エンリッチド・エアとは
一般的にレジャーダイビングで呼吸するのは「空気」ですが(関連記事『スキューバダイビングで使うのは“酸素ボンベ”?』)、最近では日本のダイビングシーンでも、「エンリッチド・エア」や「ナイトロックス」という言葉を耳にする機会が増えてきました。エンリッチド・エアとは「通常の空気よりも酸素を豊富に含んだ気体」という意味で、ナイトロックスとは「窒素と酸素の混合気体」を指します。
テクニカルダイビングでは、空気よりも酸素濃度が低い(21%以下)のナイトロックスを使用することもありますが、レジャーダイビングではどちらも同じ意味で使われており、「空気よりも酸素濃度の高い、窒素と酸素の混合気体」を「エンリッチド・エア・ナイトロックス(EANx)」と呼んでいます。酸素濃度が32%のEANx 32や酸素濃度が36%のEANx 36が主に使用されており、さまざまなメリット(後述)があることから、多くのダイバーの支持を集めています。
エンリッチド・エアはどうやって作られる?
これまで日本では、純酸素を使用するうえで法律の規制や取り扱いの危険性、製造コストの問題などがあり、なかなか普及しなかったエンリッチド・エアですが、それを打破したのが「メンブレン式(ガス分離モジュール)」と呼ばれる製造法です。これは、装置を使って空気から窒素を分離することにより、酸素濃度の高い気体を作り出すというもの。
純酸素を利用する必要がなく、原材料が空気ということから、安全面&コスト面ともに優れ、注目されています。各自治体での認可も進んできており、次第に取り扱いできる地域も拡大しています。そのほか、純酸素と圧縮空気を混ぜてエンリッチド・エアを作る「分圧混合式」などの製造法があります。
エンリッチド・エアのメリット
ダイビング中、圧力の増加により窒素の影響が大きくなることはCカード取得講習でも学びますが、特に水中で体内に溶け込んだ窒素は減圧症の原因となるため、ノンストップタイム(無減圧潜水時間)内でのダイビングをするのは安全のうえでとても重要なこと。エンリッチド・エアを利用すれば、通常の空気に比べて窒素の濃度が低いため、同じ深度・時間で比較した場合、体内に溜まる窒素の量を抑えることができ、減圧症のリスクが軽減されるというメリットがあります。エンリッチド・エアを使用しても、そのぶん長く潜ってしまっては、結局体内に溜まる窒素を減らすことはできませんが、空気を使用した際の限界内で潜れば、減圧症の可能性は減ります。そのため、安全意識の高いダイバーの中には、空気用のダイブテーブルで潜水計画を立てて、その範囲内でエンリッチド・エアを使って潜ったり、空気用のダイブコンピューターを使用して、エンリッチド・エアで潜る人も。
また、エンリッチド・エアは肺の窒素分圧が空気よりも低くなるため、血液から肺にスムーズに窒素が排出さやすいというメリットもあります(特に浮上時)。上手に利用して、安全にダイビングを楽しみましょう。
エンリッチド・エアを使用する際の注意点
1.「エンリッチド・エア=安全」というわけではないエンリッチド・エアの使用によりダイビングの安全性を高めることができるのは確かです。ただし、これは同条件(深度や潜水時間)で空気を使用したダイビングと比べた際の話。また、酸素にも麻酔作用があるので窒素酔いは起こりますし、酸素分圧が高いため、酸素中毒の危険性もあります。
2.深度制限がある
エンリッチド・エアを使用してダイビングする場合、酸素分圧が高いため、空気を使用してのダイビングよりも酸素の影響を受けやすくなります。そのため、酸素分圧を限界内に抑えて(=酸素分圧が1.4atmを超えない深度に抑えて)酸素中毒を避けなければなりません。深く潜りすぎないように注意しましょう。
3.専用の器材は必要?
ダイビング器材の素材によっては、高濃度の酸素に接することで、発火や爆発、急激な劣化の可能性があるといわれています。一般的なガイドラインでは、40%以下の酸素濃度のエンリッチド・エアでは通常の器材がそのまま使用できるとされていますが、器材メーカーによっては異なる場合もありますので、使用する器材メーカーの奨励する手順に従うことが推奨されます。
4.使用するためには講習を受ける必要がある
前述したメリットや注意点をしっかりと認識し、エンリッチド・エアを使って安全にダイビングを楽しむために、講習を受ける必要があります。エンリッチド・エアのタンクを借りるには、コースを受講していることが条件となるので、早めに受講しておきましょう。ダイビング教育機関PADIでは「エンリッチド・エア・ダイバー・スペシャルティコース」が用意されており、エンリッチド・エアを使用してダイビングを楽しむうえでのガイドラインや、使用する器材、エアの充填、緊急時の対処法など、多くのことが学べます。
5.潜りに行く海にエンリッチド・エアがあるか
日本国内でもエンリッチド・エアを使用できる環境は広がってきていますが、すべてのダイビングサービスで取り扱っているわけではありません。また、取り扱っていても事前予約が必要な場合もあります。潜りに行く前に、利用するお店にエンリッチド・エアのタンクの取り扱いがあるか、確認しておきましょう。
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