犬の睡眠時間……「睡眠」は大切なもの
犬の睡眠時間
<目次>
人の睡眠のパターン
人が眠る時、ノンレム(non-REM)睡眠とレム(REM)睡眠、覚醒状態が交互に繰り返されることはよく知られています。ノンレム睡眠とレム睡眠とのパターンは平均的に約90分で、夜間になるにつれ、間隔が長くなるということですが、レム睡眠時には急速眼球運動が見られ、脳の活動が活発な状態で、ノンレム睡眠時は血圧や体温が下がり、呼吸も安定して深い眠りにおちていきます。その割合は、一晩の眠りのうちレム睡眠が25%で、75%はノンレム睡眠にあたるそうです(*1)。これまで夢はレム睡眠の時に見ていると言われてきましたが、いや、ノンレム睡眠の時にも夢を見ているようだという研究結果が昨年発表されていますので(*2)、人の睡眠においてもまだまだ不明なことが多いということなのでしょう。
犬の睡眠パターン
犬におけるノンレム睡眠とレム睡眠のパターンは20分前後?:(c)STUDIO TEC/a.collectionRF/amanaimages
また、ペンシルバニア大学獣医学センターのエイドリアン・モリソン教授(行動神経科学)も、「哺乳類の動物はみな同様の基本的睡眠サイクルをもっており、レム睡眠時は哺乳類動物を通して球速眼球運動や体のぴくつきなどが見られる」としています(*3)。
犬と暮らしている方なら体験的におわかりのことでしょうが。
では、犬の睡眠パターンは?というと、オーストラリアのマードック大学が行った研究では、犬24頭の睡眠時の観察分析から、平均的に睡眠16分と覚醒5分のパターンが見られ、8時間のうちでこれが23回繰り返されたということです(*4)。
また、それより古くはありますが、6頭のポインターを用いた睡眠研究では、徐波睡眠(slow-wave-sleep/ノンレム睡眠に含まれ、熟睡状態に関連するとされる)とレム睡眠、そして覚醒状態(眠そうながら周囲に注意をはらっている状態)を記録して分析。その結果、トータル的には徐波睡眠が23%、レム睡眠12%、眠そうな状態21%、覚醒状態44%だったそうです。レム睡眠の平均的な長さは6分で、そのサイクルは20分。睡眠と覚醒状態のサイクル平均83分のうち睡眠の平均時間が45分、覚醒状態は38分であり、このサイクル中、平均的に2回のレム睡眠が見られたと報告しています(*5)。
いずれにしても、犬のノンレム睡眠とレム睡眠とのパターンは人より短いということなのでしょう。
人の睡眠時間
こうした睡眠パターンをもちながら、人や動物はどのくらい眠るものなのでしょうか? 参考までに、前出の全米睡眠財団が推奨している人の睡眠時間は以下のようになります。- 生後3ヶ月までの新生児 ⇒ 14~17時間
- 生後4ヶ月~11ヶ月の幼児 ⇒ 12~15時間
- 1歳~2歳の幼児 ⇒ 11~14時間
- 3歳~5歳の子ども ⇒ 10~13時間
- 6歳~13歳の子ども ⇒ 9~11時間
- 14歳~17歳 ⇒ 8~10時間
- 18歳~64歳 ⇒ 7~9時間
- 65歳以上 ⇒ 7~8時間
犬の睡眠時間はどのくらい?
