食と健康

健康食品の打消し表示・「個人の感想」だけではNG

平成29年7月、消費者庁は「打消し表示に関する実態調査報告書」を公表しました。私たち消費者にとっては、あまり馴染みのない報告書ですが、健康食品などの表示に関わるものです。日常的に健康食品を選ぶ際、選び方の判断材料になるものだと思いますので、わかりやすくまとめて解説します。

南 恵子

執筆者:南 恵子

NR・サプリメントアドバイザー / 食と健康ガイド

消費者庁がまとめた「表示」に関する報告書

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健康食品の体験談。「個人の感想です」という打ち消し表示は、ほとんど認識されていないという結果が出ました。

私たち消費者が商品を買ったり、サービスを受ける際に、事業者はその内容の特長をアピールしたり、取引条件について説明をします。

その際の「いわゆる強調表示」について、例外や制約などの条件がある場合には、その表示(これを「打ち消し表示」という)をわかりやすく適切に行わなければ、一般消費者に誤認され、不当表示として景品表示法上問題となるおそれがあります。

今回の「打消し表示に関する実態調査報告書」では、それらのことが丁寧にまとめられています。この報告書では、保険やwi-fiルーター、印刷パック料金など幅広い例を挙げていますが、ここでは「健康食品」に限ってご紹介します。

これまでにも健康食品については様々なメディアにおける広告宣伝、個別包装の表示において、景品表示法に触れるものがあり、消費者庁は改善要求などをしてきた状況があります。詳しくは、「健康食品の虚偽・誇大表示に注意」もあわせてご覧ください。

今回の実態調査(期間は、2016年10月31日~2017年3月31日)は、一般消費者6人のグループ2回インタビュー調査、webによるアンケート調査(回答者数全国1000人)、3人の有識者による研究会の実施などが行われました。

健康食品の体験談、打消し表示とは「個人の感想」

健康食品においては、どのようなケースが示されたのかを見ていきましょう。

健康食品の強調表示で示されたのは「体験談」です。皆さんも、新聞や雑誌web広告などでも読んだ経験があるのではないでしょうか。

報告書において下記のような体験談及び打ち消し表示について、消費者の意識調査を行いました。
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消費者意識調査で提示した健康食品の表示例


■調査に用いた表示例
  • ダイエットサプリの広告において、「無理なダイエットはもうおしまい!」 という主要なメッセージ、商品に配合された成分の痩身効果を説明する解説と共に、商品を摂取した4人の体験談及び打消し表示が掲載されている。
  • 体験談の内容については、あたかも、商品を摂取するだけで、特段の運動や食事制限をすることなく、容易に痩身効果が得られることを述べるものである
■具体的な表示の内容
【強調表示】
体験談1
「毎日たった2錠飲むだけ。忙しくても続けられるから助かります。」
 体験談2
「『お腹周りがスッキリした』と最近、妻も満足げです。」
体験談3
「カロリーを気にせず食べられる!  ガマンしなくていいって幸せ!」
 体験談4
「あきらめていた服が入った。鏡を見るのがたのしくなりました。」

【打消し表示】
「※個人の感想です。効果には個人差があります。」

打消し表示は文字が小さく、画面切り替えも早い傾向

私もこのような広告を見たことがありますが、たいていの場合「体験談」はわかりやすく大きな文字で強調されますが、「打ち消し表示」はテレビなどの画面、雑誌や新聞などでの紙面では、とても小さく扱われているという印象を受けました。

消費者庁は、これを単なる印象としてではなく、客観的なデータを取り分析するために、架空の広告物を作成し、webアンケート調査を得て分析しました。作成したのは「ウェブ広告」「CM風の動画」「テレビショッピング風の動画」「体験談を盛り込んだ健康食品の紙媒体広告」の4種類です。
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注意書きや注釈について、普段どれくらい意識を向けているか質問したところ、回答者1,000 人のうち 57.1%~75.1%が注意書きや注釈を「見ない(読まない)」と回答しました。

このうち普段から打消し表示を意識していると考えられる回答者 (680 人)であっても、49.7%~73.1%が注意書きや注釈を「見ない(読まな い)」と回答したのです。

たとえ普段から打消し表示を意識している回答者であっても、打消し表示を見ない(読まない)傾向にあるのは、文字が小さいことや表示時間が短いことがその理由となっていると考えられます。

打消し表示を読んでも「信用できる」と思い込む心理

回答者 1,000 人のうち、 44.3%が体験談の4つのコメントのいずれかに気付いた一方で、90.3%の回答者が打消し表示を見落としていました。なんと打消し表示に気付いた人は、9.7%だったのです。

