MNOから回線を借りてサービス提供するMVNO
低価格でスマートフォンが利用できるサービスとして、2015年頃から大きな注目を集めるようになった「格安スマホ」と呼ばれるサービス。そうしたサービスを提供する企業の多くは、実は「MVNO」と呼ばれる形態の企業なのです。MVNOとは「Mobile Virtual Network Operator」、日本語で言うと「仮想移動体通信事業者」ということになります。これに対してNTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの携帯電話会社は「MNO」(Mobile Network Operator、移動体通信事業者)と呼ばれるのですが、大きく違うポイントは「Virturl」の部分にあります。
MNOは多くの人がイメージする通り、国から電波の免許割り当てを受け、基地局やアンテナを自ら敷設して携帯電話のサービスを提供しています。ですがMVNOは電波の免許も基地局などの設備も基本的に持っておらず、MNOからネットワークの一部を借りて携帯電話のサービスを提供している“仮想”の事業者だという点が大きな違いなのです。
全国津々浦々に基地局を整備するのは非常に手間がかかる上に莫大なコストがかかります。ですがMVNOはそうした投資コストをかける必要なくサービスを提供できるため参入しやすく、既に1000を超える企業がMVNOとして参入しているのです。 中でも100万契約を超える大手としては、オプテージの「mineo」やインターネットイニシアティブの「IIJmio」などが挙げられます。また知名度のある企業のサービスとしては、イオンリテールの「イオンモバイル」やソニーネットワークコミュニケーションズの「nuroモバイル」などが挙げられるでしょう。
非常に安いMVNOの料金プラン、その理由は
MVNOが提供するサービスの最大の特徴は、やはり非常に安い料金でスマートフォンが利用できるプランを提供していることではないでしょうか。一例として2021年1月時点でのmineoの料金プランを見ますと、音声通話とデータ通信が利用できる「デュアルプラン」の場合、例えばデータ通信量3GBで月額1510円(Aプラン)から、6GBで月額2190円(各税別)からと、通信量は少ないですが非常に安いことが分かります。 なぜそれだけ安い料金を実現できるのかといいますと、先に触れた通りMVNOはMNOからネットワークを借りてサービスを提供するため、莫大なネットワーク整備コストがかからないことが理由の1つ。そしてもう1つ大きな理由となっているのが、多くのMVNOは独自のショップを持たないということです。「NTTドコモ」「au」「ソフトバンク」といったMNOのメインブランドは、全国津々浦々に自社のショップを構えて販売やサポートをしています。ですが実は、そのショップの賃料やスタッフの給料などに非常に大きなコストがかかっており、毎月の携帯料金にはショップ運営コストも含まれるため料金が高くなる傾向にあるのです。
そこで多くのMVNOは、契約やサポートにオンラインを積極活用し、コストがかかるショップを持たないことで料金を安くしているのです。NTTドコモの料金プラン「ahamo(アハモ)」が契約やサポートをオンラインに絞ることで安価な料金を実現し、話題となりましたが、多くのMVNOはそれと同じ仕組みを採用しているからこそ料金が安い訳です。 【参考記事】
・ドコモの格安プラン「ahamo」のメリットとデメリットを整理、注意点は?
MVNOの弱点はサポートと通信速度
ただ裏を返すと、MVNOのサービスは実店舗での手厚いサポートが期待できないことにもつながってきます。それゆえMVNOのサービスは基本的に、手厚いサポートを必要としないスマートフォン上級者向けである点に注意が必要です。例えばサービスを契約して実際に通信ができるようにするには、SIMをスマートフォンに挿入してAPN(Access Point Name:アクセスポイント名)を設定したり、iPhoneであれば構成プロファイルをインストールしたりするなどの操作が必要です。ここに出てくる行為や単語が理解できない、あるいはやり方を自分で調べられない人に、MVNOのサービスはあまりお勧めできません。
そしてもう1つ、注意が必要なのが通信速度です。MVNOはMNOからお金を払ってネットワークを借りていることからMNOよりネットワークの幅が狭く、昼休みや朝夕の通勤時間帯など、多くの人がスマートフォンを利用しネットワークが混雑しやすい時間帯は通信速度が極端に低下してしまいやすいのです。
それゆえ混雑しやすい時間帯はスマートフォンを利用しない、あるいはWi-Fiなど他の通信手段を利用するなどの工夫が必要になります。そうした意味でもやはり、スマートフォンの使い方を熟知した人でないと使いこなすのが難しいといえるでしょう。
「サブブランド」はMVNOではなくMNO
ちなみに「格安スマホ」と呼ばれるサービスの中には、MVNOだけでなくMNOが直接提供しているサービスも存在します。その代表例が「ワイモバイル」です。ワイモバイルはMNOであるソフトバンク自身が提供している、俗に「サブブランド」と呼ばれるものの1つで、料金はMVNOよりやや高いもののショップでのサポートがありますし、通信品質もメインブランドの「ソフトバンク」と同等で、昼休みも通信速度低下が起きにくい。MVNOと同じ「格安スマホ」の枠組みで括られることが多いのですが、あくまでMNOなので内容にはかなり違いがあります。 また最近の動向を見ていると、MVNOがMNOのサブブランドとなるケースが増えているようです。実際2020年10月には、UQコミュニケーションズがMVNOとして提供していた「UQ mobile」がKDDIに吸収され同社の1ブランドとなっていますし、2021年3月にはソフトバンクが、傘下のMVNOであるLINEモバイルを吸収して「Softbank on LINE」というブランドコンセプトの低価格サービスを提供するとしています。こうした動きが相次いでいるのには、MNOが傘下のMVNOのノウハウを生かして低価格サービスを強化する狙いが大きいようです。
そしてもう1つ、楽天モバイルも同社は元々MVNOとしてサービスをスタートしたのですが、その後電波免許を獲得しMNOとして2019年に新規参入するに至っています。このようにMVNOとMNOを取り巻く環境は、目まぐるしく変化していることも知っておくとよいかもしれません。 【参考記事】
・「ahamo」で激変、携帯大手3社の料金プランの行方を占う
・5Gからahamoまで、2020年の携帯電話業界を振り返る
・5Gとは? 4G対応のスマホでも使えるの? 3つの特徴を徹底解説!