シニア犬の場合、夜間の睡眠が分断されがちになる
では、犬はどのくらいでしょう? 犬の場合、推奨睡眠時間というわけではありませんが、一般的に眠る時間については以下のように言われています。
- 子犬 ⇒ 18~19時間くらい
- 成犬 ⇒ 12~15時間くらい
シニア犬に関しては、日中の活動量が成犬と比較すると17%、若犬と比較した場合は42%程度低下し、夜間の活動量についても低下すると言われています(*7)。また、睡眠中にはレム睡眠が減少すると共に、日中における覚醒状態の分断、および夜間の睡眠の分断が見られる(*8)という研究報告もありました。
後者の研究では、シニア犬の睡眠の乱れは加齢による自律神経バランスの変化によるものなのかもしれないとしていますが、夜間に睡眠が分断されるのであれば、その眠り足りない分を昼間に眠っており、必然的に若い頃より眠っている時間が長くなったと感じることになるのかもしれません。
ちなみに、人であっても加齢するごとに徐波睡眠やレム睡眠も減少し、夜間の睡眠の分断が見られるようになるそうです。
犬の睡眠に影響する要素
さて、睡眠と一口に言っても、眠る時間(長短)や睡眠パターン、その質などには個体差があり、いろいろな要素の影響も受けます。それには主に以下のようなものが考えられます。- 年齢
- 犬種
- 運動
- ストレス
- 環境
- 病気
- 食事
- 体重 など
犬種や活動スタイルによる睡眠の差
睡眠中、目を覚ましやすいタイプの犬では、より睡眠環境を整えてあげるのがいいだろう:(c)officek/a.collectionRF/amanaimages
- マスティフ系の大型犬
- セント・バーナード
- バーニーズ・マウンテン・ドッグ
- ニューファンドランド
- グレート・ピレニーズ
- バセット・ハウンド
- ブルドッグ
- クランバー・スパニエル
- チワワ など
犬種差と言えば、ひとつユニークな調査結果がありました。イギリスのドッグフードメーカーWagg Foodsが同国内の犬の飼い主1,000人を対象にした愛犬の睡眠に関する調査で、「夜間に愛犬が眠っていると思われる時間」について、やはり犬種による差が見られています。それは、以下のとおり。
- ブルドッグ ⇒ 47%
- ビーグル ⇒ 45%
- ラーチャー(犬種ではなくグレイハウンド系のミックスタイプの犬を指す) ⇒ 42%
- ジャック・ラッセル・テリア ⇒ 40%
- ラブラドール・レトリーバー、ボクサー ⇒ 37%
- スパニエル ⇒ 36%
- ジャーマン・シェパード ⇒ 34%
- ゴールデン・レトリーバー、シー・ズー ⇒ 32%
- コリー ⇒ 30%
- テリア ⇒ 28%
- パグ ⇒ 24%
- シープドッグ ⇒ 12%
ジャック・ラッセルとテリア、コリーおよびシェパードとシープドッグが別枠になっていますし、飼い主の感覚が多分に影響しているだろうと思われますから、判断材料としては少々緩いものではありますが、それでもやはり犬種による差はあるということでしょう。
シープドッグの睡眠時間が極端に短いのは、その歴史上、羊を駆り集めたり、守ったりする中で俊敏さや判断力が求められた分、神経も過敏で繊細であるだけに、睡眠中も目覚めやすいのではないかという意見があります。同じシープドッグでありながら、コリーやシェパードの睡眠時間がやや長いのは、体が大きいことが関係しているのかもしれません。
しかし、一方で、前出のように哺乳類の中では象のような大きな動物のほうが眠る時間が短い傾向にあるというのは、なんとも興味深い点です。
なお、この調査報告では、3分の2以上の飼い主は睡眠中の愛犬が走っているような様子を見せたことがあり、40%の飼い主は愛犬が睡眠中に唸るのを聞いたことがあるとも答えています。みなさんはどうですか?
運動、ストレス、環境などによる睡眠への影響
運動やストレス、環境などが睡眠に影響することは犬でも同じです。ほどよい運動は心身に刺激を与え、快適な睡眠へとつながりますが、運動不足になると、それが犬にとってストレスに変わり、心身に悪影響を与えてしまうことがあります。夜間に起き出してイタズラをする、落ち着いて眠らないというような犬では、もしかしたら運動不足や、そこからくるストレスがあることも考えられます。散歩の回数や運動量を増やすことで問題行動が軽減される場合もあるように、運動量を少し増やしてあげることで睡眠を改善できるかもしれません。
その他、寝場所が落ち着かない、環境に何かストレス原因があるというケースもありますので、環境や寝場所を見直してあげることも必要でしょう。犬の睡眠研究の中では、飼い主が無意識に犬を起こしてしまっている様子も観察されていますので、愛犬の睡眠の質を考えるのであれば、必要以上に起こさないような環境を用意してあげることもポイントと言えるでしょう。
睡眠の問題は、もしかしたら病気の可能性も?
