ふたりで学ぶマネー術/ふたりで学ぶマネー術

困難を乗り越える家計運営に必要な「7S」

お金のことで夫婦ゲンカをしたことのある人の割合は5割を超えているそうです。人口減少・少子高齢化など、私たちの家計を取り巻く環境は厳しさを増すばかりです。そんな時代を生き抜くためには、夫婦ゲンカをしている場合ではありません。家計を抜本的に改革するために必要なことを、企業戦略で用いられる「7S」モデルを参考にしながら解説します。

平野 泰嗣

執筆者:平野 泰嗣

ふたりで学ぶマネー術ガイド

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「お金」が原因でケンカしたことのある夫婦は、5割

先行きの見えない世の中を生き抜くために家計管理を抜本的に見直そう!

先行きの見えない世の中を生き抜くために家計管理を抜本的に見直そう!

理想的な家計運営のためには、夫婦間の円満なコミュニケーションが大切と言われています。ところが実際には、夫婦間で「お金」が原因でパートナーに対する不満を抱いたり、ケンカに至ったりするケースは少なくありません。

ママ向け情報サイト『ママスタジアム』を運営する株式会社インタースペースが子育て中の女性に行った「“ママのおさいふ事情”についての実態調査」によると、「お金のことで夫婦ゲンカをしたことがある」と回答した人の割合は、52.7%で過半数を占めています。

人口減少・少子高齢化など、私たちの家計を取り巻く環境は厳しさを増すばかりです。そんな時代を生き抜くためには、夫婦ゲンカをしている場合ではありません。今回は、家計を抜本的に改革するために必要なことを、企業戦略で用いられる「7S」モデルを参考にしながら解説します。

優れた企業に学ぶ、家計運営「7S」モデル

「7S」は、世界的戦略コンサルタントであるマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱したもので、企業・組織の全体像を7つの視点から整理・把握するフレームワーク(枠組み)です。優れた企業では、7つの各要素が互いに補完、強化し合いながら、戦略の実行に向かっているとされています。私たちの家計も、収入を得て、支出をし、また、将来の消費や投資のために貯蓄を行う自由な経済活動体と捉えると、企業と同じように考えることができるでしょう。

「7S」は、企業・組織を分析する7つの視点の英語の頭文字からとったものです。7つの視点は、形として見えやすい「ハードの3S」と、企業に内在していて見えにくい「ソフトの4S」に分かれています。

●ハードの3S:形として見えやすいもの
・Strategy(戦略):企業が他社と競争し打ち勝つための方向性
・Structure(組織):戦略を実行するための組織体制
・System(システム):情報を把握・伝達する仕組みなど

●ソフトの4S:企業に内在していて見えにくいもの
・Shared Value(価値観):経営理念や従業員の中にある共通の価値観
・Skill(スキル):企業活動に必要なノウハウ(販売力、技術力、開発力など)
・Staff(人材):企業にいる人材の個々人の能力、社外ネットワーク
・Style(スタイル):社風や組織文化など

マッキンゼーの7Sモデル

マッキンゼーの7Sモデル



これを家計運営に置き換えてみると、このようになります。

●ハードの3S
・Strategy(戦略):
収入・支出・運用の組み合わせで、どのように人生を生きるのか、人生戦略
・Structure(組織):
基本的に夫婦2人であるが意思決定の仕方、役割分担など
・System(システム):
家計管理の方法、家計分担の仕組み、家計簿づけ

●ソフトの4S
・Shared Value(共通の価値観):
共通の人生哲学や人生観やライフデザイン
・Skill(スキル):
家計運営(収入アップ、支出削減ノウハウ、資産運用、家計管理など)に必要な能力
・Staff(人材):
基本的に夫婦2人であるがSkillを互いに補完したりできる状態、外部サービスの活用など
・Style(スタイル):
家風、コツコツ型、集中型、スローライフ、ファーストライフなど

家計改革のために重要なのは、「ソフトの4S」

■ソフトの4S、ハードの3S、どちらが改革に有効?
企業が抜本的な改革を行う時に、良く採られるのは、「戦略」「組織」「システム」のハードの3S改革です。これは目に見えるものなので、手をつけやすいものだからです。「戦略変更」、「組織体制の変更」、「新しいシステムを導入する」など、企業に勤めている人は、思わず「またか!」と言ってしまいたくなるほど、日常的に行われています。けれども、「戦略」「組織」「システム」を変えても、なかなか成果が上がらないと感じている人が多いのではないでしょうか。

7つの要素は、相互に補完・強化しながら戦略実現に向けて作用する、ということからわかるように、ハードの3Sだけ変えても機能しないというのが実際のところです。

家計改革を考えた場合も同様です。家計戦略として、「夫婦共働きで収入をキープしつつ、節約も最大限行って、運用も始めよう」と方針を決めること自体は簡単なことですが、それを実行に移すのは容易ではありません。

「家計簿をつけて現状を把握することから始めよう」とか、「貯蓄先取り法を採用して、貯蓄をする」というのは、家計管理のシステムの改革かもしれませんが、家計簿づけが長続きしなかったり、貯蓄先取り法を取り入れても、結局は取り崩してしまい貯まらなかったりするのは、ハードの3Sにばかり目がいっているからなのです。肝心のソフトの4S、特にShared Value(共通の価値観)がお互いに納得できていないと、「何のためするのか?」が曖昧になってしまい、夫婦で決めた、「家計戦略」や「家計管理の仕組み」も、モチベーションが維持できず、長続きできないでしょう。

■カタチよりもキモチ
「カタチから入る」というのは、一つの方法ですが、特に家計管理においては、カタチではなく、「キモチから入る」ことが大切なのです。夫婦で家計を抜本的に変えていこうとする場合は、「何のためのするのか?」=「二人でどんな人生を歩みたいのか?」という根本的な所に立ち戻る必要があるでしょう。

また、お互いにできること、できないことを話し合い、足りない部分は、外部のサービスを活用する(FPに家計のアドバイスをもらう、共働きを続けるために家事負担を減らすための外注など)ことも大切です。これは、Skill(スキル)やStaff(人材)の視点です。

マッキンゼー・アンド・カンパニーが優れた企業(エクセレントカンパニー)を分析した際に、エクセレントカンパニーは、最初から全ての7Sが備わっているわけではありません。激動の経営環境の中で、企業活動を行うことによって、互いに補完・強化できるような7Sが備わったと述べています。

先の読めない世の中で、自分たちらしい生き方をするためには、夫婦のコミュニケーションを密にしながら、共通の価値観をお互いに確認し合い、ハードの3S、ソフトの4Sの視点で家計運営をすることが大切なのです。

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