爪甲鉤彎症とは
足の親指の爪が盛り上がり、厚く硬くなっていく病気・「爪甲鉤彎症」。クリニックの診療では、パンプスなどによる圧迫や外傷後の方によく見られます(画像はイメージ)。
爪甲鉤彎症の症状・症例画像
爪甲鉤彎症では、爪の伸びが他の指と比べて遅いことを初期症状として自覚することが多く、症状が出るのはほとんどが足の親指。 爪の表面に数本の横筋が現れ、その数が増えていきます。爪の先端に数本の横筋がある
多数の横筋や爪の混濁肥厚がある
通常、爪甲鉤彎症は痛みはありませんが、重症になると靴にあたることで痛みが出たり、著しく湾曲変形をした爪が親指の皮膚を傷つけたり、小指側に曲がって隣の指の皮膚を傷つけたりすることがあります。
病院を受診される方の理由としては、「爪が濁って見た目が悪くなってきた」「爪水虫ではないか心配」「爪が硬くて普通の爪切りでは切れない」「変形した爪が当たって痛む」「痛くて靴が履けない」などです。
変形が進み、靴が履けない状態になることも
爪甲鉤彎症の原因は「足先への過度な負担」?
それでは爪甲鉤彎症の原因は何でしょうか。海外の文献には下記のようなものが原因として挙げられています。- 皮膚科疾患(魚鱗癬、乾癬、爪真菌症、梅毒、天疱瘡、痘瘡など)
- 局所の要因(ケガ、靴、外反母趾、下肢静脈瘤、血栓性静脈炎、象皮症、末梢神経障害)
- 全身の要因(老化、認知症、神経障害、高尿酸血症)
- 遺伝性の要因
爪甲鉤彎症の原因
具体的には、
- パンプスなどの幅の狭い靴による慢性的な圧迫
- スキー、サッカーなどのスポーツで爪を傷めた
- 重いものを落として爪が取れた
またこの病気の患者は女性が多いとされ、当クリニックでも9割が女性でした。これはパンプスなどの窮屈な靴が強く影響していると考えられます。年齢は20歳代から徐々に増加し、その後幅広い年齢層に広がっています(表2参照)。
爪甲鉤彎症の9割が女性
爪甲鉤彎症の発生機序
では、外傷や爪手術などの影響で爪が剥がれた後は、なぜ変形した爪が生えてくるのでしょう。爪がない状態で歩くと、指の先端の骨がない部分の柔らかい組織が上に持ち上げられるとともに、骨の先端も上に持ち上げる方向で負担がかかり続けます。その結果、指先にポテッとした盛り上がり(bulging)が出来て、爪がそれより先に伸びることを妨害してしまうのです。先に伸びることを妨害された爪は当たった爪の先端から分厚くなり、爪の根元方向へ向かって爪全体が徐々に厚くなっていきます。しかし、それだけでは説明のつかないケースもあり、明確な発生機序はわかっていません。
爪甲鉤彎症の治し方・治療法…希望・状況に合わせて選択を
上記の通り、爪甲鉤彎症はまだはっきりとした原因が解明しきれておらず、わかっていないことも多いため、治療も難しいのが現状です。いくつかの治療は試みられていますが、現時点では確実に治せる良い方法は残念ながらありません。そもそも診断も難しいことがあり、正しい診断に辿り着かない場合もあると推測されます。当院では爪を専門としているため、いらっしゃる患者さんの多くは複数の病院を受診された経験があり、「長年爪水虫の治療をしているけれど全く変化がない」「病名は不明と言われた」といった理由から来院されます。爪水虫で爪の伸びが遅くなることはないですし、鑑別は難しくありませんが、これら2つは合併することもあるので、状況が複雑になりがちなのです。
とはいえ、この病気の主な症状は爪の「見た目の悪さ」であって、爪を上手に削っていれば、日常生活に差し支えはありません。見た目の悪さにさえ目をつぶれば、圧迫を避けながら様子を見ても大きな問題はないのです。
痛みなどの理由で治療を希望される場合は、以下のような方法があります。
1.爪甲部分除去
分厚くなった爪が靴の中で当たって痛い、またはそもそも爪が靴に当たって履けない、縦方向に巻いた爪が指先に刺さる、場合などは、その部分の爪を一部削ったり、切ったりします。爪が綺麗になるわけではありませんが、痛みはすぐラクになります。
2.抜爪+テーピング
