まるでおとぎの国!グリム童話の舞台が連なるメルヘン街道
『白雪姫』『ブレーメンの音楽隊』『ヘンゼルとグレーテル』……世界で最も親しまれている昔話、グリム童話。みなさんもきっと一度は読んだことがあるのではないでしょうか。この童話集を編さんしたグリム兄弟ゆかりの場所や、童話の舞台となった街を結ぶドイツの観光街道が「メルヘン街道」。フランクフルトに近いハーナウから北のブレーメンまでの全長600kmの街道沿いには、木組みの家が並ぶ可愛い街やお姫様が住んでいそうな古城、うっそうと繁った深い森など童話の世界そのものの風景がぎっしり。まるでおとぎ話のなかに入りこんだような体験ができます。またメルヘン街道上にあるヘッセン州北部は、歴史的な木組み建築が残された町を結んだ「木組みの家街道」にも属する町が集中する地域。カッセルやフランクフルトからの小旅行にもおすすめです。
ここでは、世界遺産とドクメンタで有名なカッセルを起点に、メルヘン街道でぜひ訪れたい可愛い街を紹介します。グリム童話『いばら姫』やディズニー映画でお馴染みの『塔の上のラプンツェル』のモデルとなったロマンチックな古城ホテル情報もありますので旅の参考にどうぞ!
カッセル~世界遺産とドクメンタの街
世界遺産のヴィルヘルムスヘーエ公園と5年に一度の現代美術展ドクメンタの街として有名なカッセルは、メルヘン街道のなかでもアクセスがしやすく起点となる街。グリム兄弟が人生で最も長く住み、メルヘン収集を行ってグリム童話集を初めて出版したことでも知られています。兄弟が住んだ家やグリム兄弟資料館などゆかりの場所がたくさんあるので、ここでグリムの世界にふれておけばメルヘン街道の旅がさらに楽しく奥深いものになるはず。なかでもぜひ訪れたいのが2015年に完成した博物館「グリムヴェルト(グリムワールド)」です。 館内には一番の目玉であるユネスコ世界記録遺産になったグリム童話の初版本やグリム兄弟自筆の手紙、兄弟のもうひとつの偉業であるドイツ語辞典(※兄弟が着手して亡くなった後ほかの学者が引き継ぎ完成させた辞典)など貴重な資料が多数展示されているほか、音や映像など子どもも大人も楽しめる展示がたくさん。その内容もさることながらデザイン性の高さも魅力で、建築の賞を受賞した建物自体も含めてまるで現代美術館のよう。屋上からのカッセルの絶景もお見逃しなく。グリムヴェルトは併設のレストラン「Falada」もレベル高し。名物のグリーンソースや地産の肉を使用したアーレヴルスト(サラミの一種)やハンバーガー、サラダにパニーニなど、おいしくおしゃれな料理がいただけます。ケーキの種類も豊富なうえ景色もよいのでカフェとしてもおすすめです。
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■GRIMM WELT
住所:Weinbergstr. 21 34117 Kassel (Googleマップ)
TEL:0561-5986190
営業時間:火~日曜 10:00~18:00 金曜~20:00 月休み
入場料:大人8ユーロ
アクセス:トラムRathaus/Fünffensterstr. 駅から徒歩7分
カッセルで一番人気の観光名所といえば、2013年に世界遺産に登録された「ヴィルヘルムスヘーエ公園とヘラクレス像」。240ヘクタールというヨーロッパ最大規模の山の公園の最大の見どころは、夏期に開催される「水の芸術」。山頂のヘラクレス像から流れ出た水がカスカーデンとよばれる階段を流れ落ち、最後の大噴水池で自らの水圧で52メートルの高さまで噴き上げるという、約1時間半にわたる水のショーです。スタート地点から水と一緒に移動するとさらに水の迫力を感じられますが、時間と体力に余裕がない人はクライマックスの大噴水だけでもぜひ体験してみてください。絵画に興味がある人はヴィルヘルムスヘーエ宮殿内の美術館もお見逃しなく。レンブラントやルーベンスなど巨匠の傑作が所蔵されています。
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■Bergpark Wilhelmshöhe ヴィルヘルムスヘーエ公園と「水の芸術」(Googleマップ)
営業時間:公園は通年開園
「水の芸術」は毎年5月1日~10月3日の日曜日・水曜日・祝祭日の14:30から。ライトアップされた「水の芸術」は第1土曜日の夜
アクセス:Wilhelmshöhe駅からトラム1番で終点のWilhelmshöheで下車し、ヴィルヘルムスヘーエ宮殿まで徒歩15分
