総務・人事

職場のフリーアドレス制、その効果と運用ポイント

働き方改革の一環で導入が進む「フリーアドレス制」。フリーアドレスとは、固定席を設けず、毎日違う席で仕事をするオフィススタイルです。フリーアドレス制のメリット・デメリット、導入時の課題を導入企業の事例を交えて解説します。

豊田 健一

執筆者:豊田 健一

総務人事・社内コミュニケーションガイド

「フリーアドレス」、実は日本独自の言葉

職場のフリーアドレス制、その効果と運用ポイント

総務が行う働き方改革。フリーアドレス導入企業が増えている

多くの会社で働き方改革が進められています。残業規制やテレワーク、副業などの人事制度改革等、事部や総務部が主役となるチャンスです。特にオフィスは、その会社の社員であれば使わざるを得ず、上手に仕掛けると効果は倍増します。

その手段の一つとして注目されているのが「フリーアドレス制」。フリーアドレスとは、社員が個々の自席を持たず自由に働く席を選択できるオフィスのこと。一人ひとりに与えられていた自分の席がなく、空いている席や自由な場所で働きます。

フリーアドレスという言葉、実は日本生まれ。

海外では「ノンテリトリアル・オフィス」(領土を持たないオフィス空間)といいます。同じように、社員が携帯電話やPCを片手に、自由なデスクで仕事をするスタイルです。

では、このフリーアドレス。そのメリットとデメリット、導入時のポイントについて見ていきましょう。
   

フリーアドレスのメリット

  • 1 社内コミュニケーションの活性化
毎日座る場所が変わり、部署や部門、立場を越えた交流が可能になります。イノベーションに必要とされる「他部門の社員との偶発的な出会い」が簡単に起こります。

自由に席が選べるので、部署や役職に関係なく、現在の業務やプロジェクトに応じて、近くに座る人を決められます。部署を横断するチームやプロジェクトの編成も容易になり、コラボレーションが促進されます。周りに座るメンバーが日替わりなので、新鮮な気持ちで仕事ができるでしょう。

自ら目的を持って日々の座席を決め、必要性によって周囲とコミュニケーションを取るスタイルなので、社員の主体性、自律性を伸ばすことも期待できます。
  • 2 スペースコストの削減
外回りの営業パーソンが主体のオフィスであれば、人数分の席は必要ありません。フリーアドレスによって、オフィス面積を削減できるでしょう。空席が少なくなり、稼働率の高いオフィスになります。座席分をミーティングスペースにしたり、他の用途に活用したりすることもできます。

自席でミーティングを行うことが増え、会議室の数も減らすこともできるでしょう。私物を座席に放置しないため、一人当たりのスペースを減らすことができます。

さらに、社員の増減や部署異動時にも、レイアウト変更や電話回線、電源、LAN設備等の移設工事が必要なくなり、その分のコストも削減できます。
 
  • 3 整理整頓、ペーパーレス化の促進
フリーアドレスでは次に席を使う人のため、毎日の終業後に全ての荷物を片付けなければなりません。導入企業の多くは、紙の資料や仕事道具は個人ロッカーに片付ける、というルールにしています。

この個人用ロッカー、さほど大きくないケースが多く、仕事道具や書類を減らさないと収納仕切れません。結果、多くの書類を所持できなくなり、書類を少なくする意識が芽生え、ペーパーレス化が進みます。
 

フリーアドレスのデメリット

  • 1 所属部署内のコミュニケーションの希薄化
他部門とのコミュニケーションが活性化されても、部署内のコミュニケーションは以前よりも希薄になる可能性があります。集団意識、組織への帰属意識が希薄となることも考えられます。
  • 2 集中作業が困難に
周囲の環境が随時変わるフリーアドレスでは、集中が妨げられることもあります。フリーアドレスは随時人が出入りすることが前提なので、そもそも集中作業には不向きなスタイルです。この対策として、個室や囲われた「集中スペース」を用意する企業が増えています。

ある調査によると、日本人の6割は内向型であるとされており、あまりにもオープンすぎる空間や、他者との距離が近すぎることにストレスを感じる人もいるようです。自社の社員の特性も踏まえた上でフリーアドレス導入と範囲を決めましょう。
  • 3 席の固定化
社員がメリットを実感しないままだと、席が固定化され、「何のためにフリーアドレスを導入したのか?」という事態になりかねません。ここでは、「くじ引きなどでその日に座る席を決める」といった必然的に席を変える仕組みが必要でしょう。カルビー本社は、ダーツによりランダムに席を決める手法を取り入れています。
 

フリーアドレスに向く部署・向かない部署

作ったら終わりではなく、固定席にならない運用が大事

作ったら終わりではなく、固定席にならない運用が大事

職種や業務によっても、フリーアドレスの向き、不向きがあるでしょう。
  • 向いている部署
外回りが多い営業や企画部門など、他部署との交流により新たなアイデア生まれる部署は、フリーアドレスに向いています。
  • 向かない部署
管理部門など、固まっていた方が仕事がしやすく、また重要書類を扱う部署などは不向きと言えるでしょう。
 

一部に限定した「グループアドレス」制も

完全なフリーアドレスではない、「グループアドレス」というスタイルもあります。部署ごとにエリアを決め、エリア内でフリーアドレスとするスタイルです。

働く場所を選べ、チームとしての一体感も保ちつつ、他部署との交流もできます。マネジメントもしやすいため、最近フリーアドレスを導入する企業は、この「グループアドレス制」を採用することが多いようです。
 

フリーアドレスには設備投資が必要

フリーアドレスにでは、どこでも仕事ができるようにするための環境づくりが欠かせません。
  • モバイルPC
  • 携帯電話
  • 社内のネットワーク環境整備
  • 社外からのネットワークアクセス整備
  • 無線LAN
  • 会議室のモニター/プロジェクター
  • 社員カード認証式でどこからでも使えるプリンタ
  • 私物や仕事道具をしまう個人ロッカー
などが必要になってくるでしょう。

フリーアドレス・グループアドレス・従来型の固定席……。
ワークスタイルを変更する前には、対象部門にアンケートを取るなどで使う側の意見をしっかりとヒアリングし、全社一律ではなく、個々に最適なオフィススタイルを提供することが重要です。
 

オフィスに導入後の運用がカギ

フリーアドレスは、自ら席を選び、毎日異なる人とのコミュニケーションをするので、社員がそこに意味を見出せないと、かなりストレスフルな環境になります。

フリーアドレス導入の失敗の多くが「私物がおかれたまま」「特定の席に特定の社員が座る」等々で、「結局固定席になってしまった」ことが原因です。

フリーアドレス導入は、使う側の社員がそのメリットを実感できるかどうか、つまりは物理的なレイアウトではなく、運用面に成功するかどうかが掛かっているのです。


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