アドバイス1 少なくとも「30年返済」で住宅ローンを考える
ご相談は主にマイホームの購入についてですが、結論から言えば、みどりさんのプランである「頭金ほぼなしで4500万円を40年ローン」はNGです。理由は、完済がご主人72歳、みどりさん80歳のとき。老後に入って、ここまでローンの支払いが続くことは、相当に大きなリスクとなるからです。住宅購入のコスト4500万円(土地+建物+諸費用)を全額、仮に40年ローンで借り入れたとします。変動で借りるなら0.5%台の金利もありますので、みどりさんが言われているとおり毎月の返済は10万円ほどに抑えられます。しかし、40年間となると、変動金利による金利上昇リスクは無視できません。超低金利だからこそ長期固定金利を利用する、これがマネープランのセオリーです。したがって、フラット35の金利と同程度で借り入れたとして金利1.5%すると、毎月の返済額は約12万5000円。固定資産税が月割り1万円とすれば、実質のランニングコストは月13万5000円となります。
一方、みどりさんの退職金は2000万円。老後資金の大切な原資となるわけですが、住宅ローンの支払いが定年後20年間続きます。その間の住宅コストは13万5000円×240カ月となり、計3240万円。退職金を全額充てても、さらに1200万円超が不足します。これだけ見ても、このローン負担の大きさがわかるはず。しかも、この金額に、いずれ発生する住宅の修繕コストは考慮されていません。
そもそも4500万円の借り入れは元本だけで、大きな額です。しかも、これまで貯蓄ができず頭金が用意できない状況で、急に大きなローンを組むことには、やはりどこか無理があります。返済が老後も続く場合、途中で繰上返済によって返済期間を短縮したいところですが、それも容易ではないでしょう。
したがって、当初の返済期間をもっと短縮すべきです。最長でも35年。できれば、年齢的にも30年返済にとどめたいところです。すると、毎月の返済額が上がってしまう貯め、借入額=住宅購入コストを下げざるを得ません。しかし、マネープラン全体を見れば、それが賢明な考え方だと言えます。
アドバイス2 世帯収入から見て、もっと貯蓄が可能
では、どの程度下げるのが妥当でしょうか。それは今後の家計管理次第ということになります。下げ幅を小さくするなら、当然家計の見直しが必要です。さらに、現状で教育資金も計画的に貯められてはいないようです。そう考えると、これを機会に家計を見直し、貯蓄ペースを上げていくことが重要だと言えます。まず、教育資金は、住宅資金より優先しなくてはなりません。大学費用として、進路をコストが高めの私立理系と想定すると、一人500万円は必要。したがって、お子さん2人で1000万円がひとつの目安となります。そして最終的には、下のお子さんが大学3年までに、その資金を用意する(実際は貯めては使うことを繰り返す)した上で、毎月どれだけ、無理なくローンを支払うことができるか、ということになります。
そこで、現状の貯蓄ペースですが、住宅財形貯蓄が月額5万円。これにボーナスからの30万円の貯蓄(財形部分も含む)を加えると90万円となります。この金額自体は決して小さくはないのですが、世帯収入の高さがそのまま貯蓄に反映されているとは言い難いと思います。
月間収支で見ると、世帯収入46万円に対して支出が37万7000円。貯蓄が5万円ですから、3万3000円の行き先が不明です。これがどうしても必要な支出がどうかは不明ですが、仮に節約できる費目であり、これを全額貯蓄に回すことができるとします。すると、これだけで年間で40万円近い金額が貯蓄に上乗せできます。
また、保険の見直しも有効です。
教育資金や住宅資金を優先させるわけですから、ご夫婦とも保険料の割高な終身保険は不要と割り切るべき。ともに払済保険にしてください。これで月1万3000円が節約できます。
もう一つ、ボーナスからの貯蓄も増やしたいところ。旅行費用は工夫次第で半分に削ることができるのでは。それで35万円が新たに貯蓄に回せます。
これらを合計すると年間180万円の貯蓄が可能。そのうち教育資金に年間55万円を充てるとなると、残りは135万円。これを月割りすれば11万2500円。30年返済、金利1.5%だと、3300万円の借り入れが可能ということになります。
また、住宅を購入すれば、支出から家賃がなくなります(駐車場料金も発生するならそれもなくなる)。ただし、住宅手当もなくなるということで、家計負担は実質3万8000円の軽減です。これも住宅ローンの支払いに回すことができますが、老後資金やその他のことに備える意味で、これは別途貯蓄していくといいでしょう。
アドバイス3 住宅取得額は3500万円が上限
もちろん、これはあくまで試算です。今後、家計収支は当然、変動します。児童手当の支給は15歳まで。進学塾や習い事のコストも発生するでしょう。一方、小学校に上がれば、教育費はグッと下がります。7年後には自動車ローンが完済となります。さらに、住宅取得控除による税金の還付もあります。したがって、多少波はあるでしょうが、しっかり家計管理をしていけば、この貯蓄ペースは守ることができるはずです。ただし、注意すべき点もあります。まず、みどりさんも「海外旅行はもちろん、そのほかの生活費も削っていこうとは考えていますが、簡単にうまくいきますでしょうか」と、書かれていますが、まさにそこが心配。簡単には生活のレベルや意識は変えられないからです。
そのためにも今から家計を見直し、それを習慣づけるということ。そのためには、3年間は貯める期間として、住宅取得は3年後にしてはどうでしょう。その間、家計を無駄のない貯蓄体質に変えることができれば、ローンの返済も無理なくできるはず。また、その3年間で頭金を作ることも可能です。
金額としては、135万円×3年分として約400万円。諸費用を200万円として、残り200万円を頭金にすれば、先の試算で3300万円借り入れが可能ですから、3500万円を土地と建物にかけられるということになります。逆に言えば、これ以上の住宅コストは、きびしいとも考えられます。
また、3年後取得で30年返済ですから、完済はみどりさん73歳のとき。リスクがないわけではありません。それでも、住宅取得後も貯蓄が可能ですから、それを原資に繰上返済をすれば、完済期間を短縮できます。
もうひとつの注意点は、ご主人の収入がずっと安定しているという前提での試算ということです。毎月の家計支出の上下はカバーも可能ですが、収入の大幅減は致命的となります。みどりさんは公務員ですので、そこは安心ですが、ご主人は転職を考えているとのこと。結果、収入アップとなれば、家計的には歓迎すべきですが、逆に減ってしまうとマネープランの修正が必要になります。慎重に転職活動をしてほしいと思います。
さらに、お子さんが県外の大学に進学する場合。仕送り費用は先の教育資金には含まれていません。
そう考えれば、今はできることは、しっかりとした家計管理と無理のない住宅取得プランを実践すること。そして、みどりさんは60歳からのリタイアを望んでいますが、夫婦とも65歳まで働くことも、考えておく必要があるでしょう。
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武
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