シベリアンハスキーの歴史や気質、特徴とは
シベリアンハスキーの歴史や気質、特徴とは
<目次>
シベリアンハスキーの歴史
犬種登録団体ではシベリアン・ハスキーの原産国はアメリカになっていますが、もともとはその犬種名が示すとおり、ロシア北東部にあるチュクチ半島に住むチュクチ族の人たちによって代々飼い継がれてきた犬でした。(シベリアは、広義の意味ではロシア中央部より西にあるウラル山脈あたりから東部まで、そして中国やモンゴルなどの国境に至るまで広大な範囲を指すとされる)別名は、アークティック・ハスキー(Arctic Husky)、シベリアン・チュクチ(Siberian Chukchi)、シベリアン・ドッグ(Siberian Dog)など。「ハスキー」の語源には、遠吠えの声がハスキーだから、「チュクチ」が誤って発音された、「エスキモー」の総称であるなどの説がありますが、定かではありません。
ちなみに、エスキモーというのは単一の民族の名称ではなく、シベリア極東部からアラスカ・カナダの北部、そしてグリーンランドに至るまでの広い範囲に住む先住民族のことを言うそうで、場合によっては差別用語ととらえられることがあり、それぞれの民族としての複雑な立場を感じさせる名称でもあります。
当時のハスキーたちは荷を牽く橇犬として、また猟のヘルパーとしても活躍していたようですが、その類稀なる能力を知った人物を介して1909年にアメリカに渡り、その後、犬橇レースに参加して圧勝したことから広く知られるようになりました。 そして、彼らの存在をさらにアピールする出来事が起こりました。1925年1月、アラスカのノーム(Nome)ではジフテリアが流行し、多くの命を救うため血清を必要としていましたが、豪雪と悪天候で飛行機や列車での輸送経路が阻まれてしまい、犬橇チームがリレー形式で輸送することになったのです。その距離、出発地点となったニナナ(Nenana)からゴールのノームまで約1,000km。通常、犬橇では1ヶ月かかるという長距離を、見事7日間で走破し、無事に血清を届けたという話は映画やアニメにもなっているので多くの人が知るところでしょう。
この時、最後の区間を走ったのがマッシャー(橇の乗り手)Guuner Kaasen氏のチームで、リードドッグ(先頭を走る犬で、賢さや判断力、人や犬との協調性、タフさなど優れた資質を必要とされる)を務めたのが当時まだ3歳で経験も浅かったバルト。そして、もっとも長距離で危険な区間を走ったのがマッシャーLeonhard Seppala氏のチームで、リードドッグは経験豊富な12歳のトーゴが務めたと伝えられています(*1)。
Seppala氏が所有していた犬は、シベリアから連れて来たシベリアン・ハスキーだったそうで、不屈の精神を貫いた感動的な出来事として広く報道もされたことから、シベリアン・ハスキーおよび橇犬は世界に知られることとなりました。
これにはちょっとした続きがあります。ガイドはある時、犬とオリンピックとの関係を調べていたのですが、1932年にアメリカのレイクプラシッド(Lake Placid)にて第3回冬季オリンピックが開催され、その時にデモンストレーションとして犬橇レースが競技として行われたという記録が残っていたのです。その出場選手の名簿を見ていてLeonhard Seppala氏の名を見つけました。同一人物だとするなら、血清を届けた数年後にはオリンピックにも出場していたということになります。凄いですね。記録によると、Seppala氏は2位に入賞(*2, 3)。
YouTubeで探ってみると、なんとその時の犬橇レースの様子が動画で残っており、当時のハスキーと思われる犬の姿も映っているので、興味のある方はご覧になってみてください。
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動画のタイトル『1932 LAKE PLACID WINTER OLYMPIC GAMES IIIrd OLYMPICS 86554a MD』で検索を(犬橇レースは8分43秒あたりから)。
シベリアンハスキーのサイズ
体高:オス53.5cm~60cm メス50.5cm~56cm体重:オス20.5kg~28kg メス15.5kg~23kg程度
平均寿命:12~14歳
サイズ的には橇犬の中でも小型と言われています。
もう一つのハスキー
