アドバイス1 繰上返済は10年後にこだわらず早めに行う
いくつかご相談がありますが、まずは住宅ローンについて。完済は78歳のとき。この年齢まで住宅ローンを背負うのは、老後生活の家計においてかなりの負担となります。ボーナス払いを併用している点も、老後に入ってからの返済を難しくします。したがって、りくさんが言われるように、繰上返済による返済期間の短縮はどうしてもしておきたいところ。ただし、「10年後」と時期を決めているのは、おそらく住宅ローン控除をフルに活用したいという理由だと思いますが、それにこだわる必要はありません。可能なら早めにすべきです。
しかも、それができる環境も整っています。1000万円の貯蓄があり、年間の貯蓄額は84万円。300万円を繰上返済しても、4年足らずで貯蓄から捻出した分がリカバーできます。仮に、この時点(返済開始から1年後)で300万円を繰上返済すれば、4年3カ月短縮され、利息軽減額は約68万円となります。
住宅ローン減税は、ローン開始から10年間、年末のローン残高の1%(最高40万円)の所得税(控除しきれない分は住民税の一部)が控除されるという制度です。単純計算で、1年目に300万円繰上返済すると、しない場合より年末のローン残高が毎年300万円ずつ少ないことになります。したがって、その1%にあたる3万円の差が、毎年の控除額に出ることになりますが、必ずしもそうはなりません。
詳しい計算はここではできませんが、りくさんの年収・家族構成から考えて、実際に還付される税額は年15~17万円くらいだと思われます。つまりは、年末のローン残高が1700万円程度まで下がらないと、残高による控除額に差は出ません。途中300万円の繰上返済をしても、10年後のローン残高は1770万円ほど(途中金利は変わらないとして試算)。つまりは、繰上返済をしてもしなくても、残り9年間、控除額は変わらないということです。
ちなみに11年後に300万円の繰上返済をすれば、短縮期間は4年、利息軽減額は約46万円。同額でも時期が異なることで、短縮期間が3カ月、軽減利息で約20万円の差があります(※)。繰上返済のメリットという点でも、早めの方が効果的だということです。
資産状況から考えて、現時点で500万円の繰上返済は可能だと思います。短縮期間は約7年(軽減利息額は110万円ほど)ですから、完済年齢は71歳。できれば、65歳の完済を目指したいので、あと6年。11年目以降に同額を繰上返済すれば、ほぼ達成できます。今の貯蓄ペースが維持できれば、10年間の貯蓄額は840万円。決して無理なプランではありません。
アドバイス2 死亡保障は必要なし、医療保障は入院5000円で十分
次に保険ですが、「手薄なことも心配」とのこと。ですが、今後も独身であるなら、死亡保障は不要です。資金を遺す必要性がないからです。お葬式代という考えもありますが、貯蓄があればそれで十分です。医療保障については、現在がん保険に加入。保険料から考えて、終身保障終身払い、入院1万円でしょう。がん以外の病気やケガに対しては、健康保険(高額療養費制度や傷病手当金制度が利用できる)で十分と考えれば、新たに保障を加える必要はありません。どうしても心配なら、医療保険に加入してもいいですが、その場合、入院は5000円に抑えてください。共済保険(保険料は2000円程度)を利用してもいいと思います。
クルマの買い替えについては、貯蓄ペースを維持し、かつ一般的な予算(上限で200万円台前半)であれば、さほど問題はありません。貯蓄からその資金を捻出すればいいでしょう。
アドバイス3 老後資金づくりはiDeCoを利用、加えて65歳まで働く
最後に、老後資金について。ざっと試算すれば、60歳の時点で手元に残る資金は1200万円ほど(繰上返済が1000万円、クルマの買い替え250万円を想定)。これに退職金を加えた金額が、老後資金となります。この金額で「足りる」とは断言できませんが、大きく困ることもないと思います。そもそも、りくさんは貯蓄体質で、家計管理も無駄がありません。そう考えれば、日々の老後生活は公的年金の支給額の範囲内で収められる可能性もあります。老後資金づくりとしては、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の利用がいいと思います。積立額が全額、所得税控除となりますので、住宅ローン減税の期間が終わる10年以降、節税効果が得られます。また、これまでは積み立ての限度額(りくさんの場合、月1万2000円もしくは月2万3000円)が月単位で決められていましたが、今年から年単位となったので、ボーナスを利用したいという人にはより拠出しやすくなりました。
ただし、拠出した資金の引き出しは原則60歳から。また、金融機関によって用意されている運用商品も、かかるコストも異なります。ご自身でよく調べてから、口座を開設してください。
また、定年後、少なくとも65歳までは働くことが重要です。公的年金の支給がなく、予定では少なくとも65歳までは住宅ローンが続くことになりますから、この期間、収入を得るか得ないかは大きな違いです。これは、有効な老後対策でもあります。
また、今抱えている負債をできるだけ効率的に減らしていくこと、それは今できる老後対策となります。先に触れた繰上返済を積極的に行うことは、結果的に老後に備えていることになるわけです。
(※)実際の短縮期間や軽減利息額については、利用されている金融機関に試算をしてもらってください。
相談者「りく」さんから寄せられた感想
とても詳しくアドバイスしていただき、不安が軽くなりました。無理せずにこれまで通りの生活を心がけたいと思います。今後必要となる費用の目安も具体的にわかりやすく解説していただいたので、備える目安がわかりました。相談して良かったです。ありがとうございました。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武
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