不動産の営業担当者が何よりも優先するのは、売買契約と残金決済(引き渡し)の日程です。
現代なら「ブラック企業」と批判を受けるだけかもしれませんが、私が若手の頃はたとえ身内に不幸があろうとも、たとえ体調が悪くて倒れそうでも、契約や決済の予定があればそれを優先するように教え込まれました。
もっとも、昔でも大手業者などでチーム営業のスタイルならイザというときには代わりの人が契約や決済を担当したでしょうし、全国すべての不動産業者がそのような考え方だったわけではないでしょうが……。
自分の体調よりも契約や決済の日程が優先されたのは、その当時に勤めていたのが人数のわりに契約や決済が多く、同日に複数の予定が重なりがちな仲介業者だったせいもありますが、私が決済の日に風邪をひいてしまい咳が止まらずに困ったときのこと。
約束時間の前に飛び込んだ薬局で「何とかして~」と頼んだところ、即効性のある対処法を教えてもらい、すぐに咳を止めることができました。
医療関係の人からお叱りを受けるかもしれないので詳しくは書きませんが、数時間は持続できる方法です。おかげで何とか無事に決済を終えられましたが、いま改めて考えればだいぶ無茶をしたものです。
私自身は幸いに契約や決済などの予定と身内の不幸が重なったことはありませんが、そのような事態に遭遇して辛い立場になった営業担当者も少なからずいるでしょう。
不動産売買の決済では、売主や買主だけでなく、それぞれの仲介業者、金融機関、司法書士、その他ケースバイケースでさまざまな人が都合を合わせて、一同に会します。
売主が北海道や九州など遠方に住んでいても、決済のときには代理人を立てずに集まる場合が多く、以前の経験では外国に住む売主が決済に合わせて帰国されたこともありました。
逆に遠方の物件の決済であれば、万一にも交通事情で遅れることがないよう、営業担当者が前夜から決済場所の徒歩圏内に泊まることもあるでしょう。
そのような状況のなかで、代わりの者を用意することもできないまま、営業担当者の個人的な都合によって急遽予定を変更するわけにはいかないのです。
営業担当者だけでなく、関係者全員が予定どおり取引が完了するように段取りを組んでいるのですが、決済当日の朝になって「ゆうべ飲み過ぎたから決済の日程を延ばしてよ~」なんて、いくらお客様とはいえ許しません。
私がお客様を叱り飛ばした、唯一の経験です。中古一戸建て住宅の売主でしたが、そのときは30分遅れくらいで何とか決済を始めることができました。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2006年8月公開の「不動産百考 vol.2」をもとに再構成したものです)
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