竈門 炭治郎(かまど たんじろう)
■炭「炭」という字は、山とガケと火を合わせ、山から得る燃料を表わします。もとは石炭のことであった可能性もあります。もちろん姓の「竈(かまど)」に合わせた字でしょう。
■治
治という字の右側の「台」は、腕で物を持ち上げる絵と考えられ、積み上げて固定することを表わします。サンズイをつけた「治」という字は河辺の堤防のことを表わし、「維持する」「おさめる」の意味で使われてきました。
■郎
郎という字の右側の「阝」は、もとは範囲を表わす記号と人が座る姿を描き、一定の場所や範囲を意味します。左側の「良」は何の絵か謎ですが、ものを洗う長方形のフルイとも考えられます。「長い」「より分ける」「まざる」「ぶつかる」などの意味をもち、またより分けられて質がいいという意味でも使われました。浪(ぶつかる波)、娘(きれいな女性)、狼(群れるオオカミ)、朗(きれいな月)という字も作られています。
「郎」という字は、長く伸びることを意味すると思われます。廊(長い通路)、螂(ウデの長いカマキリ)、榔(幹の長いヤシ)の字に含まれます。昔から家を存続させる跡継ぎを表わす言葉として使われ、やがて男性の名に多く入れられるようになりました。
竈門 禰豆子(かまど ねずこ)
アニメの中では「ネに爾」の字ですが、名前に使える正式な人名用漢字は「禰」です
禰という字の左側のシメスヘンは先祖に祈りをささげるための道具です。右側の「爾」は何の絵か謎ですが、組紐(くみひも)を作る絵とも考えられ、くっつくことをあらわします。「禰」という字は先祖にくっつくことから、親をまつる廟を意味します。いったん鬼になっても最後に家に戻るストーリーと合っています。
■豆
「豆」という字は、もとは小さな丸い容器を描いた絵ですが、容器に入れる木の実を意味する字として使われてきました。豊(容器がいっぱい)、短(背が低い)、頭(丸いあたま)の字にも含まれます。
■子
「子」は幼児を描いた字です。古代中国では孔子、孟子など男性の尊称であり、古代日本でも蘇我馬子、小野妹子など身分の高い男性の名に使われました。奈良時代より皇族の女性の名に使われ、明治時代より一般の女性の名に普及しました。
鬼舞辻 無惨(きぶつじ むざん)
■無「無」という字は、もとは舞と同じような絵で、もの不足や水不足のため、舞いをして先祖に祈る姿と思われます。
■惨
惨という字の右側の「参」は、頭を飾った人と光をあらわす「彡」を合わせた絵です。飾りつけることから、まじわるという意味で使われましたが、普通は自分から謙虚に近づくこと、また先祖におまいりすることです。滲(水がまじる)の字も作られています。リッシンベン(心)をつけた「惨」の字は、心が入り乱れることです。
無惨は鬼として登場しますが、鬼の字はもとは日本で言うようなオニではなく、死者を表わした字です。ですから鬼、無、惨は、どれももとは先祖と関わりのある字なのです。
我妻 善逸(あがつま ぜんいつ)
■善善という字は、もとは羊と言を合わせた字です。「羊」は、緑の草原で目立つためよく見えることを表わし、洋(見通せる海)、鮮(あざやかな色の魚肉)、詳(わかるように言う)、翔(ハデに飛ぶ)、養(きちんと食べさせる)、祥(祈りの結果があらわれる)などの字にも含まれています。「言」は刃物と口を合わせ、口でスパっと表現するという意味です。「善」という字は、隠さずに表現する意味と思われます。
■逸
逸という字の右側はウサギを描き、走りぬけることを表わし、晩(日が地下をくぐる)、勉(難関をくぐる)、娩(子が女性の体内をくぐる)の字にも使われています。シンニュウをつけた「逸」という字は、素早く脱出することです。
嘴平 伊之助(はしびら いのすけ)
■伊伊という字の右側の「尹」は、棒をもつ手を描き、指し示す、まとめるの意味であると考えられ、君(まとめる)の字にも入っています。ニンベンをつけた「伊」の字は、彼という意味の代名詞として使われてきました。
■之
「之」という字は、横線と足を描き、ある所から出発することを意味します。
■助
助の左側の「且」はモノが重なる状態を描き、組(糸をくみ合わせる)、祖(積み重ねた人)、姐(年上の姉)、租(穀物を積んでさし出す)の字に含まれます。右側の「力」はスキの絵ともいわれますが、太い腕とも考えられます。「助」の字は力を合わせることを意味します。
不死川 玄弥(しなずがわ げんや)
■玄「玄」という字は束ねた細い糸を描き、細かい、見えにくいということを表わします。弦(細い糸)、絃(細い糸)、眩(目がくらむ)などの字にも入っています。
■弥
弥という字の右側の「尓」は、古くは「璽」と書かれ、禰の字にもあった組紐(くみひも)のような絵と宝石を合わせ、紙にくっつけて押す国王の印鑑をあらわします。弓と合わせた「弥」は、効力をもたせることから、広まること、永く続くことを意味します。
