年金/公的年金制度の仕組み

株価が上下すると、年金額も変わる?

時々「株価の下落で年金積立金の損失がいくら」といったニュースが流れることがあります。株価の上下は年金額にどのような影響を及ぼすのか、見ていきたいと思います。

綱川 揚佐

執筆者:綱川 揚佐

年金ガイド

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株価の上下は、年金額に直結はしていない

結論を先に申し上げますと、株価が今日いくら上がった、あるいは下がった、ということによっ
て、年金額がすぐに下がったり上がったりするわけではありません。年金額は法律に定められた計算式で計算されますが、その計算式に現在の株価が直接反映されるわけではないので、そういう意味で、株価は年金額に直結はしていません。

ただし、将来の年金額に影響する可能性はあります。仕組みは複雑ですが、ご紹介したいと思います。
 
株価の上下は、年金額に直結はしていない

株価の上下は、年金額に直結はしていない

 

日本の年金財源は「保険料+国庫負担」が原則

現在の年金制度では、現役世代が毎月支払う保険料と、国庫負担(税金の投入)を財源として給付が行われています。
 
支払った保険料のうち、年金給付に回らなかった分は、年金積立金として積み立てられていて、令和元年度第2四半期末現在で、161兆7,622億円の残高があります。この積立金の管理、運用を行っているのが「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」です。
 
GPIFは国民の財産である年金積立金を運用するにあたって、基本ポートフォリオを策定しています。GPIFが設立された平成18年には、67%は国内債券で運用し、残りを国内株式、外国債券、外国株式、短期資産で運用するという比率で投資・運用を行っていました。その後何度か基本ポートフォリオも改定され、平成26年10月からは国内債券が35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%という比率となっています。実際の運用はこの数字を基本として、定められた乖離許容幅内での運用となっており、平成30年度末時点では国内債券26.30%、短期資産7.67%、国内株式23.55%、外国債券16.95%、外国株式25.53%となっています。
 
以前に比べると株式の比率が高くなっているため、株価の上下が積立金の残高に及ぼす影響は増大しています。そのため、この問題に関心が集まっていると言えます。
 

年金額の計算式に株価は登場しない

株価が上下すれば、当然それにつれて積立金の残高は増減します。しかし、年金の金額に積立金の残高が直接影響することはありません。年金額の計算式に、株価や積立金残高が登場しないからです。
 
また、マクロ経済スライドという仕組みが現在行われていますが、これは平均余命の伸びと現役世代の減少によって年金額の伸びを抑制する仕組みです。ここにもやっぱり株価や積立金残高は影響しません。
 
したがって、株価の上下が年金額に直接影響することはないと言えます。
 

100年後をシミュレーション! 財政検証とは?

ただし、まったく無関係かというと、そうではありません。直近の年金給付を積立金の取り崩しによって賄うことは想定されていませんが、将来の給付のために積立金を取り崩すことは視野に入っているからです。
 
平成16年の年金制度改正で、年金財政が現在の制度になりました。この時に導入されたのが「保険料の水準を固定したうえで年金制度が今後おおむね100年持続できるように、年金給付額を調整する(保険料固定方式)」という考え方です。そして、今後おおむね100年大丈夫かどうかを、5年ごとにシミュレーションしてチェックする、「財政検証」という仕組みも併せて取り入れられました。ちなみに、先ほど触れたマクロ経済スライドが導入されたのもこの時です。
 
財政検証では、人口や経済の動向をシミュレーションして、財政検証からおおむね100年後に、1年分(厚生労働省の資料によると平成29年度末現在約55兆4,000億円)の年金給付費相当の積立金が残っているように年金給付を調整していくことになります。この時、モデル世帯の夫婦の年金額が、現役世代の収入のおおむね50%を確保することを目指すとされています。

現在160兆円ある積立金を100年で取り崩して、100年後の残高を55兆円とするわけですから、100年間で100兆円以上もの額を取り崩すと想定していることになります。ちなみに、今年はこの財政検証が行われ、結果が公表されました。今後の経済が好調ならば年金制度は心配ないものの、経済が低調に推移すると年金財政は悪化し、何らかのテコ入れが必要となってくる、といったような結果となっています。
 

積立金が増えていれば将来の年金額に好影響も!

当然、この株価が好調で運用成績もよく、積立金が増えていればここで取り崩せる額も多くなり、年金額を高く維持したり、下げ幅を抑えることもできるかもしれません。この先何十年も年金額を抑制していくことになっているマクロ経済スライドも、早めに終わらせられれば、その後は年金額も伸びやすくなります。

反対に株価が低調で運用実績が芳しくなく積立金が減少していた場合は、制度を100年維持するためにさらなる年金額の抑制策や保険料収入をアップさせる政策が導入されることも考えられます。
 
そういう意味では、将来の年金額に対する株価の影響は少なくないとも言えます。ただ、100年後に理想とする状況に持っていくためには積立金の運用だけがすべてではありません。むしろ、少子高齢化に歯止めをかけ、現役世代を増やして保険料収入を増やしていければ、積立金の運用実績は二次的なものにもなりえます。
 
ここまで株価の上下が年金に与える影響を見てきましたが、短期的な株価の上下や運用実績に一喜一憂する必要はあまりなさそう、と言えるかと思います。少子高齢化を少しでも食い止められれば、年金財政にもよい影響があるので、今後さらに効果的な少子化対策などが取り入れられるよう願うばかりです。

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