都市にジャストサイズのコンパクトSUV

SUV人気は翳りを知りません。現在はコンパクトSUVと呼ばれるジャンルが、世界的な流行です。たとえばメルセデス・ベンツならばGLAやGLC。BMWではX1やX3。アウディはQ2やQ3といったモデルです。国産車に目を移しても、たとえばレクサスはNXが販売の中心ですし、マツダはCX3をはじめとするSUVシリーズが、今や屋台骨を支えるモデルとなっているほどです。

人気の理由はさまざまですが、一般的なセダンやハッチバックモデルに飽き足らないユーザーが、非日常の雰囲気や生活に余裕が感じられるキャラクターからSUVを選んでいることがあげられます。また、もともと大柄なボディがSUVの特徴でしたが、今は都市部での取り回しや駐車スペースの制約にも苦労をしないジャストサイズという理由でコンパクトSUVが注目されています。
レクサスNX

レクサスNX。2018年ジュネーブショーでは、さらにコンパクトなモデルが披露された。

今回は、そのSUVの魅力を探っていこうと思いますが、まずはSUVの起源から振り返ってみましょう。とはいえ、各国の軍用車をベースにした4WDモデルを対象にするとかなりの広範囲に及んでしまいますので、ここでは「乗用車ベースのモノコックボディを使用したSUV」という括りにします。

SUV人気の火付け役はレクサスRX300


SUVは、Sport Utility Vehicle(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)の略で、文字どおりスポーティな外観や走り、快適性と機能性などを併せもったクルマという意味です。

その発祥の地ともいえる北米では、郊外にある家庭のクルマに対するニーズは(1)父親が通勤をはじめ日常の足として乗る快適な室内空間、(2)母親が週に1回スーパーマーケットで大量に買い物で使用するための広いラゲッジスペース、(3)周辺の未舗装路を気兼ねなく走破できるクロスカントリー性能……が主なものでした。つまり(1)
ラージサイズのセダン、(2)ステーションワゴン、(3)クロスカントリー4WDというモデルです。

そんな市場に対して1998年にレクサスがRX300を投入しました。これは、現在もレクサスのラインアップにあるRXの初代モデルで、日本名はハリアーです。それまでのSUVがフレームの上にボディを乗せたトラックベースであったのに対して、RX300は乗用車をベースとしていましたからモノコックボディを採用。必然的に乗り心地がよく静粛性にも富んでいました。極端な悪路を走破するようなクロスカントリー性能や重量級のキャンピングトレーラーや船を牽引するのではない限り、モノコックボディ仕様のSUVで一般ユーザーは十分でした。
レクサスRX300

プレミアムSUV人気の先駆けとなった、初代レクサスRX。

乗り心地のよさや静粛性の高さは父親が乗るセダンのニーズを満たし、広いラゲッジスペースとテールゲートは母親が乗るステーションワゴンのニーズに応え、郊外に多い未舗装路にも躊躇なく進入できるクロスカントリー性能も持ち合わせたRX300は、当時としてはまさに待望のモデルだったといえるのです。また、それまでのSUVは、快適性や内外装のクォリティは二の次でしたが、RX300以降は「プレミアムSUV」と呼ばれるほどすべての質感が高いことも特徴のひとつとなり、富裕層を含む幅広いユーザー層を獲得することにも成功しました。

各国のプレミアムブランドが、続々SUV市場に参入


発売以降、レクサスRX300が北米市場で爆発的な人気を博している様子を、競合ブランドたちが指をくわえて見ているはずがありません。BMWはX5、ボルボはXC90、アウディはQ5、ポルシェはカイエン、フォルクスワーゲンはトゥアレグと、続々とプレミアムSUV市場に参入しました。現在のSUV市場における熾烈な競争は、ここから始まったものといえるでしょう。

こうして誕生した各ブランドのプレミアムSUVですが、世界中でヒットを飛ばすには問題がありました。それは、ボディサイズの大きさや燃費性能の悪さです。当時の北米市場において大柄なボディは問題になりませんし、燃料代が安いため燃費性能を気にするユーザーも多くはありませんでした。ところが、ヨーロッパや日本をマーケットとして考えたときには、どちらも量販するには致命的です。そこで各メーカーは、同じデザインをもつひと回り小さなボディをもち、燃費や環境性能を優先したパワートレーンを搭載したSUVを兄弟車として世に送り出しました。それが、冒頭でお伝えした各ブランドのコンパクトSUVです。

問われる各ブランドの個性

BMW X5

各国のプレミアムブランドが、こぞってプレミアムSUV市場に参入してきた。

各国の主要ブランドがSUVの開発と拡販に注力するなか、やはり大切なのは各ブランドの個性です。これはSUVに限ったことではありませんが、ブランドの歴史や伝統をデザインや性能に生かしながら、現代のユーザーが望むニーズをいかに反映させるか、そこが難しいのです。とくにSUVというカテゴリーが難しいのは、セダンやステーションワゴン、ミニバンよりも、ユーザーが求める要件が多岐にわたるからです。つまり、本格的なクロスカントリー性能を求める方、広い快適な室内空間と荷室が必要な方、走行性能にはこだわらずSUVの雰囲気を楽しみたい方などです。

そこで駆動方式にもバリエーションが増え、4WDの走行性能にこだわらないユーザーのために2WDのモデルが用意され、都市型SUVという名の下にいわゆる「なんちゃってSUV」が人気を集めることになりました。そうすると、走行性や走行フィーリングまでブランドの個性を打ち出すことが容易になり、勢い、SUV人気に拍車がかかることと繋がっていくわけです。

デザイン、質感、走行性能、走行フィーリング、乗り味。そのような観点で比較をしてみると、とくにメルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、ポルシェ、ボルボあたりは個性の演出が巧みです。その理由は簡単で、ブランドのアイデンティティやキャラクターが明確に確立されているからです。各ブランドのもつイメージ、メルセデス・ベンツならば重厚感や安心感、BMWならばオンロードでの軽快なハンドリング、アウディはデザイン性と先進技術、ポルシェなら圧倒的なパフォーマンスとラグジュアリー性…そんな具合です。つまり、どのブランドも、旗艦モデルに乗ってもSUVに乗っても、すぐにそのブランドであるとわかるような造り方が確立されているということです。
ベントレー・ベンテイガ

ラグジュアリーブランドもSUV市場に続々参入を開始。

今ではマセラティ、ベントレー、ジャガー、ランボルギーニまでもがSUV市場に進出しています。節操がない…などと陰口を叩く人も少なくありませんが、これはユーザーの声に応えたものでしょうし、市場が活性化することは喜ばしいことです。今後もSUVがどのように進化し、わたしたちのカーライフをどれほど彩ってくれるか、楽しみな限りです。

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