2人の医師から真逆のアドバイス……どちらを信じるべき?

ミーティング中の2人の医師

同じ視覚をもつはずの専門家同士の意見の違いはなぜ起こるのでしょう? どちらかは間違っているのでしょうか?

健康に関する専門家には、たくさんの職業があります。医師、看護師、薬剤師、歯科医、管理栄養士、等々……。各職種によって健康に関する見方や重視するポイントはやや異なるため、意見が少しずつ違ってくるのはなんとなく想像がつくと思います。

しかし、同じ職種である医師同士や管理栄養士同士であっても、異なる意見を持っていることがあります。例えば何か不安な症状で病院を受診した際に、医師によって真逆のアドバイスがされてしまっては、患者様は混乱してしまうでしょう。もちろん中には明らかに科学的根拠となるエビデンスの乏しい手法を勧めている専門家もいることがあり、これらは往々にして標準的な考えの多くの専門家たちから否定されています。難しいのは、どちらにもそれなりのエビデンスがあり、結局どちらがよいのか甲乙つけにくいような場合です。どのように考えればよいのでしょうか。

専門家でも同一意見にまとまらないことは多い

実は「専門家の意見」と言っても、人が複数いれば、複数の考え方があります。真実は一つなのかもしれませんが、様々な論文や研究発表があり、その切り口も異なる場合、明確な答えを出すのはなかなか難しいものです。例を挙げると、「和食と地中海食のどちらが健康的か」「低糖質ダイエットは有効か」などのシンプルそうなテーマに対しても、同じ専門家同士で異なる考え方をする人がいます。

正反対の考え方をする専門家同士が学術集会などで討論する「ディベートセッション」と呼ばれる場がありますが、この「ディベートセッション」が行われるときは、満員御礼の大人気講演になることが多いようです。

そして面白いことに、いくら専門家が集まっているといっても、ディベートセッションで結論が出ることはありません。どちらの意見も「見方を変えれば」正しい意見であるため、どちらかが圧勝することはないのです。たいていは、両者引き分けで仲良く握手をして終了するような印象です。

専門家も人間である以上「認知バイアス」をどう捉えるか

専門家でも意見が統一されないケースが珍しくないことは、ディベートセッションの例でお分かりいただけるかと思います。

このような意見の違いが起こる理由は、人間ならそれぞれ誰もが持っている「こうだったらいいのにな」という先入観に由来します。この先入観を「認知バイアス」といいます。

上記の、和食と地中海食のどちらが健康的かという問題でも、日本人であれば「日本人には和食でしょ?」という思いがありますので、「和食のほうが健康的」と思いたくなるのが人情だと思います。そのため「和食のほうが健康的」であるという研究結果を選んで深く勉強し、それを一般の人にも広めようと考えがちです。

対して、ヨーロッパの人たちは「地中海の恵で育った食材が日本の和食に負けるはずはない」と思っているので、地中海食が健康的というデータを選んで知識を深めていくでしょう。

どちらも、もともと健康的な食事であることは間違いありませんが、「どちらが優れているか」に結論を出すのは難しいものです。私が考えるに、人種によって合う、合わないがあるような気もします。本当の答えを知るためには、地道に1人ずつのデータを集め、集積することを何千人、何万人と行っていく必要があるため、相当な時間と労力、そして研究費用がかかります。いずれ結論が出るときが来るかもしれませんが、それはかなり先の話と言ってよいでしょう。

先述の「ディベートセッション」が人気になる背景には、専門家自身もどちらの意見にも一長一短があることをよく理解しているため、自分は専門家としてどちらの考えで患者様や利用者様を導いていけばよいのか、腹を括りに行くという気持ちもあると思います。そして、それぞれの持ち場に戻って、それぞれの専門家がそれぞれの思いを加味した上で、「自分は専門家としてこう思う」を一般の方たちに伝えていくのです。

そのためでしょうか。時として「どうしてそう考えたの?」と他の専門家だけでなく一般の人さえもが驚くような情報が出てくることも往々にしてあります。

私も難しい専門用語を避けて、できるだけ平易な言葉を使うために四苦八苦していますが、ニュースや情報記事は一般の人が知らない情報を分かりやすく伝えることを大切にしています。そのため、途中で情報が誤って伝わってしまうこともあります。

例えば、以前話題になった、世界的なテニスプレイヤーのジョコビッチ選手の「グルテンフリーダイエット」では、一般に広まっていく中で、「グルテンを食べない」という元々の情報が、グルテンは小麦粉に含まれているため「小麦粉を食べない」と途中で変わってしまっていました。こういったケースも珍しくないことです。

「自分」にとって有益な情報の選び方

それでは、いわゆる「専門家の間でも諸説ある」状態のとき、自分に有益な情報はどう考え、どう選べばよいでしょうか。

私がもっとも分かりやすいと思うのは、まずは「この報告の前提条件は、自分と同じ?」と考えることです。

例えば、「話題のグルテンフリーダイエットをしたい」と考えた場合、ジョコビッチ選手と自分の前提条件が同じなのかを考えます。ジョコビッチ選手は男性でセルビア人。プロのテニスプレーヤーで運動をする時間の多い方です。ご自身はどうでしょうか? 性別は同じ人もいると思いますが、この記事を読んでいる人で、セルビア人の人はほとんどいないと思います。趣味でテニスを行っている人はいるとは思いますが、プロのテニスプレイヤーの人は少ないのではないでしょうか。

このように、自分とはまったく条件が違うダイエット方法を取り入れても、ジョコビッチ選手と同じ結果を手に入れることは難しいと考えるのです。

他の情報源も同じです。自分と近い条件の人が、しかも一人ではなく数多くの人が実行して試したことの結果であれば、自分も同じ結果を手に入れやすいのではないか?と考えてみることです。

このように考えれば、先述の「和食と地中海食」のディベートセッションで、どちらも数多く体によい影響が報告されているような場合、「和食の研究報告の多くで研究対象となっているのは日本人だから、日本人の自分には和食の方が体に合うだろう」と考えて実行すれば、自分も報告と同じ結果、ここでいえばより健康な状態を手に入れやすいと考えられます。

以上、分かりやすい2つの例を挙げましたが、どの情報でも考え方は同じです。

インターネットの普及に伴って、私たちが得られる情報量は格段に増えてきました。私自身、日本人である私たちに近い条件の情報を中立な立場で執筆するように心がけてはいますが、「皆さんに健康になってほしい」という一心から、まだ偏った情報を提供してしまっているかもしれません。

「中立であること」に留意して書いている私の記事ですが、それでも、日本人であり女性であり管理栄養士であり各病院で栄養相談に携わってきた「私」という個人のバイヤスはかかっています。読者の方にはそのまま鵜呑みにせず他の情報にも接した上で、ご自身にもっとも適した情報を選びとっていただきたいと思っています。
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