カッセルで5年ごとに100日間にわたり開催されるドクメンタは、世界で最も重要な現代アート展のひとつ。最新の現代美術の動向を知ることができる展覧会として、ベネチア・ビエンナーレと並び世界が注目する一大イベントです。1955年に画家で教育者でもあったアーノルト・ボーデによって第1回目が開催されたドクメンタのこれまでの参加者には、ピカソやヨーゼフ・ボイス、アイ・ウェイウェイといった世界的芸術家たちの名も。大竹伸郎氏ほか日本人作家も多く参加しています。
ドクメンタの会期中は美術館や博物館だけでなく、公共空間を含む街全体が展示会場となります。美術愛好家はもちろん、家族連れも観光客も誰もが気軽にいろんな角度から自由にアートを感じることができるので、現代アートって難解で解りにくい……と思っている人もきっと楽しめるはず。ぜひ一度体験してみてください。
こちらの記事も参考にどうぞ>>>ドクメンタも!ドイツのお祭り・イベント2017
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■Documenta
開催場所:フレデリチアヌム美術館(住所:Friedrichsplatz 18 34117 Kassel)ほかカッセル市内各所(Googleマップ)
TEL:0561- 707270
開催期間:次回は2022年開催予定。詳細はホームページのニュースで確認してください
カッセルからの小旅行1 ~メルズンゲン
カッセルから電車でわずか20分の距離にあるメルズンゲン。旧市街に足を踏み入れた途端に木組み家屋の連なりが目の前に広がり、思わずため息がこぼれます。「木組み建築の宝石」と称されるほど美しい市庁舎では、毎日12時と18時に木こりの人形が登場。中世のメルズンゲンでは多くの男性が木こりとして働いていたことから町のシンボルが「バルテンヴェッツラー」(木こり)となったそうで、木こり姿のガイドさんによるツアーも行われています。メルズンゲンで食事をするなら、教会前の小さなホテル「セントリヌム」併設のカフェ・レストランがおすすめ。新鮮な素材を使った美味しい料理がいただけます。日替わりのランチメニューもお得。
■CENTRINUM Altstadt-Hotel
メルズンゲン近郊の町フェルスベルク(Felsberg)の丘にはヘッセン州で最北のワイナリー、ベッディガーベルク(Böddiger Berg)のぶどう畑が広がっています。私が訪れた日はちょうど年に一度の収穫日。毎年参加しているという大勢のボランティアの方々が楽しそうに収穫に励んでいました。
■メルズンゲン観光案内公式サイト Melsungen Kultur &Tourist Info
カッセルからの小旅行 2~ローテンブルク・アン・デア・フルダ
メルズンゲンからさらに電車で20分ほど南へ行くと、ローテンブルク・アン・デア・フルダ(フルダ川のローテンブルク)という町に到着します。名前こそ一緒ですが、ここはロマンチック街道で有名なローテンブルク・オプ・デア・タウバー(タウバー川のローテンブルク)とはまったく別の場所。とはいえ、こちらも負けず劣らず可愛い木組みの家が集まるメルヘンチックな町です。マルクト広場にある銅像『市場の女の噂話』や『羊飼いの少年と山羊』など、町のあちこちに点在する彫刻家エーヴァルト・ルンプフの作品をめぐりながら散策を楽しみましょう。旧市街の外れには、市壁の一部とかつて牢獄として使われた「魔女の塔」も残されています。美しい噴水や花々で彩られたローテンブルク城公園は人々の憩いの場。ここでも彫刻『かえるの王様』などメルヘンのかけらに出会えます。散策の終わりには、公園内にあるビール醸造所併設のレストラン「Bier Manufaktur」の地ビールで乾杯しましょう。
■Bier Manufaktur Rotenburg
■ローテンブルク・アン・デア・フルダ観光案内公式サイト Rotenburg an der Fulda Tourist Info
この地域での宿泊にぜひおすすめしたいのが、メルズンゲンとローテンブルクの間の小さな町モルシェンにある「Hotel Kloster Haydau」。13~14世紀に建造されたかつてのシトー派修道院「ハイダウ修道院」に対面する形で2013年に建てられたこのホテルは、客室にレストラン、スパまでモダンで高級感あふれるしつらえ。中世と現代が交差する唯一無二の空間で過ごすひとときは、忘れられない思い出になることでしょう。
私がいたく感動したのが、ホテル併設のグルメレストラン「Poststation」での食事。前菜からメイン、デザートまで、ミシュラン星付きレストランに匹敵するすばらしい料理がいただけてしかもお手頃価格。レストランもホテルもこのためにわざわざ訪れたい! と思えるほどです。
■Hotel Kloster Haydau
フランクフルトからの小旅行 ~ゲルンハウゼン
