VW(フォルクスワーゲン)/ティグアン

ティグアンは“VWの考える未来のクルマ像”か?

VWのコンパクトSUVの2代目モデル。日本人好みのボクシーな、ライバルに見劣りしないスタイルに。パサート級の先進装備、運転支援とコネクタビリティも手に入れ、スタイルと実用性でクラストップレベルに進化しました。その走りは……。

西川 淳

執筆者:西川 淳

車ガイド

2代目は見た目も実用性も大きく向上

VWティグアン

フォルクスワーゲンの生産モジュール“MQB”をSUVで初めて採用した、コンパクトSUVの2代目。ベーシックグレードのTSIコンフォートライン(360万円)、装備充実のTSIハイライン(432.2万円)、スポーティなスタイルのTSI Rライン(463.2万円)を用意する

最近のVW各モデルの魅力のひとつに、どちらかというと直線基調のボクシースタイル=日本人好み、なデザインがあるんじゃないか、と常々思っている。実際にはさほどパキパキしているわけでもないのだけれど、他に比べるとハッキリとシンプルで潔いカタチ。いずれにせよ、ゴルフやパサートに代表される“スタイリングの真っ直ぐな雰囲気”こそ、“最近のワーゲン”の良さのひとつ、ではないだろうか。

先代の初代ティグアンの見映えは、ひと言でいって、モノ足りなかった。パッとしないという表現がぴったり。バッヂを付け替えさえすれば、どこか国産メーカーのSUVだと言われても納得しそうな、ありきたりなデザインに見えた。必然かどうか、走りのイメージもぼんやりしたもので、ベースであるはずのゴルフほどには高い評価を与えることができなかった。
VWティグアン

ボディサイズは全長4500mm×全幅1840mm(Rラインのみ1860mm)×全高1675mm、ホイールベース2675mm。旧型より全長70mm、全幅30~50mm大きく、全高は35mm低くなっている

その点、二代目は違う。これはもう、どこからどうみても、VWの最新モデルだ。そして、ゴルフというより、上級のパサートに近いイメージ。さらに、最新のSUVシルエットを手に入れた。いっきにクラスアップしたかのような印象で、寸法的にライバルとなるBMW X1やレクサスNXと比べても、見劣りのしない雰囲気を漂わせている。先代に比べて、長く、幅広く、低くなったことがそう見える要因だ。SUVとしての見映えバランスがよくなったと言っていい。
VWティグアン

12.3インチディスプレイを用いたアクティブインフォディスプレイは、中央にナビなどの情報を表示する。ネットに接続することでナビの精度などを高めるテレマティクス機能や、スマホのアプリを楽しめる機能などが採用されている

インテリアに目を転ずれば、さすがにパサートレベルとは言えないまでも、ゴルフと同程度の見映え質感をキープしている。メータークラスター内をデジタルモニター化してナビ画面などを展開できる、“アクティブインフォディスプレイ”(アウディでいうところの“バーチャルコクピット”)を採りいれた点が特徴。また、ホイールベースが長くなったため、先代よりも居住性が向上した。ラゲージスペースも先代より増量になって、ゴルフヴァリアントと同等レベルに。

要するに、立派なスタイリングを手に入れたうえで、実用性も大いに増した。積極的に選んでいい、コンパクトSUVの筆頭に躍り出た、というわけだ。少なくとも、静的な評価においては。
VWティグアン

インテリアはブラックを基調とし、上質感とスポーティさを演出。ハイラインではオプションでレザーシートも選択可能

VWティグアン

ホイールベースを旧型より70mm延長することで、室内空間はより広く快適に。室内長を26mm、後席ニールームが29mm広くなった

VWティグアン

ラゲージスペースも旧型より145L広い615Lに、後席を畳めば最大1655Lとなる。オプションでパワーテールゲートも用意された


仕立ては良いが、あっさり薄味に過ぎる?

VWティグアン

デュアルクラッチミッションの6速DSGを搭載。エコ/コンフォート/ノーマル/スポーツ/カスタムから走行モードを選択できるドライビングプロファイル機能も備わった(Rラインに標準)

動的にどうか。まずは売れ筋、150ps&250Nmの1.4Lターボ+6DSGのFFに乗ってみた。トリムレベルは、他モデル同様、コンフォートラインを最廉価とし、順に、ハイライン、Rラインとなっている。試乗車は、これまた売れ筋、ハイラインだ。

ゴルフ7と同じMQBプラットフィームをベースとしている(パサートもそうだ)。当然、ゴルフ7のような走りを期待して乗り込んだが、ん?何だか、ちょっとアッサリし過ぎていないかしら?  というのが第一印象で、試乗コースをこなし、返却場所に戻ってきても、それほど印象が好転することは、なかった。
VWティグアン

気筒休止システム(ACT)やアイドリングストップ機能などを採用。JC08モード燃費を16.3km/lと、旧型より約10%向上させている

端的に言って、薄味だ。ゴルフだって、そうなのだけれども、丁寧に取った出汁のような深みというか、凄味があった。パサートも、昔ながらの乗用車はこうでなくっちゃ、とクルマ好きのオッサンを思わせるだけの懐の深さが乗り味に出ていた。ところが、ティグアンには、そのどれもがない。ちょっと背を高くしたくらいで、こうもあっさりと薄味になってしまうものなのか、と、逆に驚いてしまったほど。

ややかったるいものの、それなりに活発に走るし、乗り心地もSUVにしては決して悪いものじゃない。むしろ、良い。決定的にダメなところなど、どこにも見当たらなかったというのに、見晴らしがゴルフより良いという事以外に、ティグアンに乗って得られる幸福感が見あたらない。これはいったいどうしたことなのだろう?

VWの考える“未来のクルマ像”?

VWティグアン

安全・快適装備も充実。アダプティブクルーズコントロール(ACC)やレーンキープアシスト、プリクラッシュブレーキシステム(フロントアシスト)、レーンチェンジアシスト(サイドアシストプラス)を装備する。駐車支援システムのパークアシストも備えた

いろいろ考えていくうちに、ハタと思いつく。ひょっとして、これもまたVWの目指すところなのではないか、と。ゴルフ7の素晴らしさは、ごくごくフツウのクルマであることを貫くために莫大なコストを掛けた結果、日常的な場面において、しみじみとその良さを感じ取れることにあった。それは、従前までの、パサート以前の、VW流クルマ造りの成果でもあったと思う。

ところが、昨今では、そこまでの“根の詰めよう”、が期待できなくなってしまっているのでは、ないだろうか? ゴルフベースのSUVを造るのに、スタイリング以外にさほど頑張った形跡が見受けられないのは、その現れの一つではないか……。もしそうだとしたら、ちょっと悲しいことだけれども、デザイン重視路線をひた走るメルセデス・ベンツ然り、ドイツ勢にひと頃の勢いが失われつつあることもまた、事実だと思う。
VWティグアン

日本には都会的なエクステリアのオンロードバージョンを導入。前方の状況に応じてヘッドライトの照射パターンを変更し続けてくれるダイナミックライトアシストもオプション(コンフォートライン以外)で採用している

ティグアンで、評価できるのは、カタチと、あとはパサート級の先進装備、運転支援とコネクタビリティ、のみ。その事実から浮き彫りになってくるのは、VWの考える“未来のクルマ像”である、というのもまた、筆者の考え過ぎなのだろうか…。
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