秋の日本酒といえば「ひやおろし」。おいしい飲み方とおすすめの銘柄
ご存知だろうか? ボジョレー・ヌーヴォーがここまで売れるようになったワケを。美しい色、渋みがなくてさっぱりした味わい、おしゃれなイメージ……。だけでなく、11月の第3木曜日に「解禁」になるというあのシステムが、ここまで売れた大きな要因なのである。日本人の「旬モノ」好きが「解禁」という魔法にかかり、解禁日後しばらくは何かに取りつかれたように、誰もがヌーヴォーで乾杯してしまう。うまいなぁ、フランスの商売上手!日本酒にもこれがあれば……と考えると、似たもの、あるんだよねぇ。「解禁日」こそないけれど、この時期出回る『ひやおろし』がそれなのだ。
酒屋や居酒屋の壁に「ひやおろし入荷!」「ひやおろし入りました!」などの張り紙が張られると、「おお、秋だね」「今年もこの季節になったか」と思うのはかなりの日本酒ツウ。「冷やし中華、始めました」同様、日本人に季節を感じさせてくれるのがこの「ひやおろし」といえる。
ただ、ひやおろしは、「ひや」と名付けられているが、けっして「冷や酒」や「冷酒」ではない。説明しよう。
秋に収穫された米は、秋から冬、さらには春にかけて酒になる。そう、日本酒は寒い季節に造られるものなのだ。この造られたばかりの日本酒は、一部、「新酒」や「しぼりたて」として流通する。その時期にしか飲めない酒として価値がある。新酒として出荷されない酒(ほとんどがこれ)は、劣化防止のために「火入れ」(加熱殺菌)をし、いったん寝かされ、その後瓶詰めする際にもう一度「火入れ」を行い安全な商品として管理され市場に出荷される。
ひと夏寝かされた旨味を楽しむには、「ひや」じゃなくて「お燗」がおすすめ!
「ひやおろし」は、新酒に火入れしたものを、春から夏、さらには秋になるころまで、蔵の中で寝かしたものをいう。酒蔵の中は夏でもひんやりと涼しく酒の熟成にはもってこいの場所。ひと夏、蔵の中で寝かされた酒は、蔵内の温度と蔵外の温度が同じになったころ、そうちょうど9月の初めころに蔵から出され、「火入れ」することなく、そのまま新鮮な状態で瓶詰めされ市場に出て行く。蔵のひんやりした状態=「ひや」のまま、大きな桶から小さな入れ物に移し出荷態勢にする=「おろす」ので、ひやおろし。ひと夏寝かされることで、滑らかさや複雑さが増し、旨味ものってコクのある味わいになるので、どちらかといえば、冷酒よりもお燗、それも「ぬる燗」が酒の旨味を十分に感じさせてくれる飲み方といえよう。
ちなみに「ひやおろし」は「秋あがり」とも呼ばれている。秋に味わいがぐっとあがってくるから。もともとこの「ひやおろし」や「秋あがり」は、灘の酒がはじまりだったとか。灘の酒はその酒質から出来立ては固く渋味があるので、ひと夏寝かせてからが本格出荷となった。いわば新酒は「半製品」ともいえるのだ。しっかりとした骨格のある味わいから「男酒」と呼ばれる灘の酒がひと夏を越えて秋あがりする……なんて、粋だと思わない?
秋のひやおろしには、やっぱり秋の味覚が合う!
秋に出回るひやおろしに合わせたいのは、もちろん秋に旬を迎える食材たち。脂の乗った秋刀魚や鯖、秋鮭。松茸、舞茸、椎茸、えのきなどのきのこ類。サトイモ、サツマイモ、栗、銀杏などホックリと味わい深い野菜たち。秋に旨味を増すジビエ(猪、鹿、鴨など)ともばっちりバランスをとってくれる。ひやおろしには秋に旬を迎える食材をあわせて
しかし、である。このひやおろし、「解禁日」はまだない。どうやら9月9日の重陽の節句を解禁日にしようとする動きはあるようだけど(これすごくいい案!)、まだ正式に設定されていないようだし、「夏のひやおろし」なるフライング銘柄があったり、二夏寝かせがあったりと、消費者としては少々混乱する状況でもある。「この日から飲めるよ」と日を決めれば、ヌーヴォー好きの日本人、きっともっと飛びつくと思うけどなぁ。
では、さっそく「ひやおろし」のおすすめ13選をご紹介しよう。
米から育てた純米酒 ひやおろし(天寿酒造)/秋田
東京農大短期大学部醸造学科でナデシコの花から採取された酵母を使用し、天寿自慢の「天寿酒米研究会」産酒造好適米で醸した酒。 きよらかで華やかな香りとまろみのある優しい味が人気。仙禽 ひやおろし 赤とんぼ(せんきん)/栃木
ワインファンや若い層から支持を集める人気ブランド。フランス、ボルドーワインのように、品種をアッサンブラージュ(ブレンド)することで、「山田錦」「亀ノ尾」「雄町」の個性を最大に生かしている。黒龍 吟醸ひやおろし(黒龍酒造)/福井
福井の酒は、優しさと甘さと軽快な米の旨味が特徴。夏を越し角が取れた味わいながらフレッシュさも失わない人気ブランド。