建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

縦長の光の井戸を持つ都市型住宅[蔵前の家]

大川建築都市設計研究所が手掛ける建築実例をご紹介します。東京の下町・蔵前に建つ4階建てのコンクリート住宅。南北を隣家に挟まれるという住宅密集地ながらも、外部吹抜け「光の井戸(ライトウェル)」を設けることで、厳しい条件にも負けない快適な暮らしを実現しています。

執筆者:川畑 博哉

今や外国人に大人気の観光地、浅草。その南側に位置する蔵前は、大通りにオフィスビルや商業ビルや飲食店が建ち並んでいますが、一歩中に足を踏み入れると昔ながらの瓦屋根の古い木造住宅と新旧のマンションが混在する住宅街になっています。

メーカーの技術者であるTさんは、8年ほど社宅暮らしをした後、かつてお母様が住んでおられた蔵前の地に家族の為の終の住処を建てることを決めました。建築家探しをされていたとき、銀座で催されていた建築家協会のイベントで、大川直治さんの設計された住宅のファイルをご覧になりました。これをきっかけに、お互いの年齢も近いので永く相談ができると考え、ご自邸の設計を依頼されました。

縦に伸びるコンクリートの家

外観
木目の付いた本実(ほんざね)仕上げコンクリート打放しの壁と木製のルーバーによりモダン和風を演出した正面のデザイン。建物の全体の高さは約12m。
写真提供:大川建築都市設計研究所
入口
建物は東西に約11.5mの奥行きがあり、バルコニーが4階の子供室を含め全部で5箇所設けられている。ビルに囲まれているが、一息入れられる眺めの良い屋上にも出られる。夏にはここから花火を眺めることもできる。
写真提供:大川建築都市設計研究所
外観
オフィスビルの建替えにより現れた北側の外観。各階に床から天井までのフィックスの大窓とジャロジー窓が設けられている。
外観
東側の外観。1階にガレージのフィックス窓、2階に寝室の窓、3階と4階にテラスがある。

以前Tさんのお母様が住んでおられたのは、瓦屋根の2階建ての古い木造住宅でした。正面は西向きで前面道路に接し、北側を5階建ての古いオフィスビル、南側を2階建ての店舗兼用の木造住宅と軒を接するという厳しい条件のなかで、建築家の大川直治さんが導き出した答えは「4階建てのコンクリート造の住宅」でした。
堅牢な純ラーメン構造のコンクリート造は、Tさんご一家が親、子、孫の三世代に渡ってこの地に永く住まわれることを考えての提案でした。

ご主人とお母様の趣味をかなえる

車庫
約10mの奥行きがあるガレージ。扉は天井に収まる方式の木製のスライディングドアになっている。
車庫
ガレージの奥は東側に開いた横長の大小2つの窓と、南側のトップライトから入り込む外光で明るく照らされる。天井にはバイクを懸垂できる金具も取付けられている。
玄関
住戸の玄関。玄関扉はガレージと同じパイン材。足元は玉砂利洗い出し仕上げ。
個室
西側に稽古舞台を設えたお母様の個部屋。床柱と床の框(かまち)は旧宅のものを再利用している。
写真提供:大川建築都市設計研究所

Tさんが大川さんに設計を依頼されたときの要望のなかに、大きなガレージとお母様の踊りと三味線の稽古場がありました。
1階の広いガレージには背の高いワンボックス車が2台入り、さらにオフロードバイクレースがご趣味のTさんのためのバイクの修理スペースも付いています。
2階のお母様の為の稽古場は、約6帖の舞台と六畳の和室が組み合わされた、落ち着いた雰囲気の和室になっています。舞台には厚さ3cmの使い込まれたヒノキ板が敷かれていますが、これはお母さまの師匠がかつて舞台として使用していた物を解体の折りに譲り受け使用しています。

外部吹抜けは光の井戸(ライトウェル)

吹抜け
南側の外部吹抜けを見上げる。
吹抜け
リビングから奥の外部吹抜けと階段室を見る。
LDK
吹抜けのある3階のLDK。床はサクラ材のフローリング。
LDK
外部吹抜けからガラス窓越しにLDKを覗く。
全ての写真提供:大川建築都市設計研究所

建物の南側には4層を貫く外部吹抜け=光の井戸(ライトウェル)があります。これは隣家が迫る南側から室内に外光を採り込むためのアイデアです。
3階はTさん一家が集まる吹抜けのある広いLDKです。リビングダイニングの天井高が約5.25mもある、広くてゆとりのある空間になっています。ここに佇むと都市の密集地にいる事を忘れさせてくれます。

ガラスで囲われたバスルーム

階段
3階から続く鉄骨造のガラスの階段。吹抜けから入り込む外光を遮らずに室内に届ける。
バルコニー
4階の木製デッキの敷かれたバルコニー。広さは約5帖。居間の吹き抜けの奥に外部吹抜けと東側のバルコニーが見える。
台所
3階のオープンキッチン。カウンターの奥行きは約3m。天井から同じ長さのレンジフードと一体になった収納が吊り下がる。正面に高さ50cmの横長のスリット窓が設けられている。
風呂
ガラスで間仕切られたバスルーム。壁面とバスタブの立上りと床は20cm角の磁器質タイル貼り。
便所
北側のジャロジー窓から外光と風が入り込むコンパクトな3階のトイレ。右はバスルームの間仕切りガラス。
全ての写真提供:大川建築都市設計研究所

上階の子供室へはガラス張りのスチール階段で上がります。踏面を透明なガラス板にしたのは、上部吹抜けからの外光を遮らないための選択でしたが、完成当初は上り下りがちょっと怖かったそうです。
3階の奥にあるバスルームは3面がガラスで囲われています。南側にはバルコニーが続き、バスタブに体を横たえながら隣家の瓦屋根越しに空を眺めるといった、露天風呂感覚を楽しむことができます。
三代に渡って蔵前に住み続けることを希望されたTさんご一家。これからもこの家を拠点として、町内会や趣味仲間や近隣の友人との交流を深めていかれることでしょう。

[蔵前の家]
所在地: 東京都台東区
構造・規模: RC造 地上4階
竣工年月: 2002年8月
敷地面積: 72.31m2
建築面積: 59.65m2
延床面積: 189.78m2
設計・監理: 大川建築都市設計研究所
構造設計: 小川 浩、植松慶次


大川直治[大川建築都市設計研究所]プロフィール

平面だけでなく、高さ方向を工夫してより伸びやかな空間を実現する「広く住まう工夫のある家」と、家族構成や生活スタイルの変化にフレキシブルに対応できる「永く住まい続けることができる家」を設計における2大テーマにして住宅を設計してきたベテラン建築家です。また日本建築家協会の住宅部会では、一般を対象にした家づくりのセミナーを年間30回以上企画して、意欲的に建築の相談にのっています。

大川建築都市設計研究所
Tel.03-3362-8133
ohkawa@okw-arc.com

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           大川直治 [Ohkawa Naoji]


これまで登場した大川建築都市設計研究所の住宅



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