*瀬奈じゅんさんインタビュー(本頁)
*大原櫻子さんインタビュー(2頁)
*観劇レポート(3頁)
『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』
ジニーン・テソーリによる、弦と管楽器を生かしたアコースティックなサウンドに彩られ、近くて遠い“家族”の物語を描いた『FUN HOME』。2015年のトニー賞で、作品賞を含む5部門を受賞した話題作が、『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』のタイトルで日本で上演されます。
アリソンを演じる3世代の女優のうち、43歳の“今”を演じるのが瀬奈じゅんさん、そして大学時代のアリソンを演じるのが大原櫻子さん。“今”のアリソンが“過去”を回想しながら、父の死の真相に迫ってゆくさまを時にリアルに、時に詩的に、ユーモアをまぶしつつ演じます。不思議な魅力に満ちたこの作品を、二人はどのようにとらえ、表現してゆくでしょうか。現時点での抱負をじっくり、うかがいました。
瀬奈じゅんさん(“今”のアリソン役)インタビュー
「かなり難度は高いけれど、作品世界の実感を大切に、丁寧に演じたい」瀬奈じゅん 東京都出身。宝塚歌劇団月組トップスターを経て、2010年『エリザベート』タイトルロール以降、女優として活躍。『シスター・アクト』『貴婦人の訪問』等に出演している。(C)Marino Matsushima
「作品も素敵だと思いましたが、何より演出の小川絵梨子さんと一度お仕事をしてみたかったのが決め手でした。小川さんの演出作は以前からいろいろ観ていて、最近では『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』がすごく面白かったんですよ。出演された方々も魅力的でしたが、演出がシンプルなのにとても印象的で、『ハムレット』外伝のようなお話に時事ネタというか、現代的な台詞も盛り込まれていたんですね。シェイクスピアの時代と現代のバランスが素晴らしかったです。言葉で勝負している、という感じがしました」
――本作にはまず台本から当たられたのでしょうか?
「まずは動画サイトでトニー賞でのパフォーマンスなどを観て、取り寄せたCDを聴いて、その後に台本と原作漫画を読みました」
――では映像の第一印象からうかがえますか?
「ともすると重い題材なのに、すごく柔らかく、のどかに表現するんだなあというのと、ブロードウェイでは円形劇場で360度お客様から見られるので“これは気が抜けないなぁ”というのと、子役の方たちが素晴らしい!と思いました。
それから台本を読んだのですが、ミュージカルの台本は一般的に“こういう感じで事が運ばれてゆくだろう”というのがだいたい想像できるのに、この作品は台本だけではそうそう理解できないなと思いました。それと、これを日本語にして日本で上演したときに、ブロードウェイと同じような感覚で観ていただけるかな、という感じもありました。
例えば以前、宝塚で『アーネスト・イン・ラブ』というお芝居をやったとき、「よいお天気で」という台詞があって、それは晴れることがほとんどないイギリスだからこそ面白い台詞なのですが、日本人にはわかりにくい。今回もLGBT に対する意識を含めて、そういう部分がたくさんあるし、私が演じるアリソンという女性も、(レズビアンであることを)カミングアウトすることで楽観的になってゆくのですが、それが日本でどの程度分かっていただけるかなという不安はあります」
――一見、きっぱりした女性のアリソンですが、43歳で過去を振り返るまでには……。
「いろいろな葛藤はあったはずだと思います。台本の次に原作漫画を読んだのですが、作者は(過去に起こったことを)すごく客観的に文学的に書いてるけど、葛藤してこういう思いだったというようなことをあんまり吐露していないんですよね。気づいたら自分は女の子にはなりたくなくて、女の子らしい服を着るのも嫌になっている。本当のところ、その内面はどうだったのか、自分が演じる前提で読んだからか、余計に知りたくなってしまいました」
――本作では子役さん、大原櫻子さんと瀬奈さんがそれぞれ子供時代、大学生時代、今(43歳))のアリソンを演じるという趣向ですので、ほかの二人を見ているうちにヒントが生まれてくるのかもしれないですね。
「お稽古するにあたっては、自分はこういうアリソンを作ろうと思わずに、二人がどういうふうに役作りをしていくか、どういう心のひだを作るかというのを見ながら自分としてのアリソンを作っていけたらと思っています。三人で一人、だと」
――瀬奈さん演じる“今”のアリソンはナレーター的に登場し、物語の終盤で舞台上の出来事の中に入っていく役どころです。客観的な視点を持つナレーターであり主人公でもある、というお役は初めてでしょうか?
