モリヨシダの吉田守秀シェフを訪ねて
2017年9月のはじめ、パリへ出かけて、「MORI YOSHIDA(モリヨシダ)」を訪ねました。ショコラファンのみなさんにはお馴染みですね。吉田守秀シェフのお店です。 日本のショコラファンにとって、吉田シェフに会える機会は、バレンタインシーズンに限られるかもしれませんね。パリ7区にお店を構え、フランスを拠点にする吉田シェフは、普段、パリにいらっしゃいます。
東京では、バレンタインイベント会場の熱気をよそに、どこか落ち着いた雰囲気。トレードマークのクールなグレーのコックコートで、お客さまに対応する姿を私も何度もお見かけしています。そんな「非日常」ともいえる日本のバレンタインシーズンとは違う、いつもの吉田シェフにお会いしました。
パリの「日常」とともにある、吉田シェフの今をご紹介します。
吉田守秀シェフの店「MORI YOSHIDA」
「MORI YOSHIDA」は2013年4月、パリ7区にオープン。私がお伺いするのは、これで2度目になります。今回も前回同様、私がお店にいると、ご近所にお住まいと見える素敵なお子さま連れのマダム、落ち着いた男性がおひとりで、など、次々とガラスのドアをあけてお客さまが入ってきます。 あるフランス人男性は、「今日はプリンはありますか?」と、にこやかに販売スタッフの方に声をかけていました。聞くところによると、以前日本に住んでいたことがあるそうで、流暢な日本語を話し、スタッフの方も笑顔で、お菓子選びをお手伝いしていました。
ケーキを受け取って、お店を出て行く時のマダムは、心なしかウキウキ楽しそう。楽しい午後が、これから待っているのかもしれません。この空間に身を置くと、ここに「日常」の時間が流れていることを感じます。
私はMORI YOSHIDAのブティックの佇まいが好きです。
まるでお店全体がショーケースのようにみえる、全面ガラスのエントランス。通りや、向かいの公園とひと繋がりになっているかのようなブティックから外を眺めると、可愛い子どもたちがサッカーをしていたり、大人たちがピクニックしていたり。
私がお水を買いに表に出ると、犬のお散歩をしている方と何人もすれ違います。ちょうど9月の始めは、秋の訪れ。通りの木々の葉が少しずつ色づいてきていました。この地に住む人たちの、流れゆく季節の中の、いつもの1日。前回私が訪れた6月は日射しに緑があふれ、ここはすごく気持ちいいな、と感じたことを思い出しました。
MORI YOSHIDAのガトー
吉田シェフによるチョコレートは、日本でバレンタインシーズンに販売されますが、ケーキに会えるのはパリのお店だけ。今回は、私が訪れた日にショーケースに並んでいたガトーをご紹介します。 白いお花のようです。紅茶とライムが香る爽やかなムースがガナッシュと層をなし、ザクザクとした食感のチョコレートのタルト生地とマッチしています。 チョコレートのクリームがきっちりとつまったエクレール。薄いビターチョコレートのプレートがパリンと食感のコントラストに。ペルー産のビオのチョコレートを使用。チョコレート好きな方ならぱくぱくいってしまいそう。「モリヨシダといえば、というチョコレートケーキです」(吉田シェフ)。Mという名のスペシャリテ。ビスキュイノワゼット(ヘーゼルナッツの生地)、メープルシロップを使ったムース、ミルクチョコレートのムース、マンダリンのコンフィチュールが層になり、飴がけしたヘーゼルナッツがカリッとアクセントに。
「モワルー オ ショコラ」は、チョコレートとメレンゲで焼いた小麦粉を使わないチョコレートを堪能できるケーキ。しっとりやわらかな食感が特徴。チョコレートの薄いプレートとふんわりとしたクリームをあしらっています。
こちらはチョコレートのガトーではありませんが、ショーケースの中でキラキラと目立ち、そして美味しかったです。マンゴーのクリームの中に、フレッシュマンゴーがごろんと入ったトロピカルフルーツを使ったババ。スポイトに入ったココナッツのシロップをかけていただきます。
吉田守秀シェフにインタビュー
吉田守秀シェフは1977年静岡生まれ。日本菓子専門学校を卒業後、南青山「アニバーサリー」に勤務し、1999年に渡仏。「パークハイアット東京」、「菓子工房オークウッド」を経て、2005年に地元静岡に「パティスリー ナチュレナチュール」をオープン。2010年に再度渡仏し、2013年、パリ7区に「MORI YOSHIDA」をオープンしました。お店にいるシェフは、お客さまに「Bonjour(ボンジュール)」、とお声をかけながら、販売スタッフの女性と手際よくやりとり。一方で訪ねてきたお知り合いとお話をしたり、一緒に写真を撮っていいですか?というリクエストにお答えしたり。
ここは、パリの高級住宅地。近くにはカフェがあり、スーパーマーケットがあり、ファーマシーがあり。渡仏して7年、お店を開いて4年という吉田シェフは、近隣の方々とすっかり打ち解けているようです。
--お客さまが途切れませんね。ここにはどんなお客さまが訪れますか?
