介護

「在宅介護のまま自宅で看取り」は可能か…メリット・問題点・注意点

【看取りも行う訪問看護師が解説】病院や施設ではなく、住み慣れたわが家での在宅介護を望まれる方は少なくありません。自宅で最期を迎える割合は、今後増えていくと考えられています。しかし、自宅での看取りには課題や問題点があります。自宅での看取りのメリットと問題点、病院や施設での看取りを選択することのメリット・デメリットについて解説します。

藤澤 一馬

執筆者:藤澤 一馬

在宅介護と生活設計ガイド

「自宅で看取り」は全体の20%以下…終末期は病院か施設で過ごされる方が大半

終末期をどこで過ごすか

多くの人が、人生の最後の時間を自宅ではなく病院や施設で過ごされています

2018年現在、日本国内での年間の死亡者数は約120万人ほどです。今後はさらに高齢化が進んでいくため、2040年には年間死亡者数は160万人を超えると予測されています。

■死亡数の将来推計
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2015年と2040年では、約年間36万人の死亡者数の違いがあります。出典:厚生労働省 看取り参考資料


これまで以上に命の終わりを身近に感じ、家族や自分自身の最期の迎え方についても考える機会が多くなる時代が近づいてきているとも言えるかもしれません。

近年は60代以降の生活を考える「老活」や、自身の最期を考えて準備する「終活」といった言葉も生まれ、以前よりも命の終わりについて話しやすい空気ができてきたと感じます。

■死亡の場所別にみた年次別死亡数
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介護施設より安く、医療者の目が多い病院での看取りが急増。出典:厚生労働省 看取り参考資料

一方で、自宅で最期を迎える方の割合は、現在20%を下回っています。1950年代は90%、1970年代でも50%の方が自宅で最期を迎えていました。現在、多くの方が病院で最期を迎えるようになった背景として、健康保険制度や医療の充実、家族構成の変化などが挙げられます。日本では少しの体調不良でも入院することができ、家族の介護負担軽減も考えた社会的入院なども少なくなく、以前であれば自宅で過ごしていた時間が、病院での時間へと置き換わってきている面があるでしょう。少子高齢化の中で、病院で最期を迎えることが自然な流れのように定着していったことも挙げられると思います。

しかし最近は、自分自身が最期を過ごしたい場所として、住み慣れた家族がそばにいる自宅を選ばれる方も再び増えてきました。医療や介護サービスの向上により、自宅でも病院や施設に近い医療と介護が受けられるようになったことも、その一因になっているようです。今後は病院で最期を迎えるのではなく、以前のように自宅で最期を迎えることが当たり前の時代に変わっていくことが考えられます。

では、自宅で最期を迎えることは、メリットの方が多いと言えるでしょうか? 実は、必ずしもよいことばかり言えません。自宅で最期を迎える在宅での看取りの弊害や、看取りの場所の考え方について、これまで約80名の方の看取りに立ち会ってきた訪問看護師としての経験も踏まえつつ、詳しく説明をしたいと思います。
 

エンディングノートの在宅での看取り希望が、思わぬトラブルになることも……

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治療目的で人工呼吸器を挿入しても、状態が改善しない限り抜くことは難しい。出典:amana


老活や終活で、自身が最期を迎えたい場所を考え、エンディングノートなどに記されている方は少なくありません。認知症を始めとするさまざまな病気にかかり正常な判断ができなくなる前に……と、準備される方は以前よりもさらに増えていると感じます。

一方で気になるのは、家族に全く知らせずにこれらを準備されているケースがしばしば見受けられることです。その場合、いざ本人が倒れた後に、家族が初めて本人の考えを知ることになります。もし「自宅で最期を迎えたい」と書かれていたら、ご家族は何とかしてその希望を叶えたいと思うでしょう。

しかし現実には様々な事情で、自宅で看取るのが難しいケースもあります。ご家族全員が同じように在宅での看取りに納得されるとは限りません。すべてのご家庭が同じではありませんが、エンディングノートの内容からご家庭内でトラブルが起きてしまった場面などもしばしば目にしたことがあります。

例えば、ご主人が心疾患から脳疾患を合併し、意識は戻らないものの状態は安定されていたAさんのケース。ご主人は気管切開を行い管を入れた状態で過ごされていました。入院期間が長くなるため、転院して病院で看取るか、自宅で看取るか、医師がAさんに選択を求めました。Aさんは、子供が成人しておらず、共働きでご自身にも仕事があることなどから、介護も含めて自宅での看取りは難しいと、病院での看取りを希望されました。しかし、この選択に納得できなかったのが、遠方から来られていた親戚やご主人のご兄弟です。実はご主人が倒れた直後にエンディングノートが見つかっており、そこには在宅での看取りの希望が書かれていたのです。親族の方々は、エンディングノートの内容に反したAさんの選択に激怒し、最終的にAさんは自宅で看取りをすることになりました。しかし病院を離れて訪問看護師となった今、自宅での介護や看取りの現状を知ったことで、当時の在宅での看取りという選択がはたして適切であったのか、疑問に思うことがあります。