シベリアン・ハスキーの他に、同じく橇犬として活躍しているアラスカン・ハスキーと呼ばれる犬たちがいます。これは一つの犬種というわけではなく、橇犬としてより活躍できる犬を求め、他犬種と交雑された犬で、その総称として使われています。しかしながら、そんな中でもオーロラ・ハスキー、ハスリア・ハスキーなどある程度の系統をもった犬たちもいるようです。
シベリアンハスキーの毛色
一般的にはグレー・アンド・ホワイトやブラック・アンド・ホワイトなどがよく見られますが、特定の毛色が認められているというわけではなく、ブラックからピュア・ホワイトまですべての毛色が認められています。特徴的なのは顔の模様の入り方で、日本犬で言う「四ツ目」のように、目の上に白い眉毛のような斑模様が出ることもあります。そんなシベリアン・ハスキーの顔を「般若顔」と称する人もおり、一見強面に見えながら、内面的な柔らかさとのギャップがたまらない魅力でもあるようです。
シベリアンハスキーの体の特徴
北方犬種であるだけに被毛は分厚く密で、しっぽは「ブラシ尾」と言われるふさふさとした垂れ尾。三角形の耳は前方に向けてピンと立ち、目はアーモンド形で、片目が茶色でもう片方がブルーというように両目の色が違う(バイアイ/オッドアイ)こともあります。体は筋肉質でタフさを感じさせつつも軽快さを併せもち、橇を牽いて長距離を走破できるだけの強靭な体力と持久力があります。
一見してアラスカン・マラミュートに似ている感じもしますが、マラミュートのほうが大柄で、ブルーの目色は認められていないこと、しっぽも背上に巻き上げているのは大きな相違点です。
シベリアンハスキーの気質
見た目とは裏腹に、おおむね温厚でフレンドリー、人馴れしやすく家庭犬としての資質は十分ですが、警戒心ももちあわせており、好奇心にも溢れています。チュクチ族は好ましい犬以外は去勢をし、また普段は女性が犬の世話をすることが多かったので、子どもとの関係からも穏やかな性格の犬が好まれたという話もあり、長い時間をかけて気質が安定したのかもしれません。タフな分、体を動かすこと、遊ぶことが大好きです。時にイタズラが羽目を外すこともあるかもしれませんが、それはご愛敬ということで。
日本では一時シベリアン・ハスキーが大人気となった後、飼育放棄される犬が続出しました。その理由は、「言うことをきかない、だからバカ犬だ」「扱いきれない」など。そもそも犬にブームがあること自体問題だとガイドは考えていますが、野生を彷彿させるような姿に憧れ、飼ったのはいいもののお手上げとは。人間はなんて身勝手な生き物なのでしょう。
中には「利口度」と称して犬種をランキングしたようなものもあります。しかし、それはたいていトレーニングに対する反応性を視点にしたもので、犬種としての特性や技能などに注目したものではないと思います。
以前、アラスカで犬橇レースに参加している人から、「厳しい条件の時、自分の判断より、犬たちの判断を信じることがある」という話を聞いたことがありました。長く橇犬として生きてきた中で、彼らはそういう判断ができる。だからこそ、マッシャー(犬橇の乗り手)も犬たちに信頼を寄せる。犬としてなんと賢いのだと、ガイドはそう思うのです。
シベリアンハスキーの飼い主に向く人
長距離を移動できるタフさがあるので、やはり運動量は必要になります。それにつきあうだけの体力があり、時間を確保できる人が飼い主には向くでしょう。囲った中で遊ばせてあげられるだけの庭やスペースがあるならなおベスト。飼い主が本を読んでいる横でまったり寝ているというより、外で走り回ることのほうを好むので、運動することやアウトドアが好きな人のほうがより向くと思います。
また、被毛が密な分、換毛期の抜け毛はかなりあるため、犬の毛にアレルギーがある、抜け毛が気になるという人には向かないかも。
シベリアンハスキーの子犬を選ぶ際には
できれば両親犬、もしくは母犬を見ることができるなら、将来的なイメージや性格の安定度など、大きな目安となるでしょう。性格は遺伝しますので、母犬の性格が落ち着いており、子育ての環境も望ましければポイントアップです。また、子犬の社会化期のピークは生後6週齢~8週齢くらいと言われていますが、この間がもっとも感受性が高く、大切な時期となるので、子犬がどういう環境で育ち、母犬や兄弟犬たちと十分一緒に過ごしたか、人とも十分接しているかなどをチェックすることが可能であれば安心材料になるでしょう。
