ボランティア

「分かち合い消費」の先にあるコロナから生産者を守る方法

コロナ禍の影響で多くの農産物や加工品が行き場を失いました。そんななか、混乱する生産現場を消費者の力で支えようとさまざまな支援サイトが立ち上がっています。この動きを通してこれまでとは違う流通システムの必要性が見えてきました。

筑波 君枝

執筆者:筑波 君枝

ボランティアガイド

SNSを通して買った一鉢の花

クレマチス

SNSを通じて買ったクレマチス。送料込みで通常の半額近い価格で購入


5月半ばのある日、見知らぬ番号からの着信で携帯が鳴りました。出てみると4月末にSNSを通して購入した花の生産者さんからでした。コロナ禍の影響をもろに受けて販売できなくなったギフト用の花を格安で購入したものです。
 
急きょ作ったショッピングサイトで受け付けたため混乱があったようで、発送したもののまだ届かないという声が寄せられたのだそうで、

「お1人、お1人に確認させていただいているのですが、無事届きましたか」

という内容でした。もちろん無事に届いていること、きれいな花で本当にうれしかったことなどを矢継ぎ早に伝え、お礼を言って切りました。
 
数百鉢がアッという間に売り切れたようなので、事務作業が煩雑になり、個人では対応しきれなかったのかもしれません。その確認作業は、普段の農作業とはまったく種類の異なる作業で、生産者の負担の大きさを改めて感じました。
 
被災地の特産品などを購入して支援する「食べて・買って応援」はすっかり定着した感がありますが、コロナ禍の下でこれまでにない盛り上がりを見せています。行事やイベント、宴会の中止、外出自粛による来店客や観光客の減少、さらには給食で使う予定だった食材など、計画的に生産してきた多くの収穫物や加工品が行き場をなくしたためです。こうした混乱した生産現場を市民レベルでなんとか支えようと、ネット上では生産者と直接取引をする購入サイトが多数立ち上がり、たくさんの商品が売買されています。
 
この消費の形を私は「分かち合い消費」と名付けました。

 

ボランティアが社会を変える

これまでボランティアや支援の在り方は、大災害などで動く“普通の人たち”によって大きな変化を見せ、ときに課題を浮き彫りにし、社会を変える動きにつなげてきました。
 
1995年の阪神大震災では全国から多くのボランティアが駆け付け、のちに「ボランティア元年」と呼ばれるほど大きなターニングポイントとなりました。当時のボランティア団体は基盤がぜい弱な任意団体であったため、しっかりとした組織にしようという動きが高まり、1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)の成立にもつながりました。
 
2011年の東日本大震災では、ネットを使った「家にいながらできる支援」が活発になりました。たとえば「ふんばろう東日本プロジェクト」。被災者が必要な物を発信、遠方にいる支援者がショッピングサイトで購入・発送手続きをし、宅配便で届けるという直接的な支援でした。多くの人が賛同し、日本最大級のボランティアチームとなりました。
 
同様の被災地支援プロジェクトは、サイトやSNS、電子メールなどを駆使し、次々に誕生しています。津波で被災した地域の隅々まで物資を届けることができるのは、インターネット時代だからこそであり、物流の発達している日本だからこそ可能となった支援の形でした。
 
「分かち合い消費」も家にいながらできる直接的な支援の延長線上にあります。購入する人の多くは「できる範囲で」と、協力していることでしょう。同時に自粛期間中に家にこもりがちだった消費者にとって、購入した品物が自身を癒すことにもつながっています。
 
私がフォローしているSNSのコロナ支援グループにも、生産者からの「助かりました」「ありがとうございました」というコメントに加え、消費者からの「自粛生活のなかで和みました」「自分で作るものに食べ飽きていたのでうれしかったです」といった内容が多くやりとりされています。さらに、双方から「お互いがんばりましょう」「必ず収束しますので、乗り切りましょう」といった励ましの言葉も見られます。
 
コロナ禍によって、誰しもが何らかの苦しみや不安を背負わされた当時者となりました。そして、不安や苦しさといった気持ちを、行き場をなくした収穫物や加工品の売買を通じて分かち合い、なんとか苦境を乗り越えていこうとしています。「分かち合い消費」を通じて新しいつながりが生まれているのです。

 

必要なのは「支援」ではなく、生産現場を守る「システム」

企業支援

緊急事態宣言中に行われていた企業による支援。コロナの影響が今後も予想されるなか、多様な販売ルートで生産者を守る取り組みの広がりが必要


その反面、「分かち合い消費」の広がりは私たちの生活を支える流通の仕組みに潜んでいた、ぜい弱な側面をも映し出しました。
 
生産する人、卸す人、届ける人、売る人、そして消費する人。その構造が揺らいだときに、待ったなしの影響を受けるのが末端の生産者です。生産者と消費者が直接やりとりすることで、その場は乗り切れても限界があります。緊急措置的に格安で販売しなければならず、再生産するための十分な利益が期待できない恐れもあります。
 
また、コロナ禍によって一部の商品に品不足が叫ばれていたことを考えると、市民の「支援」だけではなく、行き場をなくした生産物や加工品を流通ルートに乗せる新たな「システム」が必要なのではないでしょうか。
 
一つの例として緊急事態宣言中に、一部のスーパーで「業務用で使用される予定だったものの支援販売を実施しています」というPOPを見かけることがありました。こういった企業によって適正な価格で販売する取り組みは、今後も期待したいところです。
 
コロナウイルスはそう簡単に収束しないことに私たちは薄々気づいています。「Withコロナ」という言葉も聞かれるようになりました。ウイルスとともに生きるために社会基盤をどう変えていくかが問われています。
 
生産・流通の現場もまさにそう。再びこのような事態が起きたとき、だぶついてしまった収穫物や加工品をビジネスとしてどうやって消費者の手元に届けることができるのか。善意が頼りの「分かち合い消費」を超え、商品が確実に届き、生産者が再生産できるような新しい「システム」が必要だといえるでしょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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