メルヘン街道の南部に位置するゲルンハウゼンは、ドイツの空の玄関口フランクフルトから列車で約40分とアクセスしやすく小旅行におすすめ。12世紀前半に皇帝フリードリヒ1世(通称バルバロッサ:赤髭王)によって創設されたこの町には、皇帝宮殿跡や中世時代の壁と門、魔女の塔、木組みの家が並ぶ旧市街や2つの尖塔が印象的なマリエン教会など見どころが盛りだくさんです。町全体が見渡せる絶景スポット、Halbmond(半月)と呼ばれる塔にもぜひのぼってみましょう。美しい木組み家屋と花々に囲まれたウンターマルクト広場にある銅像は、ゲルンハウゼン出身で電話機の発明者として知られるフィリップ・ライスを記念したもの。市立美術館では彼の功績や町の歴史を楽しく学ぶことができます。ここでは中世の衣装や本物の鎧を試着することも可能なのでコスプレ愛好者にもおすすめですよ。
■ゲルンハウゼン観光案内公式サイト Tourist-Information Gelnhausen
ハン・ミュンデン~「鉄ひげ博士」が活躍した木組みの街
カッセルの北に位置するハン・ミュンデンは、700軒以上もの木組み家屋がある街。世界中を旅した有名な地理学者のフンボルトは「世界でもっとも美しい7つの街のひとつ」と絶賛したそうですが、この街を訪れた誰もがこの言葉に納得することでしょう。ハン・ミュンデンで一番の有名人といえばバロック時代に活躍したドクター・アイゼンバート(鉄ひげという意味)という名のお医者さん。世間の妬みなどからやぶ医者の代名詞にされてしまった鉄ひげ博士ですが、実際は研究熱心な名医だったとか。メインストリートには博士の家や墓所が残されているほか、市庁舎の仕掛け時計に登場するなど街の顔として大活躍。市庁舎では観客から患者を募って行われる「鉄ひげ博士の診療所」という寸劇が行われ好評です。
ハン・ミュンデンで必ず立ち寄りたいのが、おいしいソーセージで知られるお肉屋さん「Schumann」。店内には多種多様なソーセージやサラミとともに、コンクールの受賞トロフィーや写真がずらり。有名グルメ雑誌が選ぶ「ドイツ全国ベスト肉屋」の常連でもあり、地元客のみならず遠方から訪れる人も大勢います。一番の人気商品はヘッセン地方名物のサラミ「アーレヴルスト」。同店のマイスター、シューマンさんのパートナー、エヴェリンさんのルーツであるフランスのロックフォールチーズやフェンシェル風味のサラミも人気です。隣では肉料理が評判のレストランも営業中。
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■Feinkostfleischerei Schumann
住所:Lange Str. 29 34346 Hann Münden (Googleマップ)
TEL:05541-5151
マールブルク~グリム兄弟が大学に通った中世の巡礼地
グリム兄弟が通った名門大学のあるマールブルク(Marburg)は、情緒あふれる坂の街。路地に並ぶ立派な木組みの家を眺めながら散策が楽しめます。石畳の坂道をひたすら上って丘の上にたどり着くと、眼の前にあらわれるのはルターが宗教問答を行った方伯城。後ろを振り返れば眼下には美しい旧市街が広がっています。そのふもとに建つエリーザベト教会はドイツ最古のゴシック教会。13世紀テューリンゲン方伯に嫁いだハンガリー王女エリーザベトは、夫の死後に追い出されてマールブルクの修道士のもとに身を寄せ、24歳で亡くなるまで貧者や病気の人を助けて暮らしました。死後、聖人に列せられた彼女の墓の上に建てられたエリザーベト教会は有名な巡礼地となり、現在も国内外から多くの人が訪れています。マールブルクで食事をするならワインレストラン「Weinlädele」がおすすめ。街で一番古い木組み家屋でもある同店には、オーナーのローランドさんとソムリエでもある娘さんがドイツ国内13生産地域から厳選した50種類ものワインが揃っています。一番の人気メニューはドイツの薄焼きピザ、フラムクーヘン。夏から秋にかけてはぜひ旬のフィファーリンゲ(アンズタケ)をお試しあれ。
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■Weinstube und Restaurant Weinlädele
住所:Schlosstreppe 1 35037 Marburg (Googleマップ)
TEL:06421-14244
マールブルクで宿泊するならウェルネスホテル「Vila Vita Hotel Rosenpark」がおすすめ。1000平方メートルもあるスパエリアにはフィンランド風からアロマサウナ、雪を敷き詰めた部屋などバラエティに富んだサウナのほかプールとフィットネスルームも完備。窯焼きピザが絶品のメインダイニングやドイツ料理レストランなどグルメも充実。お部屋も広々、居心地満点でおこもりステイしたくなるホテルです。
