介護/食事・口腔ケア

高齢者の食事ステップの基本は「離乳食」を逆にたどる

お年寄りの食事は「やわらかいもの」を求められるようになります。これはやわらかいものしか食べられなかった赤ちゃんが、少しずつ練習をして固いものが食べられるようになるまでの離乳食のステップを逆にたどると考えやすいのです。ただし、お年寄りには、赤ちゃんと違って、これまで生きてきた中での「食経験」があり、喉の構造もお年寄りと赤ちゃんは違います。何が同じで何が違うのか、すっきり理解しましょう。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

「やわらかいものを食べさせてあげてください」と言われました

男性の高齢者の食事風景

歳をとると硬いものが食べにくくなります。身体の機能に合った食事を手軽に作れるような工夫をしてみましょう。

病院ではお年寄りが退院する際に、家族から「医師からやわらかいものを食べさせてあげてくださいと言われたのですが、食事はどうしたらいいでしょうか? 」と質問されることがよくあります。ただ、老々介護のご主人や息子さんなどが介護を担当する場合など、自宅で料理をする機会があまりなく、食事を作ることが難しいケースも少なくありません。

そこで利用していただきたいのが、市販の介護食品です。インターネット等で探せば、レトルトの商品などさまざまなものが見つかります。しかし、介護する側の家族も同じように高年齢化しているため、インターネットを駆使して介護食を手に入れることが困難な場合も多いようです。また近所のスーパー等を探しても、商品をまとめて1つの棚に置いてある店舗はあまり多くありません。この現状を見る限り、手軽に入手できるというほどにまでは浸透していないように感じます。

介護食を探すことができなかった介護者は、栄養士を見つけると「作らなければダメですよね? 」と訴えるように質問してきます。そこで、私がお話するのは、「離乳食を使ってください」ということです。


介護食と離乳食が似ている点

介護食と離乳食が似ているのは「やわらかさ」が段階的になっているところです。「介護食のレベルを表す4つの指標とその使い方」にある表でも示したように、硬さのレベルは4つの指標があります。そのうち、市販品に最も多く示されているのが「UFD分類」です。

普通よりやわらかくするだけで食べられるのであれば、小鍋に移して火を入れるか、レンジで加熱をしてやわらかくすると良いでしょう。問題は、病院や介護施設等で「ペースト食(つぶし食)」や「きざみ食」を食べていた場合です。

「ペースト食」は後日「介護食の作り方とコツ ~嚥下調整食2以下の場合~」でご紹介しますが、病院等ではフードプロセッサーで作ります。ペースト食は「UFD区分4」とイメージしてください。

「きざみ食」については病院や介護施設によってカットの大きさがまちまちで、統一見解がありません。ただ私の知る範囲では、若い患者様の多い病院では5mm角程度(UDF区分1または2相当)に切ることが多く、高齢者の多い病院や介護施設等では1~2mm角程度(UDF区分3相当)にカットされることが多いようです。

以上は完全に私の知る範囲でしかありませんので、身近な栄養士にも確認してみてください。難しいようでしたら、施設等で提供されている食事のカットの大きさを確認してください。1~2mm程度のみじん切りであればUDF区分3相当と考えてよいでしょう。また、やわらかさの関係は、「きざみ食」はUFD区分3で離乳後期(7~12ヶ月)、「ペースト食」はUFD区分4で離乳中期(5~6ヶ月)に相当すると考えていただければよいかと思います。


介護食と離乳食が異なる点

次に、介護食と離乳食が異なる点についてです。まず、食べる人の年齢がまったく違います。介護食はお年寄り、離乳食は生後間もない赤ちゃんです。当然、食経験が違いますので、お年寄りのための介護食はご本人のお好みに合わせたものを、赤ちゃんの離乳食はいろいろな味を覚えられるような味付けにします。さらに、赤ちゃんの舌は味蕾(みらい)がしっかりしていますので、薄味でも味を感じ取ることができます。お年寄りは味蕾が磨耗していますので、味を感じにくくなっています。そのため、薄い味付けばかりでは物足りなさを感じてしまうことがあります。

さらに、最も注意すべき点は「喉」の構造の違いです。赤ちゃんはいわゆる「喉」の部分である「口蓋垂」から「食道入り口」までの距離が短く、「誤嚥」しづらい構造になっていますが、お年寄りはこの間が長く「誤嚥」しやすいのです。

「喉」が長いということは、それだけいろいろな声を出すことができるようになります。成長に伴って喉が長くなることで人間は話すことができるようになるのですが、それと引き換えに誤嚥しやすい構造になっているのです。そのため、離乳食は飲み込みやすさにさほど気を使う必要はありませんが、介護食では注意する必要があります。

飲み込みやすさの関係は「“ごっくん”できない高齢者…そのカギは「とろみ」」で説明したとおり、「とろみ」の濃さによります。お年寄りの喉の状態に合わせてとろみを調整する必要があります。


離乳食を使うなら……

介護食と離乳食は似て非なるものではあります。しかし、現段階では市販の介護食が手軽に手に入る状況ではないことを考えると、介護食と比べると比較的廉価で、種類が選べる離乳食を使わないのはもったいないと感じます。

そこで、離乳食を介護食として利用する場合は、適切なやわらかさの離乳食を購入し、とろみ剤を入れるなど、とろみの調節をしてください。特にペースト食を食べていた方に、離乳中期の離乳食を提供する場合は要注意。離乳食はさらさらしていることが多いので、そのままだとムセやすいものが多いです。味の調節は、とろみ剤を入れた後に行います。

介護食はインターネットで手に入ると言っても、まだまだ供給が追いついていない現状があります。そういった意味では、介護者にとって「食事」は頭の痛い問題でしょう。ただ、生きるために必要な食事は、生活の中の喜びのひとつでもあります。介護者に負担がかかりすぎず、お年寄りも楽しくなるような食生活が送れるよう、いろいろな工夫をしてみてください。


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