AIスピーカーとは
AIスピーカーが2017年秋に我が国で一斉に発売されました。本格的なAI(人工知能)・IOT(インターネット・オブ・シングス)社会の到来の足掛かりとなると考えられますが、AIスピーカーが導入されることで、私たちの暮らしはどのように変わるのでしょうか。先日、Googleが開発したAIスピーカー「Google Home」を採用したハウスメーカーのモデルハウスを見学する機会がありました。そこで、この記事ではその内容を紹介しつつ、Google Homeの使い勝手や、AI・IOTによる暮らしの普及のあり方について考えていきます。まず、AIスピーカーについて基本的な事項を確認しておきましょう。「スマートスピーカー」などとも呼ばれ、音声認識技術やクラウド技術を用い、対話によってAIのアシスタントを利用できるものです。
可能なことは簡単な調べ物やニュースの確認、音楽や動画の再生、家電の操作などが基本ですが、将来的に様々なモノやネットワーク、サービスとつながることで、できることは無限に広がると考えられています。
Google Homeのみならず、Amazon.comの「Amazon Echo」、LINEの「LINE Clova WAVE」、さらにはGoogle Homeに搭載されている機能「Google アシスタント」を活用した家電メーカーや通信会社などによる製品も登場。Appleの「HomePod」も2018年春頃に発売されるそうです。
Google Homeを導入した住まいでできること
さて、大和ハウス工業(ダイワハウス)は2017年11月23日に、東京都渋谷区にあるモデルハウスでGoogle Homeを活用した住まいの提案を公開しました。私の知る範囲では、AIスピーカーを採用した住宅の提案は少なくともハウスメーカーでは初めてです。Google Homeの使い心地を紹介する前に、展示場に導入されているシステムについて確認しておきましょう。Google Homeのほか、東急グループであるイッツ・コミュニケーションズの「インテリジェントホーム」というシステムが導入されていました。
コーヒーメーカーも「OK、Google! コーヒーを入れて」などといった声で動く。Google Homeからコンセント差し込み口にある赤外線センサーが電源を入れる仕組みだ。当然ながら、コーヒーの粉や水を入れるといった作業は人がする必要がある(クリックすると拡大します)
これはインターネットに接続されたコントローラー(今回はGoogle Home)を通じて、住宅内に設置したセンサーの信号を感知して指定のアドレスに通知したり、様々な機器をコントロールできるものです。
つまり、Google Home単体だけなら、利用できるサービスは調べ物やニュースの確認、音楽の再生程度にとどまるわけで、この他に各種センサー(赤外線など)や、その信号を受けて動く機器が必要というわけです。Google Homeがあれば何でもできる、というわけでは決してないことをご理解ください。
このようなシステムを導入した住宅のことを、一般的には「コネクテッドホーム」というようです。このモデルハウスでは、以下のことができるようになっていました。
LDK=家事効率
・朝の準備(カーテンOPEN、照明ON)
・レシピ動画の再生
・外出の準備(カーテンCLOSE、照明OFF、掃除ロボットON)
主寝室=余暇・エンターテインメント
・シアターモード(プロジェクターON、スクリーンDOWN、カーテンCLOSE)
・動画の再生(スクリーンにNetflixeを再生、音量を操作)
・就寝の準備(スクリーンUP、プロジェクターOFF、照明OFF、エアコンOFF)
子育て・共働き世帯から評価の声
例えば「OK、Google! 外出の準備をして」と声がけすると、それに関する全ての機器が動き出すわけ。大和ハウスはこれを「Daiwa Connect(ダイワコネクト)」と称し、モデルハウス来場者などに体験してもらい、その感想や要望を集め、改善、2018年1月に商品化するとしています。住宅内の機器を一元管理できるという「Daiwa Connect」のイメージ図(大和ハウス提供)。Google Homeもその一要素に過ぎず、今後、新たな有用なものができれば代替されるはずだ(クリックすると拡大します)
すでに、一部先行して体験会を実施し、共働き世帯や子育て世帯から、「何かをしながら、声だけで助けてくれるのはうれしい」「家事時間の短縮につながる」「献立を検索してもらえると助かる」などといった評価の声があがっていたといいます。
