フランス・ノルマンディーのショコラブランド「ミシェル・クルイゼル」
海外、特にパリへ出かける度に、何度となく買って食べていました。MICHEL CLUISEL(ミシェル・クルイゼル)のチョコレートバー。チョコレート好きな方が海外へ出かけたら、フランスのシャルル・ド・ゴール空港内や洗練されたセレクトショップ、デパートなどで出会っていることでしょう。また、2017年のバレンタインシーズンには、日本で7年ぶりに期間限定販売されて、注目を集めましたね。
ミシェル・クルイゼルは、フランス・ノルマンディーを拠点とするチョコレートブランド。カカオ豆を選別し、ローストする段階からチョコレートまでを作る「カカオフェヴィエ®」であり、ボンボンショコラなどのチョコレート製品までの、すべてを自社で製造することで知られています。
2017年9月、私は、ノルマンディーにあるヘッドオフィスとファクトリーを訪れました。さらには、パリ各地にあるショップへも。その様子とともに、ブランドのフィロソフィーや成り立ちを、貴重な写真もまじえてご紹介します。
ミシェル・クルイゼルとは
「ミシェル・クルイゼル」の歴史は、1948年まで遡ります。創業者はMarc Cluizel(マーク・クルイゼル)とその妻のMarcelle Cluizel(マルセル・クルイゼル)。クルイゼル夫妻が作ったブランドを引き継いだのが、息子にあたる2代目のMichel Cluizel(ミシェル・クルイゼル)です。
そして現在は、ミシェルの息子である3代目、Marc Cluizel(マーク・クルイゼル)が代表となり、ブランドの、すべてのチョコレートの味と品質を厳しく管理しています。
3世代にわたるファミリービジネスとして、チョコレートを愛し、伝統を守り、チョコレートの品質に妥協を許さない、誇り高きチョコレートブランド。
その品質の良さとフィロソフィーを買われ、現在は、世界52ヶ国で販売されています。また、直営店舗はフランス国内では、パリに4店舗、ノルマンディーにある本社併設ショップが1店舗。フランス国外では、ニューヨーク、ブカレストに店舗があります。
直営店以外で出会える場所も多く、それはラグジュアリーホテル、ハイエンドな高級な食品のセレクトショップ、エールフランス、パリの「ギャラリーラファイエット」、スペインの高級デパート「エルコルテイングレス」など、有名店、高級店が名を連ねます。
ミシェル・クルイゼルの本社とファクトリーを訪問
ミシェル・クルイゼルのヘッドオフィス&ファクトリーがあるのは、ノルマンディー地方のDamville(ダンヴィル)です。パリから北西方向へ、車を走らせること、約1時間半。パリとはがらりと雰囲気が変わって、四方に自然が広がり、空気がきれい。私は到着した途端に車を降りて両手を広げ、わぁ、空が広くて気持ちいいー、と深呼吸しました。
ミシェル・クルイゼルの本拠地であるダンヴィルには、本社、ファクトリー、チョコレートショップと、チョコレートの歴史を楽しく教えてくれる小さなチョコレートミュージアム「Chocolatrium®」があります。
本社に入ると、真ん中に位置するラボラトリーを中心に、左側はオフィス、右はチョコレートを扱うプロダクションスペース。
整然と分かれているものの、壁が殆どなく、すべてがガラス窓で仕切られていので、明るく、風通しがよい雰囲気があります。
「ガラス窓を通して、すべての担当部署のスタッフが、お互いに顔をあわせられます。コミュニケーションがとりやすく設計されているということです」そう話してくれたのは、ミシェル・クルイゼルのエクスポートマネージャーをつとめるヴィンセント・シロー氏。オフィス内のミーティングルームで、爽やかな笑顔ですすめてくださったボンボンショコラが、とても美味しそうにみえました。
「本社内のラボラトリーでは、1年に1度、12名の有名シェフが集まって、ミシェル・クルイゼルのチョコレートでどんな商品ができるかを検証する機会を設けています。さらに2ヶ月に1度は、クルイゼルの商品を使って、外部のシェフとも情報交換し、常にミシェル・クルイゼルの新たな表現を追求しています」(ヴィンセント・シロー氏)
ミシェル・クルイゼルのチョコレート
ミシェル・クルイゼルは、世界のカカオ産地の生産者と信頼関係を築き、農園とダイレクトに取引しているのも特徴のひとつ。トレサビリティを重視、現在は5つの農園と契約を結び、収穫されたカカオ豆をフランスに輸入し、チョコレートを作っています。大きくわけて次の3つのプロセスを手掛けていることになります。
1. Cacaofèvier®(カカオフェヴィエ)
カカオ豆をローストする段階から、最終的にチョコレート(クーベルチュール)にします。この工程全てを行う製造者を「カカオフェヴィエ」と呼び、この名称は商標登録されています。
シングルプランテーションのタブレットライン。5ヶ国の契約農園(メキシコ、コロンビア、サオトメ、ドミニカ共和国、マダガスカル)のカカオ豆から作られたチョコレートバーを中心に、様々なバリエーションが揃います。 2. Confectioner(コンフェクショナー)
ボンボンショコラの中にいれるフィリング、例えば、プラリネやキャラメル、ヌガティンなどの全てが自家製です。
3. Chocolate maker (チョコレートメーカー)