報告書では、次のようにまとめています。
商品の効果があったという体験談を見聞きした一般消費者は、「『体験談と同じような効果』が得られる人がいる」という認識、「『大体の人』が効果を得られる」 という認識及び「自分に効果がある」という認識を抱くと考えられる。
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「商品の効果がある」という認識の根拠としては、次のように挙げています。
「実際に体験した人の声は信用できる」「体験談付きで紹介されている効果は、たいてい効果かがあることが多い」といった体験談の内容や体験談で紹介されている商品に対する一般消費者の信頼、
「科学的に裏付けられた根拠か?ありそう」といった合理的な根拠の存在に関する一般消費者の信頼、
「広告に載るような商品で、全く効果が無いことは考えにくい」といった広告物一般に対する一般消費者の信頼等
があるものと考えられる。
また興味深いことに、「打消し表示が明瞭に記載されていたとしても、体験談から受ける効果に関する認識が変容することがほとんどないため、体験談が一般消費者の商品選択に影響を与えることに変わりはないと考えられる。」と示されています。

消費者にとってこの根拠を知ることは、大きな意味があると思います。ここに記載された内容は、あくまでもイメージでしかないからです。自分にも心当たりがあるとしたら、「体験談って本当に大丈夫」と疑ってみてほしいのです。

打消し表示だけではダメ! 条件の明記が大切

こうした結果を受けて消費者庁は、
「例えば、実際には、商品を使用しても効果、性能等を全く得られない人が相当数存在するにもかかわらず、商品の効果、性能等があったという体験談を表示した場合、打消し表示が明瞭に記載されていたとしても、一般消費者は大体の人が何らかの効果、性能等を得られるという認識を抱くと考えられるので、商品・サービスの内容について実際のもの等よりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるときは、景品表示法上問題となるおそれがある」
と懸念しています。

体験談を用いる際は、実際には、健康食品だけでなく、他の食事療法や運動療法を行っていたり、特定の条件の人しか効果が得られないといった条件があるにもかかわらず、その事が明確に示されなければ、一般の人は体験談だけを読んで、自分にも効果があると誤認してしまいがちです。

消費者庁は、報告書に次のように示しました。
「商品の効果、性能等に関して事業者が行った調査における(i)被験者の数及びその属性、(ii)そのうち体験談と同じような効果、性能等が得られた者が占める割合、(iii)体験談と同じような効果、性能等が得られなかった者が占める割合等を明瞭に表示すべききである」

媒体に応じた、分かりやすい表示を

ただしこれはあくまで考え方を示したものであり、新たな規制ができるわけではありません。しかし事業者に対して、「表示を行う際には一般消費者が普段広告に接する際に打消し表示を意識して見ない(読まない)という実態を十分に理解すること。また打ち消し表示をしても、一般消費者が読んその内容を理解できない打消し表示であれば、表示していないことと変わりかがない」と厳しい見方を示しています。

そのため事業者は、一般消費者が打消し表示の内容を正確に理解できるように分かりやすく表示するとともに、各媒体の特徴を踏まえ表示から受ける一般消費者の認識と実際のもの等との間に差が生じないように留意する必要があります。今後事業者に対して、厳しく対応する覚悟が感じられます。

消費者も、打消し表示を意識することが大切

一方私たち消費者に対しても健康食品などを選ぶ際に注意すべきことをまとめています。

強調表示を見たときは、注意事項として例外条件、制約条件等が記載されていないか意識を向けること。特に購入を検討している場合は、表示物の一部から判断しないで、表示物全体の内容を把握して検討すること、などを挙げています。

報告書では、かなり具体的な例を挙げて解説し、一般消費者に対して表示例を見せた後アンケート調査・分析を行い、強調表示や打ち消し表示をどのように受け止めているのか、表示がどのように認識に影響するのかを示しています。客観的で説得力のある、緻密で濃い内容で、感動すら覚えました。

最後に私からも少し留意点をご紹介します。健康食品は食品に分類されます。数年から十年以上もの時間と膨大な予算をつけて科学的な試験を繰り返し有効性や安全性を裏付けされた医薬品とは、その信頼性は全く異なるのです。

過去記事「溢れる健康情報に振り回されない方法」で、健康食品と薬の違い、情報の信頼度のレベルについても詳しく説明していますので、ぜひご一読ください。数人程度の体験談では、科学的な根拠には全くならないことを理解しておきましょう。

健康食の違法表示に踊らされない」記事でも詳述しましたが、表示については、薬ほどの信頼性がない食品(健康食品も含めて)は、「効く」「治る」といった、効果・効能をうたうことはできません。

私は、健康食品を全く否定するつもりはありません。例えば加齢や病気の影響で食事量が減って、必要な栄養成分が十分に摂れないので、健康食品を利用する人もいるでしょう。また自分の体質と相性が良く体調が良いので、お守りのような存在になっているケースもあるかもしれません。

しかし体験談などを読んで、「だいたいの人には効く」といった曖昧なイメージで、効果がないのにもかかわらず高い買い物をしてしまったと後悔がないようにしていただきたいのです。できるだけ「表示を読み取る」力を身につけることも、私たち消費者にも求められていると思います。

■参考
打消し表示に関する実態調査報告書 (消費者庁)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
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