宝塚ファン/宝塚歌劇団 トップスターの変遷

月組トップ娘役・愛希れいか―退団(3ページ目)

2018年11月18日(日)、月組トップ娘役・愛希れいかさんが、『エリザベート ―愛と死の輪舞―』の千秋楽(東京宝塚劇場)に宝塚歌劇団を退団します。舞台歴をまとめるとともに、新人時代からの活躍を振り返ります。

桜木 星子

執筆者:桜木 星子

宝塚ファンガイド

 

愛希れいかの魅力

『愛聖女―Sainte♡d’Amour―』

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

キュートで可愛らしい役から、高齢の女性まで。これだけ幅広い役柄を演じられるトップ娘役がかつていただろうか…そんな風に思います。男役のトップスターが中心の宝塚で、愛希れいかさんがトップ娘役だったから生まれた企画もあったことでしょう。愛希れいかさんにしかできない役もあったでしょう。
 
一つ挙げるとするなら、『グランドホテル』のエリザヴェッタ・グルーシンスカヤでしょうか。往年のプリマの気品とプライド、引退間近の哀愁や憂鬱、感情の波との葛藤。若い男爵(球城りょう)に恋をしたとたん、溢れ出る女の喜びや自信。火照るように次々と変わる感情は、グルーシンスカヤという女性の生涯を浮かび上がらせ、描かれていない年月さえ感じる広がりを見せてくれました。
 
また抜群のダンス力から、ダンサーとしての活躍も素晴らしい愛希れいかさん。一場面を任され、大勢を引き連れセンターで踊れる数少ない娘役です。
真紅のバタ・デ・コーラで踊った『激情』の情熱的なカルメン。『GOLDEN JAZZ』の野性的なアフリカン。『カルーセル輪舞曲』『BADDY-悪党は月からやって来る-』などの妖艶なダルマ姿。バレリーナ役で見せたすべて。
そして、龍真咲さんとはエレガントに、球城りょうさんとはダイナミックに、デュエットダンスを楽しませてくれました。
 
男役から娘役に転向し、6年もの長きにわたりトップ娘役であり続け、娘役では異例のバウホール主演や写真集発売と、多くの伝説も残しました。
確かな実力と豊かな感性。それらを演出できる芸術的ともいえる身体をもって、見事に表現した数々の魅惑的な役。そのどれもが瑞々しいものでした。
 

憧花ゆりの

憧花ゆりのさんは、2000年、花組公演『源氏物語 あさきゆめみし』『ザ・ビューティーズ!で初舞を踏みました。
憧花さんがまだまだ下級生の頃、大勢の中で踊っていたその姿に「なんてセンスのいいダンスをする人なのだろう……」と引きつけられたのを覚えています。そして気づけば、作品を膨らます舞台人になっていました。
芝居、歌、ダンスと三拍子揃った実力派。ヒロインを務めるいわゆる路線の人ではありませんが、脇役でもない。唯一無二の存在でした。
 
『HAMLET!!』のローゼンクランツ、『ME AND MY GIRL』のマリア、『ルパン―ARSÈNE LUPIN―』のフラディ、『PUCK』のタイテーニア、そして最後の役『エリザベート』のゾフィー。台詞ひとつひとつに重みがあり、刺激的で知性的。どれも“にんまり”としてしまうほどの快感と感動を得るものでした。おそらく多くの座付き脚本兼演出家が「憧花ゆりのにやらせたい……」と役を書いたことでしょう。
組長として組をまとめ、下級生の手本となり、舞台人として作品の質を上げた憧花ゆりのさん。退団は、非常に残念です。
 
そして愛希れいかさん。
しなやかさと強さ、可愛いとカッコイイを比例させた、清く可愛く逞しい月のお姫様。
輝かしい功績を数多く残しましたが、やはり一番心に残るのは、こぼれるような可憐な笑顔でしょうか。
愛希れいか――ステキな表現者でした。
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