建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

大屋根の下に広がる開放的な暮らし[ナガレノイエ]

建築家・比護結子さんと柴田晃宏さんが手掛けた建築実例をご紹介します。屋外も暮らしの一部として取込むことができる「家らしい家」を、という建て主の要望に答えた、三角の大屋根の下のどこにいても外に視線が向く大らかで開放的な家が生まれました。

執筆者:川畑 博哉

千葉県流山市の典型的な郊外の住宅地に建つ、大きな三角屋根が目を魅く木造住宅です。建て主のKさんはお子さんの成長を機に「のびのびと子育てをしたい」という思いで、都心からは離れてはいても、周囲に豊かな緑の残るこの土地に移り住むことにしました。
Kさんはネットや雑誌でikmoの家造りを知り、比護さんに設計を依頼。打ち合わせを重ねながら設計を進める中で、「家らしい家」「半屋外で過ごす」というキーワードが出てきたのです。

大きな三角屋根の家

外観
前面道路から土間までは約1.2mの高低差があるアプローチがあり、東側には築山を設けている。庭全体にクローバーが植えられ、アプローチには既存の塀を再利用した大谷石を敷いている。
外観
南側に設けられた広めの駐車場。母屋との高低差は1.2m。銀色の外壁の寝室が三角屋根から張り出す。屋根はアスファルトシングル葺き。
外土間
コンクリートの外土間は、5枚のガラス引戸でリビングの土間と仕切られている。左側(西側)はバスルームの引戸。
外土間
引戸をいっぱいに開けると外土間と内土間が一体化する。バスルームの上はバルコニー。
外土間
外土間から庭を見る。コーナーに柱が無いので、築山の先の隣の庭にまで視線が抜ける。梁に付けられた金具には、ハンモック、簾、蚊帳などを吊るすことができる。

最寄りの駅から農地をぬけて約10分ほど行くと、緩やかな勾配の起伏に沿って、南側に庭を持つ寄棟造りの屋根を載せた住宅が建ち並ぶゆったりとした住宅地が現れます。ここは40年ほど前から開発されてきた郊外住宅地で、世代交代や新交通の開通による人口増加から、家の立て替えが進んでいます。
その一画に建つKさんの家は、寄棟造りの屋根に壁を建てるのではなく、縄文時代の竪穴式住居のように、約10m四方の大屋根を架けました。その下に広がる土間や家族が囲む囲炉裏のような場所には、昔からのおおらかな「家らしさ」のイメージが溢れています。

大屋根の下の大テーブルと階段

土間
家の真ん中に2階に伸びる鉄製の階段。トップライトから室内に光が降注ぐ。
土間
土間はコンクリート金ごて仕上げ。床暖が入っている。テーブルの高さは土間の床から70cm。
階段
テーブルが階段の一部になるユニークなデザイン。テーブルの足元はアウトドア用品の収納になっている。
土間
土間の東側はテレビ、エアコン、小物、靴などの造り付けの収納になっている。テレビの下は将来飼う犬のスペースとして使う予定。
書斎
テーブルの北側の書斎から階段越しに前庭を眺める。階段の下に本棚が設えてある。

外土間から内側の土間に足を踏み入れると、3m四方の大きなテーブルと階段が目に飛び込んできます。見上げると長さ8mのトラス大梁がつくる大屋根が現れます。その下の吹抜けの真ん中に階段が立ち上がる景色は圧巻です。
屋根の中になる2階の空間は、「キ」の字に架けられた大梁によって6つのパートに分かれ、寝室、子供室、納戸、バルコニー、吹抜け、外土間と、それぞれ質の違う空間をつくりだしています。

多目的に使える広い小上がり

台所
テーブルの角にシンクが付いている。足元は土間の床より17.5cm下げている。背後はガスレンジと収納のコンパクトなキッチン。隣の扉を開けると約2.5帖のパントリーが現れる。
小上がり
テーブルの北側に東西に伸びる奥行きのある小上がり。足元は床下収納。奥の縁なし畳が敷かれた和室は、カーテンで仕切る事ができるようになっている。
土間
土間の北東の角にある窓から隣家の庭を眺める。
風呂
外土間から見たバスルーム。壁はFRP防水、床はコンクリート金ごて仕上げ。
風呂
バスルームのガラリ網戸とガラス戸を開けると外土間と繋がる。

土間の真ん中にあるのは3×3mの大きなテーブル。キッチンの足元は土間より17.5cm下げて、テーブルの高さを87.5cmとするなど、生活に合わせてテーブルの高さを決めています。
テーブルの背面は奥行き2.2m、幅4.4m、高さ45cmの小上がり。普段は子供の遊び場や書斎の腰掛けとしてに使われ、小上がりに続く約3畳の畳敷きの空間は休憩スペースや客室として活用されています。
バスルームは外土間と床の高さを揃えているので、木製のガラリ網戸とガラス戸を開けるとそのまま外土間とひとつになり、露天風呂のような開放感を楽しむことができるのです。

バルコニー付きのツートーンカラーの寝室

階段
子供室の窓から階段を見下ろす。
寝室
寝室の白くペイントされた壁は、大屋根の外に飛び出したボリュームを現している。
バルコニー
大屋根の正面の一部を切り欠いてバルコニーの窓としている。
外土間
バルコニーから外土間を見下ろす。コンクリートの周りの犬走りには砕石が敷き詰められている。

階段を昇りきると約7帖の寝室です。室内の壁を2色に塗り分けていて、白い壁が屋根の外に張り出したヴォリュームを表現しています。寝室から続くバルコニーからは、外土間と前庭を見下ろせ、正面に街の高台にある神社の森を眺めることができるのです。
快適な生活を実現するための様々なアイデアを施したこの家は、「家の中に居ても、周りの自然を感じながら楽しく暮らしたい」というKさんご一家にとって理想的な「家らしい家」となりました。三角屋根は大きなシェルターとなって、これからもお子さんの成長と家族の日常を見守り続けていくことでしょう。

[ナガレノイエ]

比護結子+柴田晃宏[ikmo]プロフィール

東京工業大学の同窓である比護結子さんと柴田晃宏さんが1999年に結成した一級建築士事務所。「既成概念にとらわれない自由な発想による豊かな空間づくり」をモットーに、これまでにユニークな戸建て住宅やリノベーションを数多く手がけてきました。
    
一級建築士事務所 ikmo
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    柴田晃宏 [Shibata Akihiro]    比護結子 [Higo Yuko]


これまで登場したikmoの住宅

◆[クウハウス]Top
◆[トコヤノイエ]Top
所在地: 千葉県流山市
構造・規模: 木造 地上2階
竣工年月: 2017年7月
敷地面積: 229.95m2
建築面積: 68.83m2
延床面積: 88.50m2
設計・監理: 一級建築士事務所 ikmo
構造設計: オーノJAPAN
TTel.03-5683-2623
http://www5b.biglobe.ne.jp/~ikmo/
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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