建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

昭和初期の洋風建築の粋が活かされた別荘 植物学者の軽井沢の家

元テニス仲間のIさんの軽井沢の別荘を見学しました。かつて外国の植物学者の別邸だったこの家は、冬の寒気と夏の湿気のせいで傷みが進んでいましたが、昭和ロマンの趣が残る瀟洒な建物でした。

執筆者:坂本 徹也

植物学者が建てた自然を満喫するための家

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鬱蒼たる森を抜けて光のある場所へ…

元テニス仲間のIさんの軽井沢の別荘を見学させていただきました。かつて外国の植物学者の別邸だったというこの家は、冬の寒気と夏の湿気のせいで傷みが進んでいましたが、昭和初期の洋風建築の粋が活かされた瀟洒な建物でした。

まずはこのロケーションに驚愕。鬱蒼とした旧軽井沢の森を行くと、行く手に明るい芝生の庭が見え、その正面の“陽のあたる場所”に2階建ての洋館があります。白く塗られた木造の建物は、「もっと光を!」と言わんばかりに開口部を広げ、洋風文化に急速に傾倒していった昭和初期の日本の状況を垣間見せてくれるようです。聞けばもともとの建て主は植物学者の方だったとか。建物全体に開けられた広い開口部から、つねに四季折々の植物を観察し愛でるための家だったのでしょう。

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絵に描いたような“別荘”とはこんな建物のこと

しかしながら、その思惑は軽井沢の気候とは必ずしも一致しなかったようです。聞けば、軽井沢は夏場(とりわけ梅雨の間)はかなり湿気が強く、冬の寒さは想像以上のもの。この建築様式では、よほどメンテナンスをしっかりしないとアッという間にガタガタになってしまうそうです。

乾ききった大陸気候の国の建築物をそのまま移築しても、適合するとは限りません。なので、内部にはそうとう痛みが来ている場所があり、今の持ち主であるIさんは、通年住める場所としてここを全面的に改築(というより新築)することを決意されたそうです。たしかにインテリアの諸処に生きる昭和ロマンの面影はなかなか捨てがたいものがあり、軽井沢という地にシンボリックな存在感を放っていただけに、周囲からもったいないとの声も上がったのですが、通年で住むとなるとちょっときつい印象でした。

究極のくつろぎの場、芝生に面したサンルーム

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光の庭に向かって開かれた“縁側”的なサンルーム

建物の脇にある玄関から入ると、そこは陽光きらめく芝生の庭に向かって開かれたサンルーム。ここがそのまま客人を迎え入れる饗応の場所となっています。日本家屋の縁側に近い発想なのでしょうか、この家でもっとも過ごしやすく居心地のよい空間が広がっています。遠く都会の喧噪を離れて、軽井沢の清涼な空気の中でくつろぐ場所としては最高なのではないでしょうか。庭ではIさんの愛犬たちが、小さな木ぎれをおもちゃ代わりにの~んびりと遊んでいました。

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夏が来れば思い出す~と思わず口ずさみたくなる

庭で遊ぶ愛犬たち
陽光あふれる自然のドッグラン

続く部屋はマントルピースのあるリビング。マントルピースがあるところを見ると、冬場への対応を考えてのことかと思いますが、軽井沢は9月でも寒い日はかなり寒いとか。ほんとに暖をとるための実用品のようです。

昭和初期の洋館らしさの残る居間
秋口でも実際使うという暖炉

さらに左手奥には、やはり庭に抜けられる小さなダイニング+キッチンがあり、階段ホールを中心にバスルーム、トイレなどの水回りが並んでいます(ここがかなり老朽化)。ダイニングはこじんまりとしてなかなか居心地のいい空間。直接庭に出ることのできる洒落た開口部もあります。庭を愛でながらお昼にいただいたアルザス地方のハム入りスープ(シュクルーゼ)がとっても爽やかで美味しく感じられました。

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ちょっと貴族的な気分の味わえるシャンデリアのある食堂

こじんまりとしたキッチン
童話の世界そのままの壁紙

-->>引き続き2階をご案内いたしましょう!

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