爪甲鉤彎症では、ケガなどで爪が生え替わることをきっかけに、再び綺麗な爪が自然に生えてくることがあります。これを利用した方法です。
局所麻酔をして爪を抜き、新しい爪が生えて数ヶ月してからテーピングをします。テーピングをする期間は半年程度。多くの場合、抜爪後に生え始める爪は以前のような変形はなく、比較的綺麗です。しかし前述の様に、指先の皮膚の盛り上がり(bulging)に当たって爪の伸長が妨害されることで発症するので、その盛り上がりを抑える為にテープを貼ります。指先が平らになることで爪がより先まで綺麗なまま伸びることができます。
爪を抜くと言っても、爪甲鉤彎症は爪が指にくっついている部分が少ないので、正常な爪を抜く時と比べて出血や痛みはずっと少ないです。さらに麻酔をするので、抜爪自体は痛みもなく1分ほどで終わります。爪を抜くだけでは9割以上再発するが、爪を抜いたあとにこのテーピングをすることで6割くらいは正常な爪が生えてくる、という報告もありますが、治療法と呼ぶには確実性が低く、爪を抜いた後に生えてくる爪が生えはじめから分厚い場合もあるなど、積極的にはお勧めしにくいのが現状です。ただし、うまくいけば正常な爪にもどること、他の手術と比べて患者さんの負担が小さいことから、現状の有望な方法であることも事実です。
3.手術(爪床形成術)
皮膚に切開を加えて爪ごと持ち上げた後、爪の下の骨を平らにする手術です。「指先の盛り上がりの原因が骨にある」と判断された場合に行います。一部の医療機関で行われています。
4.手術(Zadik手術)
「爪をキレイにする方法がないのであれば、いっそ爪を生えなくする」という治療法です。爪を抜いた後に、爪の付け根の皮膚下にある爪を作る細胞「爪母」を取り除きます。こうすると、一生爪は生えてきません。爪がなくなってしまうことに抵抗を感じる方も多いですが、実際には日常生活に支障はありません。痛みが強い場合や、爪の見た目の悪さが深い悩みになっている方、介護を受けるので厚い爪を人に切ってもらうのが嫌だとおっしゃる高齢の方などが、この治療法を希望されます。
以下は自費診療となるため、限られた病院で行います。
5.人工爪(アクリル爪)
爪甲鈎弯症は治療が難しいのですが、痛みがなく見た目の悪さが主な問題の場合は、見た目を改善すれば患者さんの悩みのほとんどが解決する、という考え方もあります。それが人工爪(アクリル爪)です。変形した爪の大半を痛みの無い範囲で削り落とし、アクリル製の人工爪を装着します。これは治療ではなく、見た目の改善が目的となるいわば美容的施術です。定期的な付け替えも必要となります。「夏場にサンダルを履けない」「温泉やプールで靴が脱げない」などの悩みを持つ患者さん向けの方法です。痛みがなく、すぐに健康に見える爪を取り戻せるため、非常に喜ばれる施術でもあります。
爪甲鉤彎症の予防法
このように爪甲鉤彎症は治療が難しいため、予防が何よりも大切になります。具体的にはパンプスなどの幅の狭い靴による慢性的な圧迫や、足に合わない靴での長時間の歩行など指先へのストレスを避けることが大切です。軽症の場合は圧迫を避けることで自然に治る場合もあります。爪に変化を感じたらまずは専門機関でご相談下さい。■参考資料
・A Text Atlas of Nail Disorders: Techniques in Investigation and Diagnosis 3rd Edition Baran/Dawber/Haneke/Tosti/Bristow
・Baran and Dawber's Diseases of the Nails and their Management 4th Edition Baran/de Berker/Holzberg/Thomas
・爪 基礎から臨床まで 改訂第2版 東 禹彦 金原出版
・Visual Dermatology 爪疾患(2009 July Vol.8 No.7)秀潤社
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