煉獄 杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)
■杏「杏」という字は、木と木の実を描いたものと思われます。「実をつける木」という意味の字です。
■寿
「寿」という字は、老人と長い線と足を描き、長い年月を意味する字です。
■郎
「郎」という字は、炭治郎のところで述べた通りです。
産屋敷 耀哉(うぶやしき かがや)
■耀耀の左側は、頭にたいまつをつけた人を描いています。右側は羽と鳥を描き、鳥が羽をバタバタさせること、つまり往復運動をあらわします。曜(何度も来る日)、櫂(往復運動させるカイ)、濯(ごしごし洗う)、躍(おどる)などの字も作られました。「耀」という字は、さんさんと輝くという意味の字です。
■哉
哉の上の部分は、小さな木材とホコを描いたような絵で、細かく切ることを表わし、裁(布を切る)、栽(木を切る)の字にも含まれます。「哉」という字は、物品の絵と合わせて、物を細かく切る、加工するという意味を表わします。
冨岡 義勇(とみおか ぎゆう)
■義義の上側は「羊」で、やはり緑の草原で見えやすいので、「よく見える」の意味をもち、洋(見通せる海)、鮮(あざやかな色の魚肉)、詳(わかるように言う)、翔(ハデに飛ぶ)、祥(祈りの結果があらわれる)の字が作られました。下側の「我」はモノをひっかく道具を描き、「分ける」の意味で、他人と分けられる自分の意味でもあります。俄(突然あらわれる)、蛾(ハッキリした模様のムシ)、餓(食べ物と離れる)、峨(ギザギザの山)の字が作られています。「義」という字は羊と我で「けじめをつける」という意味をあらわします。
■勇
「勇」という字は、はじめはホコと牧場の出入り口を描いた絵で、「ホコをもってとび出す」という意味の字です。義勇とは正義による勇気をあらわす熟語です。
宇髄 天元(うずい てんげん)
面白いことに「天」も「元」も、人の頭の上に線を引いた絵で、人が前向きか横向きかの違いだけです。いかにも頭部を派手に飾った登場人物とつながる字です。天元は「万物のはじめ」を意味する熟語でもあります。■天
「天」の字は、頭の上を意味し、のちに空の意味で使われました。
■元
「元」の字は、人の頭そのものを強調し、「はじめ」「まとまる」の意味をあらわします。冠(かんむり)、頑(固くなる)、完(全体がまとまる)の字も作られています。
鋼鐵塚 蛍(はがねづか ほたる)
■蛍蛍の字の上側は、火と広い範囲を示す記号です。栄(火が広がるようにさかえる)、営(多くの建物を作る)、労(力を出す)の字に含まれます。虫と合わせた「蛍」という字は、火が広がるように見えるホタルの意味です。
世の中に見られない名前もあれば、昔や今の日本で見られる名前も
鬼滅の刃の登場人物の名前には、「無一郎(むいちろう)」「無惨(むざん)」「禰豆子(ねずこ)」のような、まず世の中でいくら捜しても見つからないだろうと思われるものがある一方、「伊之助(いのすけ)」「左近次(さこんじ)」など、昔の日本では見られた名前もあります。また、数は少ないけれども今の世にも実在する可能性のある名前もあります。例えば「義勇(ぎゆう)」は、義も勇も普通に名前に使われる字のため、この組み合わせは今もあり得ます。「実弥(さねみ)」は今風に読めば、ミヤとも読む名です。また、子だくさんの時代には五男によく「〇五郎」と書く名がつけられましたが、「慈悟郎(じごろう)」の悟の字はあまり使われていません。なお「柔道の父」「体育の父」と言われた嘉納治五郎と同じ呼び名になりますが、彼の場合は三男です。「玄弥(げんや)」は、ハルヤ、ヒロヤなどいくつもの読み方ができる名です。ゲンヤの名で実際によく使われるのは元哉、源也などの字です。「蛍(ほたる)」という名前はホタルの好きな人が女の子につけることがまれにあります。
また名前に使われている漢字とストーリーの関係性について、私が想像しても、無理なこじつけになるでしょう。例えば、「竈」や「炭」の字は、家の火を絶やさない象徴で、家を大事にする物語とつながるかもしれません。また「〇ジロウ」という名は、ほとんど「〇二郎」「〇次郎」と使われている中、おさめる意味の「治」をあえて入れた名は、ただ敵を全面否定してせん滅するのではなく、相手の存在も認めるという物語とつながるかもしれませんが、本当のところはわかりません。
また、名前で生き方を予測できないからこそ緊迫感のあるストーリーになるのではないか、とも考えられるのではないでしょうか。
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