請」とは異なり、行政罰がある「命令」になります。

さらに、「検疫法」の改正も行われ、海外からの入国者に対して自宅待機を要請することに対する規定が明確化されました。これにより、自宅待機に対しても法的根拠が示されることになりました。新型コロナウイルス感染症のように、海外で発生した感染症が国内で流行しないように、また、流行の時期を遅らせるために行われる、いわゆる水際対策の一つです。
 

改正特措法による変更の意味・そのメリットと課題

今回の法改正によって、今回の新型コロナウイルスはもちろん、今後未知の感染症が出た場合、社会における感染拡大防止のために個人の協力を「義務化」したと言えます。前項で詳述の通り、感染者は入院などの隔離状態になり、感染させてしまった可能性のある人を申告する義務が生じます。事業者の場合は、人同士の感染機会を減らすために事業の縮小などを行うことになります。海外からの渡航でも隔離状態になることになります。
 
この法改正のメリットは、感染初期の段階であれば感染拡大を防ぐ効果が発揮できることです。

しかし、ある程度、感染が拡大してしまうと、現在起こっているような入院したくても入院できない状態が起こるでしょうし、隔離も現実的にどこまでできるのかわかりません。また、調査において人間関係の問題やトラブルが生じる可能性もあります。事業縮小による経済的損失はどう評価し、どう対応するのかなど、この改正によって生じる問題への対策がまだ明確でない点は課題であると言えます。
 

法の力で感染拡大を抑えるとともに、感染者差別を生まない意識も大切

「改正感染症法」では、行政は医療機関に患者の受け入れを勧告できるようになり、正当な理由がなく患者の受け入れを拒否した場合には医療機関名の公表も可能になります。しかし、これによって医療機関が提供できる医療を維持しきれなくなり、医療機関自体が減少すれば、結局診療できる機関がさらに減ってしまうことになります。医療機関間での役割分担の方が大切です。

感染症対策は複雑で、感染拡大の段階によって対応が異なってきますし、感染症によっても対応が異なります。既存の法律だけで対応が難しい場合は、今回のような法改正や法律の制定が必要と思いますが、法律よりも「法律をうまく実効あるものに運用していくこと」が重要であると考えられます。例えば今回の新型コロナウイルス感染症においてはステージ段階が作られていましたが、ステージ4になった時点で早期に対応ができていたかという点も疑問が残ります。

また、今回の法改正では、個人の自由が制限される可能性があります。感染症拡大防止という公的目的において私権が制限されることはあるといえ、法律の名のもとで、権力者による恣意的な運用が行われないことを切にお願いしたいと思っております。感染者は悪ではありません。特に飛沫感染では、誰でも感染するわけですから、隔離が感染者の差別にならないことを切に願っております。
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