亀山早苗の恋愛コラム

卒婚したい……50代、妻という役割で束縛する夫から解放されたい

50代となると、夫の定年もそろそろ視野に入ってきて「老後」を考え始める時期でもある。卒婚したい……このままの夫婦関係でいいのかと感じている女性たちも多い。そこに更年期だの双方の親の介護問題だのの要素も入ってきて、心身ともに疲弊していくケースも少なくない。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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そろそろ卒婚したいけれど……

そろそろ卒婚したいけれど……

そろそろ卒婚したいけれど……

50代となると、夫の定年もそろそろ視野に入ってきて「老後」を考え始める時期でもある。子どもたちが巣立てば、あとは夫婦ふたりきり。このままの夫婦関係でいいのかと感じている女性たちも多い。そこに更年期だの双方の親の介護問題だのの要素も入ってきて、心身ともに疲弊していくケースも少なくない。
 

“卒婚”という言葉が頭の中で渦巻く日々

「もうそろそろ、夫婦関係を解消したいのが本音なんですけどね」

いきなりそう言ったのは、ユキさん(54歳)だ。3歳年上の男性と結婚して27年。ふたりの子は26歳と24歳。いずれもすでに独立して、この2年近く、夫婦ふたりきりだけの生活を送ってきた。

「夫はどちらかといえば無口で、おもしろいことを言うわけでもありません。実直で悪い人ではないけど、長い結婚生活の間にはモラハラまがいの言葉も受けてきた。それを恨むつもりはありませんが、この年になると、もう妻という役割から解放されたいのが本音。私もパートで働いていますが、うちの夫は必ず夕食をとるので、友だちと食事にも行けないんです。子どもがいるときはそれもしかたがないとあきらめていましたが、夫だけならわざわざ食事を作らなくてもいい日もあるのではないか、そういう束縛が、もうつらくてたまらない。離婚せずに卒婚という手もあるのかなとずっと考えていました」

昨年暮れのことだった。ユキさんの父が突然、倒れたと連絡があった。脳梗塞で1ヶ月近く入院、リハビリも続いた。父は当時83歳、同い年の母も看病で疲れている。ユキさんは自分が行くしかしないと考えた。

「自宅から実家までは2時間ほど。妹がいるんですが、私よりさらに遠方に住んでいるんです。だからまずは私が行ってしばらくめんどうを見てこようと。夫に言ったら、あきらかにイヤな顔をして、『オレの生活はどうなるの?』と。洗濯くらいは自分でできるでしょ、クリーニング屋はどこそこ、ご飯を作らないなら近所のお弁当屋さんで買ってと、いちいち全部指示しました。自分が生活する術を自分でできないってどういうことなんだろうと考えながら。何かが間違っていますよね」

半ば強行する形で、ユキさんは実家へ。三度の食事や父の通院の手伝いなどであっという間に1ヶ月がたった。夫は一度も訪れてこない。子どもたちは何度か来てくれたのに。夫も見舞いがてら一度くらい来てくれるのではないかと期待していたユキさんの気持ちは砕かれた。

「それどころか、夫は私が連絡しないといっさいしてこないんですよ。LINEでメッセージを送っても返事はない。電話すれば出るんですが、父の容態を心配するでもなく、『いつ帰ってくる?』ばかり。もう帰りません、と何度言いそうになったか」

2ヶ月間、実家に滞在したユキさんは、介護ヘルパーの手立てもついたことでようやく自宅へと戻った。
 

荒れ放題の家で夫は……

覚悟はしていたが、2ヶ月間、不在にしたことで自宅は荒れていた。洗濯乾燥機の中は、すでに乾いた洗濯物がそのままになっており、蓋も開いている。おそらく下着等をまとめて洗濯して、そこからとって着ていたのだろう。

「料理をした形跡はありませんでした。冷蔵庫はお酒だらけ。酒瓶やカンもほとんど捨ててなかったようで、台所はゴミ袋の山。キッチンには綿埃がたまっていました」

家の中を掃除し、ベッドメイキングもすませた。夫のシーツなどの加齢臭に、ユキさんはなんともいえないせつなさを覚えたという。

「家庭なんて、たった2ヶ月でこんなにぼろぼろになってしまうんだな、と。何でもそうだけど、メンテナンスをしながら使わないと、あっという間にダメになっていく。夫婦関係もそうなのかもしれないと思いました。結婚生活において、私たちはそういうことをしてこなかった。気づいたときには、もう埋められない溝ができていたわけです」

その日、ユキさんは夫の好物を用意して待った。帰宅した夫は、テーブルの上を見てうれしそうだったという。

「長いことごめんなさいと謝りながら、私は自分の親の看護をしにいったのにどうして赤の他人のこの人に謝っているんだろうと不思議な思いでした。夫は『よくなってよかったな』と通り一遍の言葉を吐き、忙しくて行けなかったと言い訳をしました。そのとき、もう何もかもイヤになったんです。夫の食事が終わるのを待って、『離婚したい』と言いました。私は実家に戻りたい、と」

あわてたのは夫だった。まさか離婚を切り出してくるとは考えてもいなかったのだろう。見舞いに行かなかったことを、今度はくどくどと謝り始めた。

もう何もかもどうでもいい。離婚したいだけだとユキさんは言った。それが3月のこと。そこから急速にコロナウイルスの問題が大きくなり、離婚は棚上げせざるを得なかった。

「それきり離婚の話は私もしていません。夫はライフラインにかかわる仕事なので、自粛期間もいつも通り仕事に行っていました。私はパートを休んでいたんですが、そのまま雇い止めになり、家にいるしかありませんでした」

実家に戻って親のめんどうを見たい思いは変わっていないが、今になると東京から実家へ行くのも気が引けるような状態だ。

「世の中の事態が変われば、私たちも結論を出すところまでいくかもしれません。夫は離婚する気はなさそうですが。最近、夫がときどき帰りに私の好きな和菓子などを買ってくるようになったんです。それで気持ちが変わるわけでもありませんが、一応、お礼を言って食べています。なんだか……非常に虚しい日々が続いていますね」

身動きのとれない中途半端な状況は人の心を不安定にする。ユキさんは不安定な心を持て余したまま、なんとか日常生活を送っているという。

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