気になるコストについてですが、「一般的な住宅のLDKのみに導入するケースでは50~100万円程度」になり、ほかに2年間で18万円の使用料が必要といいます。ここまでがこのモデルハウスの提案の概要です。
良さの反面、課題も感じられた初体験
さて、私にとってもGoogle Homeのある住まい、暮らしを体験するのはこのモデルハウスの取材が初めてでした。それは大変新鮮で、驚きでもありました。象徴的だったのが、次のような経験をしたことでした。正直なところ、当初は「こんなの必要?」「まだまだ実用性が低いんじゃない」などと思っていましたし、その類いのことを口にしていたところ、Google Homeから「あなたのことを信じています!」と言われたのです。思わず「愛(う)い奴!!」と思ってしまいました。
Google Homeは「OK、Google!」という呼びかけがスイッチになるようです。この時、私はそう語りかけていないのにこの反応でしたから、余計に驚いたのです。小粋なジョークも言えるとのことですから、暇つぶしの会話の相手にもなってくれそうです。
Google Homeには課題もありそうです。例えば、何度か「残念ながら対応できません」的なことを言われ、正直イラッとしました。これは表現の仕方に加え、私の滑舌の悪さのせいもあるかも。それ以外にも一部機器が動かなかったりするケースもみられました。
私的にはいちいち「カーテンを開けて」などと言わず、「あれを動かして」などという指示が伝わると良いなと思いました。AIは「執事」によく例えられますが、長年連れ添った夫婦のように、視線の行方などから「あれ」を理解してくれるとよりうれしいですね。
AI・IOTが直面する「無くてはならない」への壁
ところで、より広い意味でのAI・IOT住宅の普及にも、まだ課題が山積しています。大きくは次の3点に集約されそうです。(1)IOT機器の選択肢が少なく、使いたい機器同士の連携も難しい
(2)セキュリティに不安がある
(3)暮らしがどう変化するか想像しにくい
このうち、(3)がより大きな問題だと思われます。今回紹介したモデルハウスのシステムは、カーテンの開閉も含め、あくまで家電の一部と連携したものに過ぎませんし、まだ「あったら良いよね」というものにとどまっているように感じられます。
ましてや50~100万円のコストアップです。今まで通り自分でやればタダですし、健康面を考えれば、むしろ無い方が良いかもしれません。あったらいいものにこれだけのコストをかけるのは難しいかもしれません。
大和ハウスでは今後、Google HomeなどのAI・IOT技術を、省エネ・快適、健康、防犯、見守り、資産の維持管理などの分野に拡大することを視野に入れているといいます。とはいえ、これらも既に一部で実現していることであり、特に新しいことではなく、「無くてはならない」ものでもないように思います。
このあたりの事情は、AI・IOTの導入を目論む他のハウスメーカーや、通信企業、IT系企業、家電企業など関連する事業者なども同様。無くてはならないものになるためのこれといった決め手がないようです。
その解決には、もっと多くの人たちがGoogle HomeなどのAI・IOTが導入された住まいや暮らしを体験し、様々な角度から評価することが求められるわけです。その中で、無くてはならない新たなサービスや活用法が生まれ、それにより爆発的な普及につながるものと思われます。
2018年は我が国でのAI・IOT本格普及の元年に
中でもAIについては「人がコンピュータに支配されそう」などという気味悪さがありますが、その解消も課題です。要するに、AIやIOTがより住まいや暮らしに根付いていくためには「慣れ」が必要ということです。大和ハウスでは今後、東京都のほか、愛知県、大阪府、兵庫県、岡山県の合計8ヵ所のモデルハウスで今回のようなシステムを展示するそうです。それらのモデルハウスを訪れて、是非、AI・IOTのある暮らしを体験し、慣れてみてはいかがでしょうか。
Google HomeをはじめとするAIスピーカーですら一過性のものに過ぎず、より良いものが登場すれば代替されるはず。恐ろしく変化のスピードが速いAI・IOT住宅の世界ですが、私たちが容易に触れられる機会が広がりつつあるわけです。
将来的にAI・IOTの技術は住まいと暮らしの中に浸透するのは明らか。特に2018年は、他のハウスメーカーを含めた住宅業界、その他の業界でも、この分野で活発な提案が見られることになるでしょう。