食と健康

経口補水液の作り方と注意点…塩分量に注意

【管理栄養士が解説】暑い夏の脱水症対策として大切な塩分と水の摂取。実際に病院にも脱水で運ばれてくる患者様が多くなっています。反面、日本人は食塩摂取量が多く、塩分の摂りすぎが問題視されることも。塩分と水の目安とタイミングにあわせた摂取方法、自家製経口補水液の作り方と注意点を解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

塩分とは……「食塩」ではなく化合物の総称

塩

日本人は食塩を摂りすぎていると言われています。それなのに夏は「塩分不足に注意」と言われます。なぜでしょうか?

「塩分」と聞くと「食塩のこと? 」と反射的に思ってしまいがちですが、実は完全なイコールではありません。

「「減塩なのに塩分50%カット?「減塩しお」のしくみ」でも解説したように、「塩分」の「塩」は「えん」と読み、「しお」ではありません。「えん」は化学用語で陽イオンと陰イオンが結合したものの総称です。

少し専門的に聞こえるかもしれませんが、「陽イオン」にはナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオンなどがあり、もっとも体内で多いのがナトリウムイオン。ナトリウムイオンは食塩の成分でもあり、塩分の補給にはナトリウムイオンを多く含む「食塩」が適していることから、上記のような誤解が生じてしまうようです。

ですので、脱水症の際に必要な「塩分」は、ナトリウムイオンだけでなく、カリウムイオン、マグネシウムイオンなども含めた「塩分」のことです。
 

体内での水の4つの役割……ナトリウムと水は恋人同士?

水を飲む少女

身体の成分で最も多いのは水。脱水になると生命に関わることもあります。

体内で、水は「体液」として存在しています。体液には血液やリンパ液などさまざまなものがありますが、体液の仕事は大きく分けて4つあります。
 
  1. 栄養素や酸素の運搬
  2. 不要な老廃物を運び出す
  3. 体温を調節する
  4. ホメオスタシス(恒常性)を維持する

これらの仕事を行うには「水」だけでなく「塩分」の存在が不可欠。体内では「ナトリウムイオン」が水を誘導しているところから、ナトリウムイオンと水は恋人同士のような関係だと説明する医師もいます。
 

塩分・水分は必要だが「塩分過剰摂取」のリスクにも注意

日本人は、塩分の主成分である「食塩」を過剰摂取する傾向にあります。「日本人の食事摂取基準 2020年版」によると1日あたりのナトリウムの推定平均必要量は18歳以上の成人で600mg。食塩換算で1.5gです。

一方、「平成30年度国民健康・栄養調査」では、日本人の平均食塩摂取量は男性11.0g、女性9.3gであり、かなり多すぎます。普通の食事をしている状況であれば、「食塩不足」になるとは考えにくいです。そのため、通常時は意識して「食塩は摂らないように」と言われています。

なぜなら、食塩の過剰摂取は高血圧や胃がんの原因になるとも考えられていることから、食塩は必要最低限に抑えたいのです。

また、食塩を多く摂った際に、濃くなり過ぎた食塩濃度を薄めようとして、水が欲しくなると言われています。これが体液を増やす原因となり、必要以上に体液が増えるとむくみの原因であったり、冷えの原因になったりすることもあり、注意が必要です。

これが、日常生活での一般的な注意です。ところが、とくに暑い時期は呼気から汗として出ていってしまう量が増えます。そのため、「脱水症の予防のために水と塩分を」と言われるのです。

水と塩分は足りているのか? この見極めはどのようにしたらいいのでしょうか?
 

脱水状態かどうかの見極め方

実は「のどが渇いた」と感じたときには、すでにかなり脱水状態が進んでいます。

そのため、自覚症状のない段階から体液の調節を行っておく必要があります。そのため、空調の効いた室内にいるときも塩分と水をこまめに補給しておくことが大切です。夏バテなどで食事量が十分ではない高齢者や小さい子どもは、とくに気をつけて下さい。

塩分に関しては、しっかり食事を食べることができていればさほど不足することは考えにくいですが、「水」は年齢を問わず、しっかり補給するように心がけて下さい。

ときどき水を飲むようにと言われて「ビールを飲んだから大丈夫」という人がいます。アルコールは水ではありません。むしろ水を体外に出してしまう作用があります。絶対に「水」としてカウントしないで下さい。

実臨床で脱水症になりやすいのは、子どもと高齢者。子どもは身体が小さく、もっとも気温の高い地面に近い位置に頭があるため、汗をかきやすく、高齢者は脱水状態になっていることに気づきにくい面があります。

また高齢者の場合、何らかの疾患で「水の摂取を控えるように」と医師から言われていることをかたくなに守り、「水を飲んではいけないと言われたから」とのどが渇いても我慢し、脱水症で入院するケースも散見されます。医師から水の摂取を控えるように言われている場合、どのように対応すればよいか医師に確認して下さい。

このように、高齢者が脱水に気づかず命の危険にさらされる事故が増えていることから「かくれ脱水」の定義が作られ、「チェックシート(HPの真ん中あたり)」も作成されました。

このチェックシートは高齢者の様子を観察しながらチェックをする形式になっていますが、近年は離れて暮らす親御さんを心配する働き盛りの子ども世代も多くなっています。離れて暮らしている場合には、電話口などで経口補水液を親御さんに飲んでもらい「おいしい」という反応が返ってきたら脱水を疑い、塩分と水の摂取を促す一方で、かかりつけ医に連絡するなど然るべき対応をとるようにして下さい。
 

自家製の経口補水液の作り方・注意点

経口補水液は食塩と砂糖、そして風味付けのレモン果汁があれば作ることはできます。作り方は簡単。水1リットルに食塩3gと砂糖20~40gを溶かしたら、風味付けのためにレモン果汁をお好みで入れるだけです。

ただし、食塩の量を正確に守って作ることが要求されますし、体調不良時に服用することを前提とした飲み物であるため、シビアな衛生管理も要求されます。手作りはあくまで応急的な方法と考え、自宅に市販品を常備しておくことをおすすめします。自家製の経口補水液はその日のうちに飲みきってください。

塩分も水も身体に必要です。基本は栄養バランスのよい食事を摂り、時間があるときに少しずつ水を飲むことが原則です。

ただし、塩分と水は心臓や腎臓などに疾患を抱えている場合、シビアな管理が要求されます。一般的には、食塩と水を控えるように指示されますので、どれだけ摂取すればよいか、判断が難しいと思います。

その場合、家族だけで悩んだり、素人判断したりせず、必ず対象者の身体の状態をよく知っている医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などの有識者に相談して、食塩や水をどのくらい摂取すればよいか確認するようにして下さい。
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