「初めてですね。『エリザベート』のルキーニみたいなストーリーテラーは演じたことがあるけど、自分のことを客観視するという役は初めてだし、そういう作品自体、観たことがないかも。
その“入ってゆく”シーンはとても心揺さぶられる情景ではあるけれど、歌詞に飲み込まれ過ぎたり、ウェットになりすぎないようにというのを心掛けたいです。日本人的にはウェットになったほうが分かりやすいと思いますが、それがシニカルに表現されている作品なので。役者としては難度の高い作品だと思いますが、だからこそ楽しみですね」
――ドラマとしての観ごたえもありつつ、ミュージカルとしての魅力要素もある作品ですよね。
「穏やかできれいなメロディが多かったり、子供たちが歌うナンバーは楽しい感じだったりと、音楽がすごく素敵です。そして家族がテーマなので、観終わって家族や恋人に思いを馳せたり、あたたかい気持ちになれる作品でもあると思います。私たちも役だけでなく、役者同志思いやるカンパニーになっていけたらと思いますね」
『シスター・アクト』写真提供:東宝演劇部
「大好きですね。『シスター・アクト』では公美さんとたぶん思いは一緒で、方向性も同じだったと思います。二人でたくさん話をしながら、運命共同体のように一緒の方向を向いて作っていきましたね。公美さんがこうするから私は違うことをしようみたいなことは、お互い全くなかったです。同じ芝居をしていたけれど、声の質だったり個性が異なることで、全く違うタイプに見えたのかもしれないですね」
『エニシング・ゴーズ』写真提供:東宝演劇部
「私は今、ちょうど『FUN HOME』のアリソンさんと同じ43歳で、ちょうど役者として転換期だと思っています。ヒロインの年齢でもないし、誰かのお母さんという年齢でもない。でも、この微妙な年齢だからできることがあるはずなので、その都度、色を変えられる女優でありたいと思っています。だから今回、アリソン役をいただけたことは本当にありがたいですね。ミュージカルでは43歳の役ってあんまりないですから。
先だっても、『ヤング・フランケンシュタイン』という作品で小栗旬さんの婚約者の役を演じたのですが、それは“今の私”を演出の福田雄一さんが面白がってくださったんですね。自分の年齢に合った役で“この人に出てほしい”と思っていただけることが嬉しかったし、とても楽しかったです」
『エリザベート』写真提供:東宝演劇部
「もちろん求められればやりますが、自分としてはこれからも年相応の女優でありたいし、それってすごく難しいことだと思っています。
かつて宝塚のトップをはってきて今、思うのですが、真ん中って誰でもできると思うんです。ライトもあたるし、主役に見えるように(周囲が)してくださる。でもそうでないところで光る存在、バイプレイヤーになれたら。それができる自分になりたい、と思います」
――どんな道が待っているのか、拝見してゆくのが楽しみです。
「宝塚の時って、トップというゴールが見えているので、そこに向かって全力で走れたけど、これからはゴールがないじゃないですか。だから息切れしないように走っていかないと、と思います。地に足をつけて、着実に、丁寧にやっていくしかないんだなと。そしていつか私が死んだときに、結果が出るんじゃないかな。(瀬奈じゅんさんは)こういう女優さんだったね、と。」
*次頁で大原櫻子さんインタビューをお届けします!