清水大星さん・インタビュー
あのラストは“終わり”ではなく“旅立ち”だと思っています清水大星 11年オーディション合格の翌年『ジーザス・クライスト=スーパースター』司祭で四季での初舞台を踏む。(同作では後にジーザス役を演じる)。『リトルマーメイド』エリック、シェフ・ルイ、『ノートルダムの鐘』フィーバス等を演じている。(C)Marino Matsushima
「アニメーションは観たことがあったのですが、小説の方は読んだことがなく、演出家から、稽古の前にぜひ読んでほしいといわれていたので、じっくり読ませていただきました。(本作に関わって)アニメーション版の見え方は、がらりと変わりましたね。登場人物一人一人の必死な生き方や、憧れといったものが感じられますし、表情一つとっても違って見えてきます」
徹底的に楽曲を体に取り込むことからスタートしました
――オーディションにはどう臨みましたか?
「課題曲は“息抜き”だったのですが、リズムや音程が崩れないように、まずはピアノで徹底的に(メロディを)聞き込みました。そして次に、歌詞が正確に伝わるよう、フォーカスがぶれないように歌うことを心掛けました」
――フィーバスという役をどのように作っていきましたか?
「当初は体型が細かったこともあって、はじめは“隊長”らしく見えるよう、運動しながら食べる日々でした。(日本版オリジナルキャストとして)この役で初めて台詞の言い方を考えたり、動線を作っていくということも経験しましたが、(演出家からは)“まずはやってみて”と言われることが多く、自由度が高かったです。
人物像については、はじめは“軽い男がエスメラルダとの出会いによって変わっていく”程度にしかとらえられなかったですが、次第に、そう簡単に説明できるものではなく、表には出ないけれど内面にはすごく深いものを持っている人物なのだな、と感じるようになりました。 戦争を経験したことで一日一日が長くて、生きることに喜びが見いだせなくなっていたフィーバスが、自分より他人のことを先に考えるエスメラルダという人物に出会う。この出会いによって、彼は自分でも着ていることに気が付いていなかった鎧を脱ぐことができたのではないでしょうか。
ただ人間というだけの前提で、魂が惹かれ合う場面を大切にしています
そんなエスメラルダに、自分からも(思い切った申し出をして)お返しをするのが、奇跡御殿で歌う“奇跡もとめて”。ジプシーたちを人間扱いしていない兵隊の一人だった自分が、ジプシーであるエスメラルダと関わるうち、ジプシーも兵隊も関係なく、ただ人間というだけの前提で、もしかしたら恋愛的なものも超えて、惹かれ合う。フィーバスとしては、この曲があることでこの作品に登場する意味がさらに強まると思います。僕が特に大切にしている曲です」
――その後、エスメラルダとフィーバスはフロローたちに囚われ、フィーバスはとりあえずフロローの言うことをきくよう説得しますが、彼女は人間の尊厳のため、首を縦に振りません。そんな彼女の気持ちを尊重するフィーバスの心中というのは……?
「まさにその部分が、僕自身、なかなか受け入れることができず、ずっとつらく感じていました。舞台上でも罪悪感のようなものを感じて、体に力が入ってしまって。でも、彼女もまだ恐怖を感じているのだから、自分のことを考えている場合ではない、と思い直しました。この人が一瞬でも安心していられるならそれでいい。そういう気持ちでいると、相手の心に集中することができるようになりました。それが正解かどうかはわからないのですが……」
フィーバスこそが最もつらいのかもしれない
――彼女の気持ちになって、彼女の決心を受け入れよう、と。
「はい。今回(名古屋公演前)の稽古でスコットさんと話していて、ふと彼が“この後、どうなったんだろう。もしかしたら一番つらいのはフィーバスなんじゃないかと思えてきた”と話してくださったのですが、実際に演じていてそういうつらさはありますね」
――ラストもさぞや……。
「しかし、僕は“終わり”ではなく、“旅立ち”ととらえています」
――そこで得た何かを胸に生きてゆく、と……?
「そう信じたいですね」
――この作品を現代に上演する意義は何だとお考えですか? 「カジモドの外見が物語の発端ですが、単純に外見の話であれば、ほかにもふさわしい戯曲は存在すると思います。それより、登場人物たちの行動、選択を見ていると、人間はわかりにくい面もある反面、非常にわかりやすくもある。人間の本質はいつの世も同じなのだな、という気がします」
――名古屋公演ではお役をどう深めたいと思っていますか?
「自分はこうやる、というところから始めるのではなく、相手役としっかり向き合って、彼・彼女を鏡として、自分を確認できるようになりたいと思っています」
作品を愛し続けられるよう、日々努力をし続けたい
――プロフィールについても少しお聞かせください。四季に入ったのは?
「僕はもともとパイロット志望だったのですが、視力の関係で諦めました。そんな折に『オペラ座の怪人』を観る機会があり、こういう職業があるんだと興味を抱いたんです。舞台俳優について調べているうち、劇団四季のオーディションの話を聞いて受験しました。その時はまだ劇団の本質までは理解できていなかったのですが、長く演劇を続けている劇団だから(修業の)価値はきっとあると思って入団を決めました」
――ということは、歌や踊りは劇団に入ってから?
「ミュージカルに出演したいと思った時に声楽を始めましたが、スタートが遅い分、レッスンにはなかなかついていけず、まずは歌唱力のある方の歌を聴いては真似をする、というところから始めました」
――入団後は大変でしたか?
「そうですね。まず日本語がなかなか上達せず、自分がいつか台詞を話せるようになるなんてありえるのだろうか?と思っていました。もともと自信家ではないけれど、同期のみんなが僕よりはるかに真面目で熱心で。僕には無理なのでは、と諦めかけたこともありました。でも、思い詰めていたところにちょうど先輩が“温泉に行こうよ”と声をかけてくださって……」
――おお、その先輩、素晴らしいタイミングでしたね(笑)。
「はい(笑)。有難かったです」
――これまで演じられた中で、特に印象に残っているお役は何でしょうか?
「やはり『ノートルダムの鐘』のフィーバスですね。ここで学んだことが大きいです」
――『ジーザス・クライスト=スーパースター』のジーザスはいかがでしたか? そこはかとなく色気があり、マグダラのマリアが彼を“一人の男として愛している”というのが納得できるジーザスだと感じました。
「劇団四季の演出ではあまり恋愛的な関係性は打ち出していませんが、どちらにしても、そもそもジーザスとしてはそういう視点は持っていないんです。ですから、自分がこうしたらこう見えるというようなことは考えず、マリアの心に任せていました」
――どんな表現者を目指していますか?
「難しいですね。さまざまな役を演じるたびに、目標として見えてくるものは違ってくるので、あくまで今の目標なのですが、僕はこれまで人に甘えるのが苦手で、一人で考え込んだり、資料を集めて読み込むことが多かったんです。これからはもっとオープンに、心を裸にして俳優として成長していきたいです。
そう思うようになったのはジーザスを演じてからで、やはり(役があまりにも大きく)自分にはどうにもできないことがあると無力さを感じてしまったこともあって。その後フィーバスを演じた時に、嘘の芝居だけはするまい、と思うようになりました。毎日、フィーバスとして感じながら芝居ができるように。そして作品をずっと好きなままでいたい。そのために一日、一日を努力するしかないと思っています」
*次頁で光田健一さんインタビューをお送りします!