自家製チョコレートから、ボンボンショコラを作ります。オリジナルのモールドを使った型抜きのチョコレート、エンローバーでコーテティングして作られるチョコレート、ドラジェ、すべてが自社製です。
関係者以外立ち入り禁止のファクトリーにて
関係者以外、滅多に入ることはできないファクトリーに、特別にご案内していただきました。安全管理、衛生管理が徹底され、ハイレベルな最新セキュリティシステム。バイオテロリズムアタックなどへの対策も厳重で(これは、ちょっとやそっとのことでは何も入り込めないな……)なんて至極当たり前のことを、私は密かに実感していました。
写真撮影はできないため、ミシェル・クルイゼル社から特別にご提供いただいた貴重な画像とともにご紹介します。
契約農園から集まるカカオ豆は、安全と衛生のため、加工をする場所とは完全にわかれた場所にあります。ナッツ、パウダー、ミルクなどの素材の貯蔵も地下の別の場所に。
「大切なものは、1、カカオのオリジン、2、各カカオ豆に適した発酵日数、3、カカオ豆のロースト方法、です。このうち1つでも問題があれば、その後、いくらコントロールしてもよいチョコレートにはならないといえるでしょう。コンチングが長ければ味がよくなるわけでもありません。3年前に最新のロースターを導入し、低い温度で時間をかけて行われます。カカオ豆の風味を高く残すためのノウハウです」(ヴィンセント・シロー氏、以下ヴィンセントさん)
ロースト、ウィノワー(カカオ豆から外皮を剥がす作業)といった行程の他、リファイニングを経て作られた90トンのカカオペーストが、巨大なタンクの中で、温めながら産地ごとに保存されているのも圧巻。「手間はかかりますが温めながら保存するのは、チョコレートのアロマをキープするためです」とヴィンセントさん。
5種類あるという、プラリネを作る工程も見学しました。
私が訪れた時は、32年プラリネを作り続けているという60代の熟練職人が、仕事をしていました。窯に砂糖とナッツを入れて、キャラメリゼ。傍らで、ぐるぐると回り続けるマーブルストーン。クラシカルなマシーンを使って作業する大先輩の横で、3年目の若い職人がアシストしながら作業を学んでいました。職人の技術継承を目の当たりにして、私は機械では真似できない、人間の技の存在を感じました。
「ミシェル・クルイゼルのこだわりは、良い素材を集めること。そして全てをこのファクトリーで作り出すこと。大切なのは人間と、素材。全てはそこから始まるのです」(ヴィンセントさん)
ミシェル・クルイゼルのホスピタリティ
パリでは、ミシェル・クルイゼルのショップ3店舗に出かけました。 うれしいのは、どのお店のスタッフの方も親切でやさしいこと。どこへ行っても、素敵な笑顔が私を迎えてくれたのです(私はパリで、様々なチョコレート店を巡りますが、これは、決して当たり前のことではありません……)。 私がそのことをヴィンセントさんに伝えると、ヴィンセントさんはちょっと首をすくめてこう答えました。「フランスは世界有数の観光大国だというのに、サービスが良くない場所が多いですね。これは私から、ごめんなさいと言います。でも私たちのお店のスタッフは、定期的に、マーク・クルイゼルの妹にあたるカトリーヌの元に集まり、よりよいサービスについて、みんなで一緒に考える機会を持っているのです」
うれしいですね。みなさんもパリへ行ったら、安心してお店に立ち寄ってください。
パリのミシェル・クルイゼル
私が足を運んだ、パリの3店を写真を中心にご紹介します。■フォーブル・サントノーレ店
高級店が建ち並ぶエリアの一角にあります。
オランジェットやナッツのチョコレートコーティングのディスプレイがきれい。
■マドレーヌ店
メトロの「マドレーヌ」駅の出入り口のすぐそばにあります!
ブルーと白を基調にした、夏らしいディスプレイ。サーディンそっくりのチョコレートはベストセラーのひとつ。可愛いのです。
■ネウリー・スール・セーヌ店
メトロの「Victor Hugo」駅の近く。こちらも高級住宅街です。
私はこのカカオ99%のチョコレートを使ったソルベがとても好きでした!(冬場の販売は未定だそう)
サロンスペースがある、新しいスタイルのブティック。
近隣にお住まいのマダムのために、この店舗には製菓用チョコレートの販売があります。子ども用エプロンもキュート。
フランスらしいパッケージが魅力の「コフレ・ショコラ・パリ」も各店舗で人気を集めていました。
有名パティシエ、フィリップ・コンティチーニ氏(ギンザシックスB2Fにお店がありますね)が使うチョコレートは100%ミシェル・クルイゼル。クーベルチュール(製菓用チョコレート)も、プロから厚い信頼を得ています。
あなたの中の「ミシェル・クルイゼル」のイメージが、少し深く、広くなりましたか?日本でもバレンタインシーズンに、広く全国販売が予定されています。楽しみに待つことにしましょう。
■DATA
MICHEL CLUIZEL(ミシェル・クルイゼル)
※2018年バレンタインシーズンは、日本でもチョコレートバー、ボンボンショコラなどの人気アイテムを販売予定。3代目マーク・クルイゼル氏と、今回私を案内してくださった、ヴィンセントさんも来日予定です。お会いしたら、ぜひお声をかけましょう!