アドバイス1 あと10年、家計を見直し貯蓄ペースを上げる
まずは、教育資金から見ていきましょう。すでに用意されているのが、3本の学資保険。満期金の合計が480万円。大学にかかる費用は私立文系なら400万円、私立理系なら540万円ですから、大学費用はほぼ準備できていることになります。
問題は、可能性があるという私立高校に進学した場合。平均でかかる費用は300万円ほど。学資保険の祝い金を充てても足りません。また、外貨建ての終身保険を教育費に回すつもりとのことですが、為替によっては必要な時期に元本割れというリスクがあります。本来なら解約か払済保険にしたいところですが、内容を見る限り、すでに保険料は一時払い済みと思われます。その場合、Qさんが言われているとおり、円安になるのを待つことが対処法でしょうが、それがいつなのか、誰にもわかりません。
ともあれ、高校の学費が不足した時点で、現状では多少元本割れしても、外貨建て終身の解約返戻金でカバーしていくことになるでしょう。
アドバイス2 老後まであと10年、貯蓄ペースを上げる
では、老後資金はどうでしょうか。すでに一時払いされている個人年金保険の年金総額が1080万円。加えて、退職金が200万円。計1280万円、これがまずベースとなります。現在の貯蓄は100万円。それと、毎月の貯蓄ペースは月5000円のiDeCoだけとなります。これだけだと年間6万円ですから、夫婦2人の老後資金を積み上げるためにも貯蓄ペースを上げたいところ。
そこで毎月の家計収支を見ると、まだ1万7000円の黒字ですが、それが貯蓄に回っていないわけですから、実際はいただいたデータ以上に支出していることになります。少額と思うかもしれませんが、年間にすれば20万円超。それが何なのか、必要な支出なのか、しっかり確認しておきましょう。
データにある支出内容については、通信費など工夫もされていますが、まだ削る余地はあると思います。やはり目立つのは食費と保険料。しかし、「子どもに国産品を食べさせたい」という理由でこれ以上下げることができないのなら、他の支出を削る必要があります。何を削るかは、Qさんの世帯にとって優先順位が低いものとなります。
保険についてあとで触れますが、こちらも見直すことで2万円以上は保険料コストを下げることができます。合わせて家計全体で、月6万円を貯蓄に回すことができれば年間で72万円。定年まであと10年しかありません。それを考えれば、いきなり6万円はハードルが高いかもしれませんが、そのくらいの貯蓄意識は必要でしょう。
年間72万円で、10年間で720万円。ただし、ボーナスから支払っている、不動産を購入するために利用された生命保険の契約者貸付の返済80万円。利息等の詳細は不明ですが、残高から考えて、あと4、5年で完済できるのでは。その後、返済分をすべて貯蓄に回せば、60歳までに400万~450万円は貯まるはず。予定されている、クルマの買い替え(2台分、250万円と想定)の費用をここから差し引くと、結果的に定年時の貯蓄は900万円前後。これに先の1280万円を加算した2100万円がQさんの世帯の老後資金であり、現実的な目標といえるでしょう。
アドバイス3 必要な保障は割安な保険で確保する
では、これで老後は大丈夫でしょうか。それなりの額でありますが、気になるのが住宅ローン。ご主人63歳まで続きます。それまでは、生活コストはまだ月30万円程度になりますから、ある程度収入がないと、先の老後資金もすぐに減ってしまいます。ポイントは公的年金支給となる65歳までは収入を得て、老後資金を減らさないこと。ご主人が再雇用制度を利用して働くことには前向きではないようですが、健康が最優先ですから、体力的にきびしいのであれば、アルバイトでも構いません。とにかくできるだけ長い期間働くことが有効な老後対策です。
そしてもうひとつの対策は、Qさん自身も働くということ。正社員であっても給与水準が低い、その割に長時間拘束される、加えて扶養から外れるといった、フルタイム勤務のデメリットもあげられています。しかし、仕事内容、通勤等で働くことが可能ならば、結果的に確実かつ安定的に現状より収入アップができる、正社員を選ぶべきだと考えます。仮に手取りが10万円であっても、8万円収入が増えますから、それだけで貯蓄が年間100万円近く増えます。厚生年金加入によるメリットも小さくありません。
と同時に、ご実家の自営の中身は不明ですが、収入をあまり見込めないなら、店舗用に購入し、現在賃貸収入を得ている不動産についても、早めに売却する方が賢明でしょう。今後、老後まで10年、住宅ローンに加え、不動産の購入代金の支払い(契約者貸付)もあります。さらに今後賃料が安定的に入る保証もありません。手放せるリスクはできるだけ手放す。家計的に身軽になる。これも老後対策の重要な要素です。
最後に保険ついて。加入されているうち、ご主人とQさんが加入されている終身保険は払済保険に。今はとにかく現金、貯蓄を増やしたいので、割高な保険料の保険商品で保障を確保すべきではありません。
また、ご主人加入の団体定期保険は、まず死亡保障が過大。あと保険料が半分戻ってくるとのことですが、それは約束されていることかどうか。また、5年毎の更新でどの程度保険料がアップするのか。それらが不明ですが、解約されて、新たに死亡保障1000万円、保険金間10年の定期保険に加入してもいいのでは。ご主人の年齢なら、保険料は月4000円台前半です。ご主人加入の医療保険もどちらかを解約していいでしょう。
もうひとつ、お子さんに掛けている定期保険。基本的に、お子さんに対して死亡保障は不要です。かかる医療費も、保険ではなく、貯蓄や毎月の家計から捻出すると考えるべき。しかも、満期金があるようですが、大きく元本割れするため貯蓄性もありません。もしも払済保険が可能ならそうするか、解約返戻金の金額によりますが、元本割れの額(支払った保険料に対する満期金の差額)とあまり変わらないようであれば、解約してもいいかと思います。
相談者「Q」さんから寄せられた感想
教育費や老後について、漠然とした不安があり、やみくもに投資等を始めてしまっていたのですが、今回相談したことで、確保できている部分とそうでない部分があることやその他のムダがわかり、とても参考になりました。今後は、アドバイスいただいたように家計をしっかりと把握し、リスクを減らしながら収入アップすることを考えていきたいと思います。今回、相談するにあたり自分ではそれなりに支出の把握をしていたつもりでしたが、深野先生のご指摘の通り、まだまだ把握できてない支出があることを痛感しました。いつかまた家計改善の必要があると感じたら、今回のアドバイスを再確認して修正していきたいと思います。★「お金の悩みを解決!!マネープランクリニック」の過去記事はコチラへ
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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