いつか終わると覚悟はしていたけれど

不倫の終わり

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、8年続いた恋が終わったという女性がいる。彼に家庭はあったものの、週に数回は彼女のところへ泊まるという半同棲状態。妻と恋人、綱の引っ張り合いをしていたような状態に終止符が打たれた。

 

あっという間の8年

「今思えば、つらかったしイライラしたこともあったけど、やはり私は彼が好きだったんだと思います。そうでなければあんな中途半端な8年、耐えられなかった」

ノリコさん(41歳)は、穏やかな口調でそう言った。32歳のときに他の営業所から上司としてやってきたのが10歳年上の彼。一緒に仕事をしていくうちに信頼が恋愛に変わった。その3年後、彼は独立。彼女も創業期から社員として懸命に働いてきた。

「彼はいつも起業する夢を語っていましたから、いざ実現というときは私もうれしかった。小さいけれど自由でグローバルな企業をというのが彼のポリシー。私は帰国子女で日本語より英語のほうが母語に近いので、その点でだけは役に立てたかもしれません」

周りにはいっさい悟られないよう、静かに関係を続けた。彼女は仕事のおもしろさにも目覚め、会社近くに引っ越したりもした。

「満員電車がいやだったので自転車で通勤したいというのもあって。ただ、彼の家は会社からたっぷり1時間半かかりましたから、それ以来、彼がときどき泊まっていくようになったんです。それは計算外でしたけど」

仕事と恋。ふたりとも仕事を優先した。だからこそ、恋が長続きしたのかもしれない。仕事の面でお互いに敬意をもっていたからだ。

「子どもが成人したら離婚する、と彼はときどき言っていましたが、私は無理だと思っていました。彼、ご両親と同居しているんですよ。結局、奥さんにめんどうをみてもらっているわけで、子どもが成人したからといっておいそれと別れられるはずもないでしょ。苦労をかけた妻とあっさり別れるほど冷たい男だったら、好きにはならなかったと思う」

ここが不倫をしている女性の複雑な気持ちなのだろう。

 

彼を解放してあげたかった

コロナ騒動で、彼もノリコさんも在宅勤務を余儀なくされた。それでも彼は週に1度は出社、帰りに彼女のもとを訪れたし、彼女もどうしても会社でやらなければならないことがあって出社することもあった。そんなときは彼も必ず出社してきたという。

「ただ、4月の半ばくらいだったか、彼のおとうさんが倒れて救急車で搬送されたんです。通っていた大病院が救急を受けつけてくれず、なかなか病院が見つからなくて大変だったらしい。そうこうしているうちにおかあさんも体調を崩し、家で奥さんが看病する状態。上のお子さんは地方の大学に行っていて帰ってこられず、下の子は今回初めて知ったんですが、少し体に障害があるそうなんです。それを聞いたとき、私、彼のために何ができるんだろうと考えました」

愚痴を聞く、励ます。自分にはその程度のことしかできない。むしろ自分の存在が彼の重荷になるかもしれない。ノリコさんにはそうとしか思えなかった。

「彼はほとんど出社できなくなりました。仕事はみんな在宅でできるし、どうしても出社しなくてはいけないときは私や他の社員でなんとかなる。それもあって彼は家にとどまっていました。たまにSNSのメッセージ機能でプライベートな話をすることはありましたけど、どうもそういう時間もとりづらくなっていったみたいですね」

5月の初旬のよく晴れたある日、彼女は自宅の近所を散歩しながら、ふっと空を仰いでみた。真っ青な空がどこまでも広がっている。

「それを見たとき、ああ、もういいやと思った。お互いに相手を解放していい時期なのではないかなって。もちろん私は彼のことが大好きだけど、だからこそ解放しようと思った。冷静にきれいごとを言っていたけど、そのときまで別れるという選択肢はもっていなかったんです。粘って粘って、いつか彼と一緒に暮らしたいと思ってた。でも、そんなことはもういいやと」

なぜか手放そうとすんなり思ったのだ。あまりに空がきれいだったから、と彼女は笑った。

緊急事態宣言は解けたが、在宅ワークはしばらく続く。オフィスを縮小させる案も出ているという。

「こんな状態だから彼にきちんと別れ話はしていませんが、私は新たな人生を歩もうと決めました。転職も視野に入れています」

いろいろなことがリセットされる。今はそんな時期なのかもしれない。
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