病院や施設で看取るより、住み慣れた自宅で過ごすことにはもちろんメリットもあるでしょう。ですが、個人的にはそのご家族の生活や人生を投げ打ってまで自宅での看取りを選ぶ必要はないのではないかと思います。自宅で看取ることは、あくまで1つの選択肢です。事前に相談をし合って決めたものではない意思をどこまで尊重するべきか……。まして世の中の流れなどの世間体を汲み取って判断することはないのではないでしょうか。そのときの家族を取り巻く環境を考慮した上で、適切な選択をすることが大切になります。
 

自宅での看取りのメリット・デメリット・施設や病院との違い

それでは、実際に看取りの場所を判断する上で、自宅での看取りのメリットについて考えてみましょう。

【メリット1】費用の安さ・経済的な負担が少なく済む
自宅で看取りまでの終末期を選ばれる理由の一つに、費用の安さも挙げられるようです。比較的費用が抑えられる特別養護老人ホームでも、月に10万前後の負担が必要です。病院の場合は、高額療養費制度が利用できますが、食事代・居室代等の自費分で自宅より高額になります。在宅介護の場合、1割負担の方は平均して6万程度の費用が必要となります。

【メリット2】距離や時間の制約がなく、家族で時間を過ごせる
施設の場合は自宅との距離があり頻回に訪問できない方も多いこと、病院の場合はお見舞いに行ける面会時間が限られていることに比べ、自宅なら移動の負担や時間などを考えずに、同じ時間を過ごすことができます。病院や施設の場合、本人の体調が変わってご家族が泊まり込みをされるケースもあり、これは肉体的にも精神的にも疲労につながります。

【メリット3】看取りに立ち会いやすい
施設や病院の場合は看取りに立ち会えない可能性も高くなるため、ご自身で看取りたいという希望が強い場合は、自宅の方がメリットが大きいと言えるでしょう。

次に、デメリットについても挙げてみましょう。

【デメリット1】介護する家族の時間や生活への負担が大きい
介護者である家族の時間や生活の確保が困難になることが、現実ではしばしば起こります。介護サービスが自宅に頻繁に訪問することでの精神的疲労、終末期に近づくほど必要になる医療行為の負担もあります。

【デメリット2】家族の苦しみを見ることの精神的な負担が避けられない
在宅で終末期の家族と過ごすことで、家族が苦しむ姿を日々近くで目にし続けることになってしまう精神的な辛さもあるようです。施設や病院の場合は、24時間医療者や介護者がいるため、日常の疲労や心配から解放されますが、自宅で見る場合は精神的な負担はどうしても高くなります。

【デメリット3】痛みや苦しさへの迅速な対応は病院・施設に劣る
自宅で終末期を過ごされる場合、何か体調に異変があったときや苦しいなどの症状が出た場合、救急でない限り、基本的には往診や訪問看護のようなサービスを利用することになります。訪問まではどうしても時間を要してしまいます。病院などであれば、痛みや苦しさへの迅速な対応ができますが、この点も自宅では同レベルの対応は難しいものです。


以上のように、一言で在宅での看取りと言っても、単純に、慣れた自宅で家族に囲まれて人生の最後の時間を過ごすべきだ、と結論付けられるものではありません。メリットもありますが、今後、施設や病院よりも自宅で看取られる方がよいという風潮ができた場合、それに流されて安易に自宅を選択するのではなく、現実的にどう対応するのが、介護する側にもされる側にも最適かを考えるのがよいでしょう。一方で、もし在宅での看取りを選ばれた場合でも、以前よりも様々なサービスができてきているため、それらをうまく利用することで家族の負担を軽減しつつ自宅での生活を送りやすくなってきていることも事実です。

最期を迎える場所・看取りの場所については、様々な視点からメリット・デメリットを考える必要があります。ご本人に正常な判断能力がある場合は、やはりできれば一人で考えるのではなく、事前に家族と話し合われておくことをおすすめいたします。また、もしご本人にすでに正常な判断能力がない場合でも、本人の状況について、ご家族が医療者やケアマネージャーと相談し、自宅以外の選択肢も含めてしっかり検討することは大切です。「縁起でもない話」は、縁起でもないことが起きた時にはできません。ご本人、ご家族が理解し合い、適切な場所を選ぶことができるように話し合える場を、なるべく持つようにしていきましょう。
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