年金制度改革関連法が可決・成立

国会で審議されていた「年金制度改革関連法」は、平成28年12月14日に可決・成立しました。与党は「将来世代の年金確保のための法案」であるとしてその必要性を強調し、反対に野党は「年金カット法案」と呼んで批判してきた中でこの法律が成立しましたが、今後実際にどうなるのかは意外と知られていないのではないかと思います。この法案の中身について見ていきましょう。

テレビなどでは「年金制度改革関連法」と呼ばれているこの法律、正式には「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」という長い名前が付いています。法律の謳い文句としては、年金制度を将来に向かって長続きさせるためのものであるということがここから見て取れます。

具体的な中身としては、以下の5つが盛り込まれています。

  1. 短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進
  2. 国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除
  3. 年金額の改定ルールの見直し
  4. 年金積立金管理運用独立行政法人の組織等の見直し
  5. 日本年金機構の国庫納付規定の整備
この中で、一番議論になっていたのが「3」の年金額改定ルールの見直しです。このルールの変更によって、年金が減ってしまう可能性があるということで野党は強く反対してきたわけです。では、どのような影響があるのかを、詳しく見ていきましょう。

どう変わるかを知るためには、今現在のルールがどうなっているのかをまず知らなければなりません。

年金額見直しのルールとは?

年金額は毎年見直され、少額ですが変動しています。現在の年金額改定ルールで元になっているのは、賃金の変動率(「名目手取り賃金変動率」といいます)と物価の変動率です。

67歳の年度までの人は原則として賃金変動率に連動して年金額が変動します。ざっくりいうと、現役世代の賃金が1%上がれば年金も1%上がるということです。

一方、68歳の年度以降の人は物価変動率に連動して年金額が変動します。
物価が1%上がれば年金が1%上がる、ということになりますね。これが原則です。しかし、物価ほど賃金が上がらなかったり、物価は上がっても賃金は反対に下がってしまうといったこともあります。

そのような場合は、世代間格差への配慮ということで、賃金が物価より上がらなかった時は68歳以降の人でも賃金に基づいて改定し、物価は上がっても賃金が下がった時は年金額はプラスマイナスゼロで据え置きということになっています。また、物価も賃金も下がった場合で、賃金の方がより下げ幅が大きい場合は、物価により改定となります。

マクロ経済スライドで年金額が増えにくくなっている

さらに、平成16年の改正で、マクロ経済スライドという考え方が導入されました。少子高齢化社会を迎えた現在、年金の支え手である現役世代の人数は減少し、年金をもらう高齢者はどんどん長生きになって年金をもらい続けています。これを年金額に反映させるため、現役世代の減少率と平均余命の伸び率を年金額の計算に取り入れ、物価や賃金の伸びほど年金が増えないようになっています。

ただし、このマクロ経済スライドはあくまで年金額の伸びを抑制する仕組みであるため、年金額が伸びていない時は働かないことになっています。マクロ経済スライドによって年金額が前年よりも減少するということはありません。長引くデフレの影響で平成27年までずっと年金額は減額か据え置きで推移していたため、これまでこの仕組みが働いたのは久方ぶりに年金額が増額となった平成27年の1回きりです。

今回成立した法律では、これらのルールにメスを入ることになるわけです。では、どのように変えようというのでしょうか。

改正ポイント1 マクロ経済スライドがこれまでより強化される

第1の改正ポイントはマクロ経済スライドについてです。これまでマクロ経済スライドが働かない、あるいは完全に実施できない状況では本来下がるはずだった年金額が実際には下がらず高止まりするという現象が起こっていました。

年金額見直しのルールとは?

年金額見直しのルールとは?(出典・厚生労働省)


これを、下げられなかった分を累積してとっておき、年金額が大きく伸びる好景気の局面においては以前の未調整分の残りを持ってきて消化しようというのです。厚生労働省ではこれを「キャリーオーバー」と呼んでいます。ここで、年金額の抑制は、あくまで前年よりも額面で下がらないということが前提です。あくまで年金が伸びる、最悪でも据え置きになるように調整されるということになっています。

改正ポイント2 物価より支え手の賃金に連動するルールになる

第2の改正ポイントは賃金・物価スライドの見直しです。これまでのルールでは、物価は上がり賃金が下がった場合は年金額は据え置き、物価も賃金も下がったが賃金の下げ幅がより大きい場合は物価に基づき改定となっていました。この2つの場合において、賃金の変動を元に年金額を変動させるように変更します。

年金の支え手である現役世代の負担能力は賃金によって決まります。年金をもらう方ではなく払う方の実情に合わせて年金額を変えていこうという考え方です。年金受給者にとっては物価が上がっても場合によっては年金が減額されるという厳しい状況にもなるわけです。

急に年金が減るわけではない

第1の改正ポイントは平成30年4月から、第2の改正ポイントは平成33年4月からの導入予定となっていますので、まだ少し先ですね。導入となったとしても、物価や賃金の変動は年に数%ですから、年金額の変動は月に直すとせいぜい数百円から数千円といったところ。急に年金が減ってしまって生活が立ち行かなくなるという事態は考えにくいと思われます。

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