さっき僕が話をしていた人は、ファッション界では有名な人で、ここを訪ねてきてくれて、色々話していたんですよ。お客さまは近くに住んでいる方が殆どで、住民の方が7割くらい。日本もですが、中国やベトナムなどアジアからのツーリストのお客さまも多いです。ツーリストの方は3割くらいです。
--日々、吉田シェフは拠点となるこのパリのお店で、どんな心持ちでお菓子を作っていますか?
ターゲットが誰なのか、ということです。それでいくと僕は、フランスの方のために作っています。日本ではお菓子は非日常、という感覚があるかもしれませんが、僕が考えるここでのフランス菓子は日常です。人と近いところにお菓子はあるもので、厳かなものでもなんでもありません。
イメージでいうと、お母さんが、モリヨシダでお菓子を買って帰って、そのことを子どもたちや家族に内緒にして、そっと冷蔵庫にいれておく。それで家族のためにご飯を作って、みんなが料理を食べ終わったあとに、「今日はモリヨシダのお菓子やチョコがあるよ」と声をかけて、子ども達や家族が「え、そうなの!?」と喜ぶのを待っている。そういうイメージをしながら、僕はショコラやガトーを作ってるんですよ。
--日常の何気ないあたたかな風景ですね。日常にふさわしい奇をてらわないショコラやガトーが並んでいる気がします。
僕は、ど真ん中で行きたいタイプです。なんでも色々経験して一周回ってくると、元に戻ってきますよね。そういう感じ。王道が一番難しいんです。アラが出やすい。そして隠せない。だから王道をやりたいです。例えばチョコレートでいえば、ガナッシュナチュールとかですね。奇をてらった物ではなく。食べるものを作っているので、食べるシチュエーションを考える。たとえばお昼ご飯の料理のあと、その流れの中にあるデセールとして。アフタヌーンティーとかではないんです。
パリのお店ではボンボンショコラを1粒から購入できる。プラリネアマンド、プラリネノワゼット、モヒート、ココ、シトロン、シトロンヴェール、トロピック、ルビー、チャイ、セドラなど、この日は18種類が並んでいました。
僕は、チョコレートをフランス料理の流れでとらえています。料理があって、デセールがあって、ショコラがあって、カフェがある。この流れの中のデセールであり、ショコラ。僕自身フレンチ好きで、ショコラは料理に寄り添うべきだと思っていて、ボンボンショコラの大きさは料理の最後のカフェ1杯に、2粒。それでちょうどよいポーションです。
2017年のバレンタインに日本で販売した新作チョコレートバーも、これもフランスの料理、朝ごはんとリンクしています。フランス人は朝チョコを食べることもあるんですよ。栄養価の高い物をとって、甘くてハッピーになる。朝目覚めるときのアイテムとしてのチョコレート、でした。 --フランスにいらして、「フランス菓子」をどう見ていますか?
