年金額の改定の仕組みと計算方法――平成30年度(2018年度)版
公的年金の額は、物価の変動や現役世代の賃金水準の変動に連動する仕組みとなっており、毎年4月に改定されます。
公的年金額の改定は毎年4月に行われます。基本的には、前年の物価の変動に応じて改定されることになっています。これは年金受給者の購買力を維持するためです。しかし公的年金の給付は、現役世代の保険料によって支えられていますので、現役世代の賃金が下がってしまうと保険料収入も減少してしまいます。したがって、年金額の改定の際には、現役世代の賃金の変動も反映されることになっています。
さらに、もうひとつ、少子高齢化による人口構造の変化に対応して年金額を改定・調整する仕組みがあります。公的年金制度の持続性と将来世代の給付水準を確保するため、現役人口の減少と平均余命の伸びに合わせて年金額を調整する仕組みでマクロ経済スライドと呼ばれています。
年金額の改定の仕組みと今年の年金額について見ていきましょう。
<INDEX>
■年金額の改定の仕組み
■キャリーオーバーって?
■平成30年度(2018年度)の年金額の計算方法について
■事例で見てみよう、平成30年度(2018年度)の年金額
年金額の改定の仕組み
年金額改定の基本的な仕組みについては、賃金や物価の変動といった短期的な経済動向を年金額に反映させるため、年金を受給し始める際の年金額(新規裁定者)は賃金の変動率によって改定し、すでに受給中の年金額(既裁定者)は物価の変動率によって改定されます。ただし、物価変動が賃金変動より大きい場合には、既裁定者も賃金変動率で改定したり、賃金変動率がマイナスの場合には年金額が据え置かれるなど各種の例外措置がとられています。一方、マクロ経済スライドは、少子高齢化といった長期的な人口構造の変化に対応するため、時間をかけて年金給付水準を徐々に低下させることで、年金制度の持続可能性を確保し、将来世代の給付水準を確保しようとする世代間の分かち合いの仕組みです。具体的には、給付額増大の要因となる受給者世代の平均余命の伸びと、保険料収入減少の要因ともなる現役世代の被保険者数の減少によって給付水準を調整する仕組みです。ただし、前年度の名目の年金額を下回らないようにするという名目下限措置がとられています。
今から14年前、平成16年(2004年)の改正では、年金財政の枠組みが大きく変更されました。保険料の上限が決められ、そこまでは保険料を引き上げるがそれ以降は保険料を固定し、固定された財源の範囲内で給付をまかなうことができるよう、年金の給付額を自動的に調整する仕組みが導入されたのです。これがマクロ経済スライドです。なお、この時の改正によって、現役世代の保険料水準は平成29年(2017年)、上限に達して固定されています。
キャリーオーバーって?
マクロ経済スライドの仕組みが導入されていましたが、物価・賃金変動率がプラスの場合のみ発動する決まりであったため、これまで調整が実際に発動されたのは平成27年(2015年)の1回だけでした。その結果、賃金が低下する中であっても年金額は維持されてきたため、現在の受給者の給付水準は上昇し、将来の受給者の給付水準は当初の見込みより低下してしまうおそれが出てきたのです。つまり、マクロ経済スライドの発動が遅ければ、将来の受給者の給付水準は低くなってしまいます。
そこで、マクロ経済スライドによる調整をできる限り早めに行うことにより将来世代の年金の給付水準の確保を図るという観点から、調整ルールを見直し、景気回復期にそれまでの未調整分も合わせて調整(キャリーオーバー)することとされました。ただし、高齢者の生活の安定を配慮して設定された名目下限措置を維持したものとなっています。施行は平成30年(2018年)4月から始まっています。
ちなみに、賃金・物価スライドについては、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付にするという観点から、賃金変動が物価変動を下回る場合に、これまでのような例外的な扱いは行わず、賃金変動に合わせて年金額を改定する仕組みが徹底されます(平成33年<2021年>施行)。この年金額改定ルールの見直しは、仮に、現在の若年層の賃金が下がるような経済状況が起きた場合は、現在の年金額も若年層の賃金変化に合わせて改定することで、若い世代が将来受給する年金給付水準の低下を防止するものになります。