愛犬が眠るパターンや様子も観察しておきたい:(c)PRESS AND ARTS/a.collectionRF/amanaimages
(例)
- 甲状腺機能低下症
- 運動器疾患による慢性的な痛み
- ナルコレプシー
- 睡眠時無呼吸症候群
「最近、寝ていることが多くなったなぁ……」と感じる場合、運動器疾患のような慢性的な痛みが原因になっている場合もあります。関節系に特化した獣医師によると、このような犬では、夜間の睡眠が分断され、よく眠れずに、その分、昼間に眠っていることが多くなるそうです。
また、ナルコレプシーは人でも見られる睡眠障害ですが、1999年にスタンフォード大学(アメリカ)のEmmanuel Mignot博士率いる研究チームがドーベルマン・ピンシャーとラブラドール・レトリーバーを用い、この病気を引き起こす遺伝子を特定しています(*10)。
いずれにしても、愛犬が眠る様子に何かおかしいと感じることがある場合は、動物病院で診察を受けることをお勧めします。
意外な盲点? 食事と体重による影響
さらには、食事が1日1回より、2回であるほうが夜間の活動が増えるという睡眠研究報告もあります(*7)。人は就寝の直前に食事を摂ると、眠っている間に消化活動が行われることになり、深部体温(脳や内臓など)が下がりづらくなることから、起床時に疲労感が残るなど、質のよい睡眠をとりにくくなるので、なるべく就寝の3時間前くらいまでには食事を摂ったほうがいいと言われます。犬にも同じようなことが言えるかはわかりませんが、就寝の直前に食事を与えると夜間にトイレに行く必要が増えるので、直前には与えないほうがいいかもしれないという意見は確かにあります。また、水分を摂り過ぎたりすれば夜間にトイレに起きる回数も増えることでしょう。
そもそも、眠っている間には体がエネルギーを蓄えているので、バランスのよい食事を与えたいものです。
その他、肥満であれば動くことがおっくうで、眠っているというより寝ていることのほうが多くなりがちです。肥満は気管虚脱のリスクも高めると言われますので、睡眠時に呼吸が苦しいというのも辛いはずです。肥満の場合は、無理のない範囲でダイエットをすることも愛犬の睡眠改善につながるのではないでしょうか。
愛犬の快適な睡眠のために
(犬にも使えるかは不明ですが、睡眠時間を計測できる時計というのもあります)
少しでも愛犬に快適な睡眠をと思うのであれば、睡眠に影響を与える要素に配慮するということだと思います。加えて、マッサージや気分が落ち着くアロマ、犬が好む音楽などを取り入れるのもいいでしょう。ベッドの素材や作りにこだわるのもいいかもしれませんね。睡眠不足は、負の刺激に対する神経および自律神経の反応を強化するとも言われます(*11)。適度な運動、バランスのいい食事、それを与えるタイミング、寝場所の環境づくり、ストレスの回避、健康管理、愛犬の好みや特性などを考慮して、愛犬の睡眠を考えてみてください。
なお、シニア犬の場合は、ぐっすり眠らせてあげることも必要ですが、一方では、筋力低下予防や健康維持のため、寝てばかりにならないよう気をつけてあげることも大切です。
近年では、シェルターにいる犬たちにとっての睡眠の質を考える研究も行われていたりします。人にとっても、犬にとっても大切な睡眠。どうぞご愛犬とよい睡眠時間をお過ごしください。
参考資料:
(*1)WHAT HAPPENS WHEN YOU SLEEP? / NATIONAL SLEEP FOUNDATION
(*2)The neural correlates of dreaming / Giulio Tononi, Bradley R. Postle et al. / Nature Neuroscience volume20, P872-878(2017), doi : 10.1038/nn.4545
(*3)ANIMALS’ SLEEP : IS THRE A HUMAN CONNECTION? / NATIONAL SLEEP FOUNDATION
(*4)Sleep-wake cycles and other night-time behaviours of the domestic dog Canis familiaris / G. J. Adams, K. G. Johnson / APPLIED ANIMAL BEHAVIOUR SCIENCE, April 1993, Volume 36, Issues 2-3, Pages 233–248, doi: https://doi.org/10.1016/0168-1591(93)90013-F
(*5)Baseline sleep-wake patterns in the pointer dog / Lucas EA, Powell EW, Murphree OD / Physiol Behav. 1977 Aug;19(2):285-91
(*6)HOW MUCH SLEEP DO WE REALLY NEED? / NATIONAL SLEEP FOUNDATION
(*7)Effect of age and feeding schedule on diurnal rest/activity rhythms in dogs /
Brian M. Zanghi et al. / Journal of Veterinary Behavior, ovember–December, 2012, Volume 7, Issue 6, Pages 339–347 doi: https://doi.org/10.1016/j.jveb.2012.01.004
(*8)Age-related changes in sleep-wake rhythm in dog / Takeuchi T., Harada E. / NCBI, PubMed, Behav Brain Res.2002 Oct 17;136(1):193-9.
(*9)BARKING MAD : One in four Brits believe their dog SLEEP WALKS / THE SUN
(*10)Stanford researchers pinpoint gene that causes the sleep disorder narcolepsy / Stanford Report, August 11, 1999, Stanford University
(*11)Sleep deprivation lowers inhibition and enhances impulsivity to negative stimuli / Clare Anderson, Charlotte R. Platten / Science Direct, Behavioural Brain Research, Volume 217, Issue 2, 1 March 2011, P463-466, doi: https://doi.org/10.1016/j.bbr.2010.09.020
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