見えない「フランス菓子」の枠のようなものがあって、それを壊したい。フランスにいる僕からみて、日本での「フランス菓子」の捉えられ方は、ちょっと違うところもあると思っていて、今、フランスにないお菓子は、「今のフランス菓子」ではないと思っているんです。
歴史の中で、多くのフランス菓子が生まれて、消えて、残ったものが、今の「フランス菓子」です。生活も文化も変わって、失われていったお菓子もたくさんあって、なくなっているものはなくなっている。今あるものはあるもの。フランス菓子を大事にするなら、今を大切にしないといけないと思うんですよ。だから今はフランスでは見つからないものや、すごい変化球みたいなアレンジを加えたものを「フランス菓子」の代表みたいに呼ぶのは、どうかなと感じることはあります。
--例えば、私がフランスにきて、Japaneseと看板を掲げたレストランに入り、日本に存在しない変わったアレンジの料理があったら、面白いけど、日本料理の王道、とはいえないな、と感じる、そんな感覚でしょうか?
そうなんですよ!僕はフランスに住んでいますから、フランス人の友だちができるじゃないですか。そうすると率直に話をしてくれるんです。「それはフランス菓子じゃないよね」という感じで。でも、日本オリジナルのケーキとして、ロールケーキとかショートケーキとかのことを、彼等は認めているんですよ。もしかしたら友だちじゃなかったら正直に言ってくれないかもしれませんけどね。今のフランスの文化や、フランスの素材を尊重して、「フランス菓子」作りをするのが僕の役割かな、と思っています。
--今後どんなお菓子を作りたいですか?
これから、「お菓子」という言葉の枠組みを超えたお菓子への挑戦をしてみたいと思っています。たとえば、甘くない日本のスナック菓子のことも、「お菓子」って言うじゃないですか。甘さがないお菓子とか、そういうシリーズも別のラインとして作ってみたいですね。
--次に私たちが日本で出会えるチョコレートは?
次のチョコレートはですね、できつつありますよ。お酒を使ったチョコレートを考えています。アンフュジョンをいろいろと。フランスにも色々なお酒がありますから。
「飛行着の中でとかもそうですけど、よく知らない人に声をかけられるんですよ(笑)」と、吉田シェフ。やわらかな雰囲気をお持ちなので、私もパリですれ違ったら、知らない人だったとしても、確かに道を尋ねてしまいそうです!
パリで活躍する日本人にもモリヨシダファンが
パリ在住で現地でご活躍する日本人の方にも、お話を伺ってみました。パリ14区にあるフランス料理店「restaurant kigawa」のシェフ、紀川倫広さんは、元パティシエでお店でサービスをつとめる奥さまの順子さんとともに、モリヨシダの大ファンだそう!「車でよく買い物にいくんですよ。美味しいですね。妻は私以上に大ファンで、今年はガレットデロワを3個も買ってました」(倫広さん)、「吉田シェフの商品は大好きで、 今年のガレットはついついリピートしてしまいました。繊細なお味で優しい印象の中、フランスに存在するパティスリーの味わいがさりげなく織りなされています。お店に伺うと大抵フランス人のお客様で賑わっておられ、 現地の方々にも親しまれているんだな、 と思うと同じ日本人として嬉しく感じます」(順子さん)
「モリヨシダ」のパリの日常ーー。吉田シェフの「今」を少し感じていただけたでしょうか。
次にお店に伺うときにも、パリに平和な日常が訪れていて、このお店で美味しい王道に出会えることを、私は楽しみにしています。
■ MORI YOSHIDA
住所 : 65 avenue de Breteuil 75007 Paris, France
アクセス: メトロ10・13番線 Duroc駅、6番線 Sèvres-Lecourbe駅
営業時間 : 10:00 – 19:15 (火曜~日曜)
電話番号 : +33 (0) 1 47 34 29 74
※日本語の話せるスタッフがほぼ毎日います。
<あわせて読みたい関連記事>
サロン・デュ・ショコラ2018で読者が買ったベスト6!