子犬を抱き上げた時に落ち着かずに暴れる、甘噛みが強い、また人への飛びつき方が激しい、オシッコをもらす(いわゆる嬉ション)というような子犬は性格的に興奮しやすい傾向にあり、逆に、寄って来ない、逃げる、しっぽがずっと下がっている、震える、体が固まっているというような子犬はシャイな傾向にあると言えます。
その他、目ヤニが付いていないか、お尻が汚れていないか、歯茎はピンクか、皮膚に異常はないか、痩せ過ぎていないか、脚は真っ直ぐがっしりした感じがあり、立ち方や歩き方に異常はないかなど、健康度のチェックをすることもお忘れなく。一般的には、抱っこした時に子犬にしては重みを感じるくらいのほうがよいと言われていますが、マズル(口吻)が細過ぎないか、頭部がしっかり張っているかも見るといいでしょう。
シベリアンハスキーの飼育ポイント
ガイドはシベリアン・ハスキーと散歩をしたことがありますが、気を緩めると相当な力でリードを引っ張り、引き倒されそうなほどでした。パワーはあります。だからこそ散歩の時には引っ張り癖をつけない、人に飛びつかせないなどのしつけをすることも大事ですが、あり余るパワーを発散させるために橇に代わるようなものを牽かせる、スポーツであればギグレース(犬を専用のリードで自転車につないで一緒に走る競技)、あるいは本格的に犬橇を楽しむという手もあります。もちろん、その場合には犬の体に健康上の問題がないことは基本ですが。そこまでせずとも、運動不足は犬にとってストレスになり、それが問題行動につながることもあるので、十分な運動はさせてあげたいものですね。
また、北方犬種は暑さに弱いので、夏場の熱中症には要注意です。たった2~3時間のうちに熱中症になり、状態が激変するということもあります。気温、湿度、通気、水分補給、散歩の時間帯などに留意し、予防することはお忘れなく。
お手入れではダブルコートで被毛が密な分、特に換毛期にはブラッシングで抜け毛をしっかり取るようにし、シャンプー時には泡の流し残しがないかなど確認を。
シベリアンハスキーで気をつけたい病気
若年性白内障眼の水晶体の一部、または全部が白濁する眼疾患。先天性のもの、老齢性のもの、病気の影響(例:糖尿病)やケガによるものの他、子犬~2、3歳のうちに発症する若年性のものもある。
緑内障
何らかの原因によって眼の眼圧が上がり、見えにくい、痛みなどの症状が出る。早期に発見できれば治療が可能な場合もあるが、失明した後、眼球を摘出したり、中には義眼を入れたりするケースもある。
亜鉛欠乏症
亜鉛は皮膚や被毛、骨の形成などに関係するが、それが欠乏することにより、皮膚炎や発育不良、免疫力の低下などが起こる。シベリアン・ハスキーでは亜鉛の吸収がうまくできない個体もいるとされる。
股関節形成不全
股関節の形成が不十分であったり、変形したりすることによって、腰を振って歩く、ウサギのように後肢を一緒に動かす、立ち上がる時がぎこちない、足を引きずるなどの症状が見られる。遺伝性疾患ではあるが、肥満や滑りやすい床での生活など環境的要因も影響する。
など
野性味を感じさせながら、内面はほっこり優しいシベリアン・ハスキー。家庭犬として存在感たっぷりの犬になることでしょう。
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注:犬は生き物です。性格、気質、体高、体重、寿命など、人同様に個体差があることをご承知おきください。
参考資料:
(*1)The Real Story of Amblin’s Balto / AMERICAN KENNEL CLUB
(*2)OFFICIAL REPORT, Ⅲ Olympic Winter Games, Lake Placid 1932, Issued by Ⅲ Olympic Winter Games Committee, LAKE PLACID, NY, USA / Olympic World Library および Olympic Games Museum, Olympic Wintergames
(*3)Club History-1932 Olympics / New England Sled Dog Club など
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