介護

胃ろうとは……胃ろうのメリット・デメリット

【訪問看護師が解説】嚥下機能が低下しても、安全に栄養摂取することができる「胃ろう」。現在、胃ろう患者さんは26万人と多いものの、新しく胃ろうを作る人は減少傾向にあります。胃ろうを作るメリット・デメリット。いわゆる「単なる延命」と「治療」の境目は? 胃ろうの選択が必要な状況や、生活変化の内容、胃ろうをどう捉えるかの考え方と、エンディングノートに書くだけでは足りない、早めにしておくべきことについて解説します。

藤澤 一馬

執筆者:藤澤 一馬

在宅介護と生活設計ガイド

病気や加齢による嚥下障害や認知機能の低下……命に関わる誤嚥性肺炎のリスクも

食事の介助・胃ろうという選択肢

要介護で食事の介助が必要なケースは珍しくありません。しかし嚥下機能に低下が見られ、口からの食事が難しくなった場合、「胃ろう」という選択肢があります


生きていく上で絶対に欠かすことができない食事。私たちは通常、食事で食べ物を口から摂ることで、体内に栄養を取り入れています。もし口から食事をすることができなくなり、何の処置も受けなければ、命を保つことはできません。しかし、病気や加齢により「口から食事ができなくなるケース」は少なからずあります。

■病気が原因での嚥下機能低下
脳血管疾患やがん、喉や食道の病気による影響により、通常の嚥下が難しくなってしまうケース。

■加齢や認知機能の低下が原因の嚥下障害
加齢に伴い、食べ物を噛んだり飲み込んだり機能自体が低下してしまうケース。また、認知症などにより食事に関する認識の低下が起こり、それまでのようにうまく食事ができなくなることもあります。

「嚥下障害」は、単に食べ物が飲み込みにくくなって食事に時間がかかるようになるだけではありません。うまく飲み込めないことで、唾液や食べ物が食道ではなく気道の方に入ってしまい、さらにしっかりと咳こめない場合、肺にまで入ってしまい肺炎を起こします。これが「誤嚥性肺炎」です。誤嚥性肺炎自体は抗菌薬等で治療できますが、嚥下機能の低下で繰り返し肺炎になることもあり、栄養の取りづらさから低栄養状態になっていたり、肺炎により体力低下が進行していたりする高齢者の場合、これによって命を落としてしまうこともあります。実際に、肺炎は死因の第3位と死亡者数が多いのです。そして、嚥下障害はリハビリによる改善も期待できますが、必ずしも改善されるとは言えません。

このような場合に、嚥下機能が低下していても安全に栄養摂取を可能にする方法が「胃ろう」という選択肢です。
 

胃ろうとは・経管栄養のメリット……誤嚥性肺炎や低栄養リスクも軽減

胃ろうは、簡単に言うと「腹部に穴を開て胃に直接管を通すことで、口を経由せずに栄養を取る方法」と言えます。医学的には「経管栄養」という方法です。胃ろうを使えば、口を全く使わずに、胃に直接栄養や水分を送ることができます。

嚥下機能が低下して、諸々のリスクが出てきたとき、医師から胃ろうという方法があることの説明がされることがあります。胃ろうを作り経管栄養を行えば、上に挙げたような誤嚥性肺炎や低栄養のリスクは防ぐことができることがメリットであると言えます。
 

胃ろうのデメリット……生活の変化・経管栄養の管理・介護の負担

一方で、胃ろうを作ることはよいことばかりとも言えません。腹部に穴を開けるという点で見た目の変化もありますが、生活を大きく変える必要が出てきます。具体的には、1日3~4回、注射器や専用の道具を使って経管栄養を行う必要があります。定期的に胃ろうの交換を病院で行うため、受診も欠かせません。また管は異物であるため感染が起こりやすく、入院を余儀なくされる場合もあります。

ある程度慣れれば、感染のリスクも下がり、在宅での胃ろう管理でも安定した生活が送れるようになりますが、介護する側にとっても上記のような負担は生じます。
 

胃ろう除去という選択肢……胃ろうを作っても、外すことは可能

胃ろうを作る上で躊躇する理由の一つに、胃ろうを一生涯行っていくことに戸惑うことが挙げられます。胃ろうを作っても口から食べることはできますが、口から十分な栄養を取れない状態が続けば、原則胃ろうは一生涯となります。しかし、再び口から栄養を取ることができるようになれば、胃ろうは除去することが可能です。

特に、脳血管疾患やがん治療中の方や、軽度な嚥下障害があった高齢者の方の場合、リハビリや治療の進行具合によって嚥下障害が改善することは珍しくありません。実際に私が担当した患者さんにも、口から食べる量が増えてきたことで胃ろうが抜けたケースが何例もあります。

また長い入院生活で、ご家族の方も食事もままならないような介護生活から、胃ろうによって抜け出すことができたケースもあります。筆者が受けた相談の中で、旅行が趣味の方がいました。胃ろうの決断がつかずに長期入院をされていましたが、胃ろうを作って旅行に行くことをご提案しました。その方は、実際に胃ろうを作って体力の回復を待ち、国内外の旅行を楽しまれていました。

