ダイビングで背負っているのは酸素ボンベではない?

ダイビング,酸素,窒素,空気,エンリッチド・エア,ナイトロックス,タンク,ボンベ,シリンダー,ボトル,トライミックス,高圧則,酸素中毒,窒素中毒,窒素酔い

テレビ番組などのダイビングのシーンでよく「“酸素ボンベ”を背負って水中へ」などと紹介されていますが、ダイバーが通常、水中で呼吸に使うのは酸素ではありません。

テレビ番組などのダイビングのシーンでよく「酸素ボンベを背負って水中へ」といったような紹介があります。また、ダイビングをしていない人と話しているときに「ダイビングの酸素ボンベって重くないの?」などと聞かれることもしばしば。もしかするとこの記事を読んでいる皆さんの中にも、ダイビングで使うのは「酸素ボンベ」と思っている人がいるかもしれません。
   

水中での呼吸は、「空気」でしている

実際は、ダイビングで呼吸するのは「酸素」ではなく「空気」が一般的です。陸上で普段呼吸している空気が圧縮してタンクに充填されており、レギュレーターを通して水中での圧力に合わせて呼吸できるようになっています。

なぜ「酸素」ではないのかというと、水中の圧力下で高い分圧の酸素を呼吸することは「酸素中毒」につながるからです。酸素中毒には「脳酸素中毒(急性)」と「肺酸素中毒(慢性)」があり、比較的低い酸素分圧(0.5気圧以上)を長時間呼吸した場合は「肺酸素中毒」、高い分圧(1.6気圧以上)の酸素を呼吸した場合は短時間でも「脳酸素中毒」になる恐れがあります。

通常のレジャーダイビングでは、肺酸素中毒になるほど長時間潜ることはまずありませんが、脳酸素中毒には注意が必要です。水中では水深10mごとに1気圧ずつ増えていくため、純酸素(酸素100%)を水中で呼吸するには、酸素分圧が1.6気圧となる水深6mよりも浅い深度にいる必要があり、通常のダイビングには使用できません。

一方、空気に含まれる酸素は約21%で、レジャーダイビングの最大深度となっている水深40mでも酸素分圧は1気圧程度なので、問題なく使用することができます。
 

実は「ボンベ」ではなく「タンク」や「シリンダー」などが正解

また、「ボンベ」という言い方も、ダイバーには一般的ではありません。日本のダイビングシーンでは、空気を充填する容器のことを「タンク」と呼ぶことが多く、スチール製は「スチールタンク」、アルミ製は「アルミタンク」と呼ばれます。「ボンベ」はドイツ語に由来した外来語のようですが、英語では「bomb(爆弾)」となるので、海外でのダイビングシーンではおそらく通じないでしょう。

主に「スクーバタンク」のほか、「シリンダー」や「ボトル」という言い方が一般的で、最近ではテクニカルダイビングが広まってきていることもあり、日本でも「シリンダー」や「ボトル」が使用されるようになってきています。

ということで、もし周りに「ダイビングで酸素ボンベを……」などと言っている人がいたら、上記のように説明をして、「ダイビングで使うのは空気が充填されたタンク(シリンダー)」ということを教えてあげてくださいね。
 

そうは言っても、例外もある...

とはいえ、ダイビングで使用するタンクのすべてが「空気」の充填されたタンクかというと、そうではありません。空気の成分の約78%を占める窒素は、深度下(主に水深30m以深)で「窒素中毒(=窒素酔い)」を引き起こすだけでなく、ダイビング中に体内に蓄積されることで「減圧症」の原因にもなります。そのため、最近では空気以外のガスを使ってダイビングをすることも増えてきました。それが「エンリッチド・エア(ナイトロックス)」です。

  「エンリッチド・エア」とは、通常の空気の酸素濃度が約21%なのに対し、32%や36%などと酸素濃度を高くし、窒素濃度を下げたガスのことです。酸素濃度が高くなるため、酸素中毒を考慮して、潜ることができる最大深度は空気よりも浅くなりますが、同じ深度&時間で空気を使用したダイビングと比べたとき、窒素中毒や減圧症の危険性を減らすことができるのは大きなメリット。

エンリッチド・エアを使用するためのスペシャルティ・コースも用意されており、日本での浸透率も年々高まってきています。また、テクニカルダイビングの世界では、酸素と窒素にヘリウムを加えた「トライミックス」も使用されています。

なお、これまでは「高気圧作業安全衛生規則(以下、高圧則)」により潜水業務における水中での純酸素の使用が禁じられていたものの、2015年4月1日より改正された高圧則が施行され、水中で純酸素を使用することが可能になりました。水中で酸素を呼吸することは減圧症を予防するうえで有効という説もあり、レジャーダイビングの世界でも注目されています。

もしかすると「ダイビングで酸素ボンベを使う」というのも、シーンによってはあながち間違いではない時代がくるのかもしれませんね。

【関連記事】

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。