前歯の差し歯・被せものが取れた! 見た目だけでも応急処置は可能?
取れた前歯の中を確認して、何か入っていれば戻すことが不可能なことが多い
・取れた歯をそのまま戻してみたが、すぐにまた取れた
・戻すだけだから簡単だろうと歯科医院に行ったら、「抜歯」宣告を受けた
・応急処置ができず、しばらくは見た目の問題が残り、マスクで口元を隠すことになった
・無理を言って何とか戻してもらった歯が、家に着く前にまた取れた……
これらはいずれも、実際によくあるケースです。前歯の差し歯や被せ物が取れることは、決して珍しいことではなく、一度前歯を被せた歯であれば、次に起こるトラブルは、痛みが出るか、何らかの理由で取れるかです。取れた前歯をすぐに取り付けてトラブルなく使えるケースがあるとすれば、一体どのくらいの割合なのか? 現役歯科医師の目で解説してみたいと思います。
前歯の差し歯・被せものに応急処置が難しい理由
前歯が取れた人の状態を、実際の臨床で見かけるケースに基づいてご紹介します。■簡単な調整だけでしっかり戻せるのは5%以下
前歯が取れた人がまず考える「とりあえず戻せれば十分!」というのは、実は現実的には、かなり厳しい条件です。戻せる条件で大切なのは、土台となる部分に虫歯やトラブルがなく、セメントのみが劣化した場合ですが、最近の歯科用セメントは、劣化しにくく、強力なタイプが主流。数年程度の利用ではセメントの劣化が問題とならないケースがほとんどです。
例外として、新しい被せもので最新のセメントであっても、取り付け時の唾液などの不純物が原因だったり、素材に行なう表面処理の組み合わせなどが合わなかったりした場合、比較的早い段階で取れることもあります。この場合、表面処理や薬剤を調整してしっかりと戻すことが可能です。
■歯にヒビが入って「抜歯宣告」になるのは概ね15%程度
前歯は、被せる前に神経をとってあることが多く、神経をとった穴に金属の棒のようなものを埋め込んで、土台としてあるケースがよくあります。外れた前歯に棒にようなものがついている場合は、要注意。
この棒が長ければ長いほど、土台への被せものが強力に固定されますが、それが取れたということは、歯にヒビなどが入っている可能性が高くなるのです。歯を噛んだ時に「ビシッ」「ピキッ」などの歯の割れるような音がしたことがある場合、その時にできていたヒビ割れが原因で、しばらく時間が経ってから取れるケースもあります。取れた歯を鏡で見て歯が明らかに真っ二つに割れているような場合は、応急処置すらできません。
■「とりあえず戻せる」ケースは概ね30%程度
これが一般的な応急処置だと思いますが、強力セメントを使えば、確かにとりあえず戻すことはできます。しかし状態が悪ければ、その日のうちに取れるかもしれませんし、調整がうまくいけば、3ヶ月~数年程度持つ可能性もあります。
多くの場合、土台となる歯の部分に虫歯や隙間があったり、歯の噛み合わせが強くてぶつかっていたりして、取れやすい環境になっています。しかし応急処置で戻せば戻すほど、だんだんと外れる期間が短くなってくる傾向になります。そして根本的治療を先送りして、応急的に戻すたびに土台となる歯がボロボロになり、歯としての寿命を短くしてしまうことがあるので、注意が必要です。
■すぐに戻せないが歯を治療すれば元通りにできるのは50%程度
取れた歯の被せものの内側に黒かったり、茶色かったりとセメント以外のものが付着していることがあります。これは、虫歯になった土台の歯の部分です。土台が虫歯になっていれば、元に戻してもすぐに取れてしまうため、治療が必要となります。
被せるための土台が、すでに虫歯でほとんどなくなっているケースもよくあります。前歯のブリッジなどで、丸ごと3本分の歯が取れてきたときは、2本ある土台のうちの片方が、完全に溶けてなくなっていることがよくあります。この状態では応急処置もできません。
実際の診療では前歯のない状態は審美的に重大な問題となるケースがあるため、もう少し強引に戻すことを考えたり、とりあえずの仮歯を緊急で作ったりすることもありますが、かなりの時間と努力が必要となります。それでも半数ぐらいは、仮歯もすぐに作れないケースがあると考えておいた方が良いと思います。
前歯の差し歯・被せものは「取れる前に治療で治す」ことが大切
被せものの内部の劣化は、金属が使用されていればレントゲンで確認できません。さらにセメントの劣化を確認する手段はありません。予防しにくいのです。しかし次のような自覚症状が現れることがあります。・噛むと少しグラグラする
・かぶせ物の下に物が挟まりやすくなる
・噛み合わせが強いため、被せものの一部がときどき欠ける
・以前に取れたことがある
もし取れる前に発見できれば、早い段階で治療に取り掛かることができるため、仮歯も作れないようなリスクを最小限にすることも可能です。そのためしっかりと定期検診などを行うことをおすすめします。
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