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■Vila Vita Hotel Rosenpark
住所:Anneliese Pohl Allee 17 35037 Marburg (Googleマップ)
TEL:06421-6005-0
ハーメルン~笛吹き男伝説の街
『ハーメルンの笛吹き男(ネズミ捕り男)』伝説で有名な街。その昔、ハーメルンに大発生したネズミを退治した男に市民が約束の報酬を払わなかったために子どもたちを連れ去ってしまった、というかなり怖いあらすじですが、これは実話だとも伝えられています。現在のハーメルンはヴェーザー・ルネサンス様式とよばれるカラフルな木組みの建物が並ぶ美しい街で、中世の雰囲気が「ドラクエの世界そのもの!」として日本で話題になるほど。ネズミも可愛いキャラクターに変身し、ネズミの形の乾パンやネズミキラーと呼ばれるシュナップス(蒸留酒)などお土産物として活躍中です。道路のあちこちに見られるネズミのマークは観光名所への道しるべ。これをたどって「ハーメルン博物館」やネズミのしっぽ料理(実際は豚肉を使用)が名物のレストラン「ネズミ捕り男の家」、仕掛け時計がある「結婚式の家」、ネズミ捕り男のステンドグラスが美しい「マルクト教会」などをめぐればハーメルンの伝説と歴史に触れることができます。夏期はマルクト広場で無料の野外劇も開催されるのでお見逃しなく。
ブレーメン~音楽隊が目指した北の都
『ブレーメンの音楽隊』で世界中にその名を知られるブレーメン。1200年もの歴史を持ち中世にはハンザ同盟の自由都市として発展したブレーメンでは、当時の面影を残す町並みや建築がいたるところで見られます。世界遺産にも指定されている華麗な市庁舎や自由を象徴するローラント像、中世の街並みを再現したレンガ造りのベトヒャー通り、石畳の路地に小さなお店が軒を並べるとっても可愛いシュノーア地区など見どころがもりだくさん。街のあちこちでブレーメンの音楽隊をモチーフにした像やお土産物に出会えます。街の詳しい情報はこちらの記事でどうぞ>>>ブレーメンの観光スポット
最後に、一度は泊まってみたいメルヘンな古城ホテルを2つご紹介します!
いばら姫の古城ホテル ザバブルク
『眠れる森の美女』を元にしたグリム童話『いばら姫』の舞台といわれるのが、14世紀に建てられたザバブルク城。ラインハルトの森と自然動物公園に囲まれてひっそりとたたずむ姿はまさにメルヘンの世界そのもの。塔のらせん階段をのぼってたどりつく客室は、天蓋付きのベッドや美しいタイルのジェットバスなど思いっきりロマンチックな雰囲気なのでカップルにおすすめです。ザバブルク城はレストランも評判が高く、わざわざ遠方からやってくるゲストがたくさん。バラの食前酒に始まりパスタやデザートなどいばら姫にちなんだ料理が人気を集めています。バラの入浴剤や紅茶、チョコレートなどお土産も豊富。なかでもバラの花びらで作ったジャムは絶品です!
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■Dornröschenschloss Sababurg
住所:Im Reinhardswald 34369 Hofgeismar (Googleマップ)
TEL:05671-8080
ラプンツェルの古城ホテル トレンデルブルク
ディズニー映画で有名になった『塔の上のラプンツェル』の原作はグリム童話の『ラプンツェル』。そのモデルとされるトレンデルブルク城はドイツで初めての古城ホテルといわれています。ほぼオリジナルのままという館内は古めかしく重厚で丸ごと博物館のよう。客室はハート型にベッドメイクされた天蓋ベッドなどロマンチックな雰囲気でいっぱい。敷地内にはサウナやホットストーンマッサージが受けられるウェルネスも完備されています。レストランは雰囲気も味も抜群で食事のためだけに訪れる価値があるほど。明るく広いメインダイニングに眺めのいいテラス席、奥には穴倉のような部屋も。塔に閉じ込められたラプンツェルの気分になって狭く急な階段を上りきると、そこには絶景が広がっています。
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■Hotel Burg Trendelburg
住所:Steinweg 1 34388 Trendelburg (Googleマップ)
TEL:05675-9090
取材協力:ドイツ観光局 メルヘン街道観光局 グリム兄弟協会