才能伸長教育「SEM」についてのインタビュー
子どもが持つ才能を伸ばすには、何が必要なのでしょう?
ギフテッド教育/才能伸長教育専門の教育学者ジョセフ・レンズ―リ教授が開発した「SEM:Schoolwide Enrichment Model(全校拡充モデル)」について、現在、コネチカット大学大学院生としてレンズ―リ教授らから直に学び、ご自身の子育てにも導入されている知久麻衣さんへのインタビューをお伝えします。
このコロナ禍にも、子どもが自らの興味関心を主体的・創造的に深掘りし、可能性を広げるために、ぴったりの教育法です。
SEMとは、どのような教育法ですか?
知久:元々、ギフテッドとされる子どもの才能を伸ばすために1970年代に開発された教育モデルです。これまでに米国をはじめ世界各国の4000以上の小中高校に導入されています。SEMは、「どの子にも伸ばすべき何かしらの才能がある」という理念に基づき、生徒の長所や強みにフォーカスします。そして、個々の生徒が持つ興味関心を掘り下げるサポートにより、生徒の才能を開花し、伸ばし続けることを目指しています。■才能を伸ばす「3つの要素」
レンズ―リ教授は、子どもの才能を伸ばすための鍵は、次の「3つの要素」にあるとします。
- 能力:平均以上の能力
- 創造性:創造的に考え工夫する力
- 課題へのコミットメント:課題をやり通す力
■子どもの状態に合わせ「3タイプ」の学習を組み合わせる
SEMでは、これら「3つの要素」を育み才能を伸ばすために、生徒の状態に合わせ、「3タイプ」の対応を柔軟に組み合わせます。
- 「タイプ1」の学習体験: 興味関心の対象がまだ定まらない全生徒を対象とします。多様な体験や知識へ触れる機会を用意することで、生徒の関心を見出すことから始めます。例えば、本や映画やドキュメンタリーを用いたり、レクチャーや社会見学に出かけることができるでしょう。
- 「タイプ2」の学習体験: 興味関心の対象がまだ定まらない全生徒を対象としますが、「何(what)」を学ぶかより、「いかに(how)」学ぶかに比重を置き、課題に取り組むための具体的スキルを身につけます。例えば、インタビューや調査やデータ分析の方法、また文書や効果的なプレゼンの作成方法などを学び、クリティカルシンキング・問題解決力・創造的思考力を高めます。
- 「タイプ3」の学習体験: 課題に取り組むための技術や能力が身につき、課題をやり抜くための意欲が十分にある生徒を対象とします。発表やフィードバックを通し、生徒の興味関心を社会的な繫がりの中で還元するよう導きます。
SEMは家庭でも活用できるのでしょうか?
知久:SEMはどの学校のどんなカリキュラムにも組み込める柔軟なモデルです。そのため、SEMを家庭で取り入れることについても、コネチカット大学研究チームの教授らは支持しています。とくにこのコロナ禍にも、子どもが自らの興味関心を主体的・創造的に深掘りし、可能性を広げるために、ぴったりの教育法といえるでしょう。<家庭でSEMに取り組むための6ステップ>
家庭では、例えば、次のようにSEMを導入することができるでしょう。子どもの状態を観察しながら、必要なステップを踏んでいきましょう。子どもの興味が定まっているならば、「ステップ2」から始めることも可能です。ただ、「ステップ1」以外は、プロジェクトをより有意義に進めるために、省略しないようにしてください。
■ステップ1:興味関心を見出す
子どもと一緒に「好き」をリストアップしてみましょう。現在特に「好きなこと」がない場合も、日常の言動を観察したり、過去をさかのぼってみると、意外とヒントがあるかもしれません。「好きなこと」がビデオゲームだったとしても大丈夫です。どんなタイプのゲームが好きなのか、そのゲームの何が好きなのか、分析してみると何か見つかることもあるでしょう。
例えば、本や記事を読んだり、動画やドキュメンタリーを視聴したり、博物館、美術館、動植物園、水族館、スポーツ観戦、工場見学、サイエンスフェア、地域のお祭りなどに出かけたり、専門家の話を聞くなどし、子どもの興味関心を見出しましょう。
子どもが何に興味を持っているか、観察してみましょう
■ステップ2:興味を持つテーマについて「リアル・プロブレム」を探る
子どもが興味を持つことについて、本やネット等で調べてもすぐには答えが得られず、正解や既存の解決方法がない「問い」を考えてみます。答えや解決方法が、その問題に挑む人の数だけ存在するような「問い」がいいです。
例えば、子どもが写真撮影に興味を持っているとします。次の二つの「問い」を比べてみてください。
- どうすれば美しい工場の夜景が撮れるだろう?
- どうすればアメリカ中西部を世界にアピールできるだろう?
■ステップ3:「リアル・プロブレム」をどのように解決するか具体的計画を立てる
例えば、「リアル・プロブレム」が「国内外の写真家がアメリカ中西部地方を撮影したくなるようにするには?」だとするならば、発表までの期間を決め、「解決」に必要な知識やスキルを明確にし、それをどのように得ていくかを練ります。撮影技術, 編集技術、最終的なプロダクトやサービスの発表方法、資金調達、宣伝方法などについて話し合い、具体的に計画します。
■ステップ4:必要なスキルを磨いたり知識を深める
子どもであっても、その道のプロのような意識を持ち、取り組むよう励まします。親は、資料提供や、専門家との接触、会計や資金調達、タイムマネジメント、定期的なチェックなどをサポートし、できる限り生徒主導ですすめるようにします。
興味を掘り下げるために必要なスキルを身につけます
■ステップ5:発表する
展示会、出版、プレゼン、ウェブサイトなど、第三者を対象とした発表の場を設け、フィードバックをもらいます。親は、発表の場や宣伝方法 プレゼン資料の作成、コストの見積もりなどについてサポートできるでしょう。
■ステップ6:良かった点や反省点などを見つめ直す
次のような具体的な質問を通し、子ども本人が前向きに取り組みについて省みる機会を与え、次に繋げるようにします。
- どんな思いでこのプロジェクトを遂行してきたか
- この学習体験のなかで何を学んだか
- 最終的に“生み出したモノ”にどのように満足しているか
- 作業中どのようなサポートを受けたか
- どのような新しい発見や意外な発見をしたか
- 次の案についてどのように描いているか
(聞き手)長岡真意子コメント:
SEMは、元々、学校の成績を上げるよりも、学校ではなかなか認められにくい子どもの個性や創造力を大切にし、その子が持つ才能を伸ばすために開発された教育法といいます。集団で一斉に同じことをする環境では、フォーカスすることが難しい子どもの興味関心を、子ども自らが探究するサポートにより、子どもが本来持つ好奇心や意欲も高まるでしょう。また、学校に合わないと感じている子どもが、自信を取り戻すこともあるかもしれません。先行き不透明なこれからの世界で、一人一人の子どもが自分らしく創造力を駆使し、生き生きと持てる才能を発揮できるよう、是非、SEMをできる範囲で活用していきたいですね。【関連記事】