「南フランスの片田舎の家」というイメージを実現してくれる建築家を雑誌やネットで探すうち、MDSの森清敏さんと川村奈津子さんの家造りに出会い、男女のペアならばご夫婦それぞれの話を聞いてくれるのではと期待して、ご自邸の設計を託しました。
方形屋根の下のキューブ状の家
南側の外観。緩やかなカーブを描く自然石によるアプローチが玄関まで続く。庇の深さは約1m。 |
隣地から見た北側の外観。ピラミッド状の方形屋根(ほうぎょうやね)はガルバリウム鋼板縦ハゼ葺き。 |
前庭のウッドデッキから玄関を見る。アールのついた壁が訪れる人を玄関に誘い込む。 |
隣地と接する東側の既存の塀を利用して造られたウッドデッキ。 |
杉羽板材の玄関ドア。外壁とコンクリートのタタキとの間に玉砂利が敷かれている。 |
吉祥寺の駅から歩くこと20分。井の頭公園の南側に広がる住宅地の一画にHさんのお宅が建っています。
この建物は間口と奥行きが約7mの正方形のプランで、正面の南向きの高さ約5mの壁面には、屋根の庇の下に伸びる横長の窓以外はあえて窓を設けていません。これは南側に個室を設けたためと、家族のプライバシーに配慮したデザインなのです。
敷地の南側を前庭として植栽を施し、東側にはデッキテラスを設けています。緩やかなカーブを描く石畳のアプローチに誘われて足を進めると、やがて木の玄関ドアにたどりつきます。
構造は大黒柱と差鴨居の伝統工法
玄関から入った正面に大黒柱が立ち上がる。 |
廊下の東側にある手洗いから大黒柱を見る。左のアールの付いた入口からトイレとウォーキング・クローゼットに入る。 |
構造の要となる大黒柱とペアになった差鴨居(さしがもい)。 |
ダイニングから天井を見上げる。大黒柱のトップに仕掛けられた照明が天井を明るく照らす。配線は柱の背割りの中に這わせている。 |
クレバスのような階段スペース。右(南側)にロフトが見える。左は丸鋼を使ったダイニングの間仕切り。 |
ロフトの天井の高さは約1.4m。落下防止を兼ねた細長いテーブル状の手摺が走る。 |
玄関を入ってまず目に飛び込んで来るのが、室内の中心に立ち上がる大黒柱です。そこに「差鴨居(さしがもい)」という伝統工法を使って太い梁が組まれています。この家の要となる構造が現しになっているのです。
内部は床面が時計回りに少しずつ上昇するスキップフロアになっていて、2階の床面を支える全ての梁が大黒柱に繋がっています。そもそもこの大黒柱は屋根を支えるものではないので、天井の頂点の下1.4mで止めているとのこと。
桜を愛でる大きな出窓
室内の西側にあるオープンキッチン。壁収納の上部に付けられた間接照明がキッチンを明るく照らす。 |
キッチンの足元には床下収納が設けられている。 |
天井に架けられた鉄のバーから吊り下げられたペンダントライトが、ダイニングテーブルを照らす。 |
キッチンからダイニングを見る。腰掛けになる北側の小上がりは収納も兼ねている。 |
フィックスのガラス窓から隣地の桜を眺める。奥行きは約90cm。脇に通気用のスリットが付いている。 |
階段で2階に上がるとキッチンとダイニングが現れます。キッチンはオープンタイプですが、ダイニングと向かいあう側にカウンターを立ち上げて手元が見えないようにしています。キッチン家電や調理道具などは、背後の壁収納に仕舞うようにして、いつでもすっきりした印象になるように工夫されています。
ダイニングの中心にはテーブルが置かれ、北側と東側にL字形の小上がりの床が立ち上がっています。北側には奥行きのある縦横2mの大きな出窓があります。ここから隣の幼稚園の桜を借景として、居ながらにして花見を楽しむことができるのです。夜は室内からライトを当てて夜桜も堪能されています。
明るい光が降り注ぐ南向きのリビング
リビングから大黒柱と天井を見る。手前は手摺を兼ねた本棚。大黒柱の左は個室、右側はメンテナンススペース。 |
南側に面したリビング。横長の窓から外の光が室内に降り注ぐ。深い庇が夏場の強い日射しをコントロールする。 |
リビングから個室を見る。高さ150cmの壁で仕切られた室内の広さは約4.8帖。西と北にそれぞれ窓がある。 |
ダイニングの南東側に位置する深緑色の壁の洗面とトイレ。その奥には白いバスルームか控える。 |
約4.5帖の広さのコージーな寝室。白い壁には間接照明が仕掛けられ、南東の角の壁は緩やかに弧を描いている。 |
1階のアールの入口の奥に控えるウォーキング・クローゼット。赤紫色の壁の室内の広さは約2.6帖。 |
ダイニングからさらに階段を上がると南向きの明るいリビングが現れます。庇の下に開けられた横長の窓から入り込む外の光が、北側のダイニングまで明るく照らします。リビングの先はこの家で最も高い場所ですが、現在は子供室として使われています。
街で見かけたアンティーク家具やリビング雑貨などで部屋を飾り、南フランスの片田舎の雰囲気づくりを楽しまれているHさんご夫妻。これからもお子さんの成長と共に、この家での快適な暮らしは続いていくことでしょう。
[井の頭公園の家] | |
所在地: | 東京都武蔵野市 |
構造・規模: | 木造 地上2階 |
竣工年月: | 2016年3月 |
敷地面積: | 120.15m2 |
建築面積: | 48.05m2 |
延床面積: | 90.85m2 |
設計・監理: | MDS/森清敏 川村奈津子 |
構造設計: | 大賀建築構造設計事務所 |
森清敏+川村奈津子[MDS]プロフィール
共にゼネコンの設計部で建築の実務を経験し、2002年に事務所を設立。「新しい形や機能を追い求めるのではなく、 時を経ても愛され続ける建築の実現を目指して、気持ちの良い空間を誠実につくる」をモットーに、これまでに首都圏を中心に数多くの戸建て住宅を設計。他にも事務所建築や店舗デザインも手がけています。近書に、これから家を建てる方に向けて書かれた住宅設計の指南書『暮らしの空間デザイン手帳』(エクスナレッジムック刊)があります。MDS 一級建築士事務所 |
Tel.03-5648-0825 |
http://www.mds-arch.com/ |
川村奈津子 [Kawamura Natsuko] 森清敏 [Mori Kiyotoshi] |