生活の変化は伴いますが、自分の人生を謳歌することを目的に胃ろうを選択することもできるのです。
 

胃ろうの患者数は26万人だが、新しく胃ろうを作る人は減少傾向

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胃ろうを作る原因の一位が脳血管疾患。患者数は増えていても胃ろうを作る人は減少している。出典:公益社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会


医療の発展に伴い、日本の平均寿命は伸びています。厚生労働省による『平成30年版高齢社会白書』によると、日本の高齢化率は27.7%。4人に1人以上は65歳以上です。そしてこの割合は、今後ますます増加していくことが見込まれています。

加齢に伴って体の機能は低下し、病気にかかることも多くなります。死因1位の悪性新生物(以下、ガン)は、男性においては65~69歳がもっとも多いとされています。死因の第3位の脳血管疾患は、命を落とすこともありますが、一命を取り留めても安心ができません。脳血管疾患の後遺症により、体に麻痺が起こることが多くみられるからです。麻痺の場所によりますが、脳血管疾患の3割の方に嚥下障害が起こります。

公益社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会による『胃ろう造設者の実態把握並びに効果的ケア体制のあり方に関する調査研究委員会』の調査では、医療機関や介護施設における胃ろう造設者は減少しているとされています。本人や家族が胃ろうについての知識を得て、不要と医師に告げることができるようになったことが要因と考えられます。終活やエンディングノートなどによって、延命をするかしないかについても考える機会が増えてきたようです。その過程で、胃ろうを選択するメリット・デメリットを考える方も多いかもしれません。

胃ろうを拒否する方の中には、これまでの「胃ろう=単なる延命」といったような捉え方をされている傾向もあり、胃ろうという選択が適切と考えられる場合でも、造設を固辞するケースがみられます。胃ろうは適切に選択することにより、生活の質を高め、安定した生活を送ることができる面もあるので、冷静な判断が必要です。
 

「単なる延命」にもなりかねない胃ろうを適切に活かすために

胃ろうは適切に活用すれば、生活の質を上げ、今まで通りの生活を送ることを可能にしてくれるものです。一方で、「何をもって適切と考えるか」を判断することは難しく、「治療」といわゆる「延命」の境は曖昧なものです。例えば、病気や事故によって意識が戻らず胃ろうの選択を迫られるような場合、胃ろうは治療とも延命とも捉えることができます。また重度な嚥下障害や病気によって口から栄養を取ることが不可能な時も、胃ろうを治療か延命か考え、今後の人生をどう過ごしたいか判断しなければなりません。そのため、胃ろうを作ることでどのようなことがしたいか、どのような生活を送りたいのかを、事前に考える必要が出てきます。胃ろうを単なる延命と判断するかどうかは、胃ろうを受ける方の価値観によっても大きく左右されます。全く同じケースでも、延命とは考えない場合もあります。事故や病気が起きた時に、深く考える時間も余裕もありません。何も起こっていないうちから、「もし自分だったら」と具体的にイメージすることが大切になるのです。

一般的に胃ろうが延命に該当するか迷われるケースは、「意識がなく、自分で判断ができない状況下で家族が行う胃ろうの決定」の際にみられます。口から栄養が取れず胃ろうを作らなければ、栄養を取らない方法か点滴をする方法しかありません。その状況を不憫に思い、胃ろうを作り命を永らえさせることが延命であると判断されるポイントになります。現在の法律では、本人が胃ろうを拒否する意思表示を事前にしていても、最終的には家族に同意を求めます。その際に家族が承諾すれば、胃ろうが作られてしまうことになります。当事者となった時の胃ろうの判断と、胃ろうを承諾する家族となった時の心境には大きな違いがあります。延命の判断には、本人と家族の間に大きな溝が存在するのです。さらにそれ以外の親族との間にも溝があるため、延命に関してトラブルになるケースもあります。

こういった状況を回避するためにも、しっかりと意思表示ができるうちに、書面に残すだけでなく、家族と話し合いをしておくことが大切です。「尊厳死宣誓書」や「エンディングノート」は、あくまで意思を表示するだけのもので、最終的な決定権を持ちません。意思表示ができない時の最終決定権を持つ家族に、延命に関する思いを伝え、判断方法を一緒に確認するようにしましょう。

胃ろうを含め、医療処置は単純に延命とは判断できないものです。さらに延命の判断は医療者にはできず、後見人などの法定代理人も行うことができません。受ける医療を決めることができるのは、原則本人と家族に限られます。第一に家族と日頃からコミュニケーションを図り、延命に限らず自分のこれからの人生について話をすることが大切です。例え明確な意思表示をしていなくとも、思いを汲んで判断してくれるでしょう。しかし、家族とコミュニケーションを図ることが難しい場合もあります。そのようなときは、尊厳死宣誓書、エンディングノートなどに理由をつけて思いを残しましょう。延命の拒否や苦痛の最大限の除去など、漠然とした内容では判断を誤らせます。どうしてこのような意思表示をし、なぜに書面に残したかなど、できるだけ具体的に書く必要があります。胃ろうのメリット・デメリットをしっかりと把握した上で、自分にとっての適切な医療とは何かを考え、よりよい人生を作っていく手助けにしていくのがよいのではないでしょうか。

■参考・引用文献
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