名門復活への期待を一身に背負った、新型SUV
2016年11月のロサンゼルス・オートショーでお披露目されたブランド初のSUVモデル。四つ葉のクローバーを意味するクアドリフォリオは、アルファロメオのレース活動の象徴として、レースカーやハイパフォーマンスモデルなどを飾ってきた
それだけ、よく知られた名前ではあるのだ。いかにもイタリア語らしい“単語の調べ”(語感)が、誰にとってもカッコよく聞こえ、覚え易いということかもしれない。
けれども、そんなアルファロメオが今、どんなクルマを作っていて、どんな規模の会社であるかについて、正確な知識を持つ人は、きっと少ないことだろう。クルマ好きであっても、詳しい人は多くない。
簡単に説明してみよう。アルファロメオは今、FCA(フィアット)の傘下にあるいちブランドである。小型ハッチバックモデル(ミトとジュリエッタ)とスポーツカー(4C)を作っていて、その生産規模はごくごく小さく、一時は数万台レベルまで落ち込んで、存続の危機に陥った。最近になってようやく、ジュリアというグローバルサルーンの生産を軌道にのせたばかり、というのがシビアだけれども現状の見立てだ。
創立1910年という老舗ブランドであり、戦前には世界最高レベルのレーシングカーを製造していたメーカーであったにも関わらず、70年代以降は、何度かスマッシュヒットを飛ばしたものの、成功をつかみとれずにきた、有名なのに売れない悲劇のブランド。日本では世界を見渡しても稀なくらいに熱狂的なファンが多く、過大評価され易い。それがために、かえって実状を見失いがちになって……。
ボディサイズは全長4702mm×全幅1955mm×全高1681mm、ホイールベース2818mm。クアドリフォリオにはカーボンインサート付きボディ同色サイドスカートなどを装着、よりスポーティなスタイルに仕立てられている
世界的にSUV人気が広まるなか、16年秋のLAショーにおいて、ステルヴィオは衝撃のデビューを飾る。17年春には本格的な生産も始まって、ヨーロッパはもちろん、アメリカや中国といった“SUVを出す理由になった市場”では既にデリバリーもされている。イタリア本国では、なんとジュリアと人気を二分する存在にまでなった。
“背が高いジュリア4WD”の“ニュル最速SUV”グレード
デザインコンセプトやパワートレーンの種類、シャシーのシステムなど、主要なパートはジュリアとほぼ共通だと思っていい。アルファロメオにおけるジュリアとステルヴィオは、BMWにおける3シリーズとX3、メルセデス・ベンツのCクラスとGLCクラス、と同じ関係だ。要するに、“背が高いジュリア4WD”。ということは、ジュリアで最も注目を浴びた、あの高性能グレードも当然、用意されている!
ノーマルグレードのデビューから遅れること約一年、ステルヴィオ・クアドリフォリオの国際試乗会がアラブ首長国連邦(UAE)で開催された。
中東もまたSUVにとっては最重要なマーケットのひとつ、だから、UAEでSUVの試乗会自体は、それほど珍しくない。
けれども、クアドリフォリオのフレコミは“ニュルブルクリンク最速のSUV”だ。砂漠を走破してみたところで、面白いはずがない、と思っていたら、UAEにも素晴らしいワインディングロードがあると知って驚いた。UAE最高峰のジェベルジャイス山の頂上付近から見下ろしたワインディングロードのある風景は、このクルマの名前の由来にもなったイタリア・スイス国境のステルヴィオ峠そのものじゃないか! 冬の今、とてもじゃないが試乗コースとしては使えそうにない本家の峠に代わって、“UAEのステルヴィオ峠”というべきジェベルジャイスが、ステルヴィオ・クアドリフォリオ国際試乗会の舞台になったというわけだ。
ステルヴィオのサイズはほとんどBMW X3と変わらない。けれども、ジュリアと同様に、ダイナミックなうねりを強調するスタイルであるがゆえ、SUVであるにも関わらず大きさをさほど感じることはなく、やっぱりスポーツカー的な雰囲気を漂わせている。
インテリアもまた、ジュリアのデザインテイストを色濃く引き継いだ。レザー巻きダッシュボードに、カーボンファイバートリム、レザー&アルカンタラのスポーツシート、といった構成もまた、ジュリア・クアドリフォリオと同じ。
心臓部も同じく、マラネッロ(フェラーリ)と共同開発した2.9L直噴V6ツインターボ+8AT。510psを発し、0-100km/h加速は3.8秒という、スーパーカー級の快足ぶり。ちなみに4WDシステム“Q4”は、必要時に最大50%の駆動をフロントにまわす。通常は後輪に100%の駆動をかけている。
ジュリアとよく似た、スポーツカーも顔負けのハンドリング
何から何まで本当に、“背が高いだけのジュリア”なのだ。では、肝心のドライブフィールのほうが、どうか。一般道での乗り心地はハッキリと硬めだ。ボディがジュリアほどがっちりと引き締まっていないからか、若干、フロア振動などの雑味もあったが、おおむね良好。ずっしりとしたハンドルの扱いと、きびきびとして前輪の反応、力強い発進性能に、クワドリフォリオらしさが早くもにじみ出る。そして、何よりも爆音。ドライブモード選択のDNAプロをダイナミックにして走れば、豪快なサウンドを辺りに響かせる。アラブ人はクルマ好きが多く、道行く民族衣装の男たちから大注目を浴び続ける。
とはいえ、このクルマの本領発揮はスポーツドライビングだ。ドライブモードをレースに入れ、ジェベルジャイスの美しい峠道を駆け上った。
トルクベクタリングがシャープな効きをみせ、恐ろしくクイックなステアリングギアレシオと相まって、スポーツカーも顔負けのハンドリングをみせる。サルーンのジュリアとよく似た動きだが、タッパのある分、倒れ込むようにして曲がっていくから、鋭さを余計に感じる。視線が高いから、進路の様子を見極めるのも容易。そのぶん、思い切ったラインをトレースすることができた。
絶大なトルクに支えられてのダッシュ力は本当にすさまじく、登りをまるで苦にせずぐいぐい加速する。そして、峠に木霊する豪快なエグゾーストを聞けば聞くほど、SUVを運転していることなど忘れて、まるでスポーツカーに夢中になっているかのようにドライビングに没頭してしまうのだった。
日本へは、ノーマルグレード(ジュリアと同様の設定になる予定)が18年中ほどに、クアドリフォリオは18年内に導入される予定だという。