「グループ外出向」が転職市場における市場価値に与える衝撃とは
最近、企業で働くビジネスパーソンの転職事情に大きな影響を与える衝撃的なニュースが流れた。去る2020年10月27日に全国で大きく取り上げられたニュースであり、それを目にした人は多かったと思う。その内容は、新型コロナウイルスの拡大で国際線を中心に航空需要が低迷する全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスが、業績を立て直すために発表した事業構造改革の中身である。衝撃だったのは、全日本空輸が年末までに100人、そして来春までに400人の社員を「グループ外」の企業に出向させるという部分である。「グループ内」での出向は、どこの会社でもよくある話だが、出向先が「グループ外」となれば、出向先の業界や仕事内容、職場環境などの格差は一気に広がる。
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異業種への出向が悪いことばかりということはない。多様な経験を積むことで新たな知見を得られるため、経験としてはプラスの面もあるはずだ。しかし、まだ本業での業務経験が浅い20代社員、そして定年までの会社生活の年数が短くなってきた50代以降の社員にとっては、グループ外出向を不安に思う人は多いのではないだろうか。特に、グループ外出向の経歴が、後に自分の職務経歴の中でどのような評価を転職市場から受けることになるのか、この点に不安を持つ人は多いことだろう。
30代や40代の社員が職場からいなくなる影響は大きい
では働き盛りの30代や40代の社員にとって、グループ外出向はどのような影響があるだろうか。30代や40代の世代は、どこの会社でも会社を実質的に動かしている中心の世代である。この世代が現場から外れてしまうことの影響は会社にとって大きいため、本来会社としては避けたいのではないだろうか。個人のキャリアとしても、最も会社への貢献度が高い時期にこそ、実績としてアピールできる経験を積むことができる。転職市場を意識した場合、ビジネスパーソンにとって30代や40代の仕事は特に大切である。そうした中で現場から離れてグループ外出向になったとしたら、何が起きるだろうか。
まず多くの人が直面するのは、それまで積み上げてきた特定の業務経験や仕事の実績を築くことへの機会喪失である。転職市場が重視する「豊富な経験と実績による会社貢献度」のアピールが不十分になり、「キャリアの持続性」による信頼感が薄れてしまうからだ。20代や50代と比較して、特に働き盛りの世代である30代や40代の社員がグループ外出向をすることは、転職市場における個人の市場価値を毀損させる懸念がある。
転職歴がない場合、「出向経験を転職経験」に見立てて評価する場合もある
実際、前述したANAホールディングスの事例で見た場合、発表されたグループ外の出向先候補には異業種の大手企業の名前が並んでいた。その業種や仕事内容を見て驚いた人も少なくなかったはずである。航空業界とは異なる業界、例えば通信、人材サービス、家電量販店、スーパーマーケットなどの名前が並んでいたからだ。これらの業界は、人材が十分に確保できていないことで知られる業界でもある。それがゆえに、双方のニーズが一致したということなのだろうが、実際にグループ外出向先候補が提示したのは次のような仕事である。
例えばデータ入力や資料作成などの事務、営業、コールセンター業務、店舗スタッフ、中には英会話講師というものもあるという。最大2年程度の出向というが、先のことがどうなるか、それは出身企業の業績次第であろう。
転職市場では職務経歴を確認されるが、「過去に転職歴がない人」が初めての転職を希望する場合、勤続年数の長い唯一働いたことがある会社のグループ内で経験した出向について、いわば本人の転職経験のように評価する場合がある。つまり、出向前後でしていた仕事は何か、どのような実績を残したか、そして新しい職場の人間関係やその職場での評価はどうだったかなど、環境変化の中でどのように新しい組織や仕事に順応し、会社に貢献したかを確認するのである。
このため、グループ内出向と比べるとグループ外出向の場合は、不透明なことが多く、以前の業務から大きく離れた業務につく可能性も高まることから、会社への貢献度と業務の持続性など、従来誰もが転職活動時にアピールすることがやりにくくなることが懸念される。
将来、転職活動をするつもりはなく、その会社で定年まで働くことを希望する人も多いと思う。しかし、将来転職を希望するかしないかということ以前に、現代は「終身雇用」という考え方が社会の中で薄まりつつある。だからこそ、転職市場で自分がどのような評価を受ける可能性があるかという視点は、当面転職をする予定があるかないかに関わらず、誰もが備えて置くべき視点ではないだろうか。
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