80年代ホラー映画を彷彿とさせる『ストレンジャー・シングス』
『ストレンジャー・シングス 未知の世界 (Stranger Things)』は、Netflixのみで視聴できるSFホラー・ドラマ。2016年7月15日に8話からなるシーズン1が始まり、Netflixのオリジナル・ドラマの中でも熱狂的なファンを獲得しました。ザ・ダファー・ブラザーズ(マットとロス・ダファーの双子兄弟)は、『ナイト ミュージアム』などの監督としても知られるショーン・レヴィを迎え、このドラマを製作し、一躍注目を集めました。ドラマの舞台となるのは、1983年のインディアナ州。80年代中盤、僕自身もアメリカの中西部に住んでいたこともあり、なんだかデジャブ感があります。物語は12才の少年ウィル・バイヤーズの失踪から始まります。ウィルの母親役を務めるのは、ウィノナ・ライダー。『ストレンジャー・シングス』での好演により、彼女はゴールデングローブ賞ドラマ部門女優賞候補にもなりました。そして、主人公とも言える謎の坊主頭の超能力少女、イレブンが現れることで、話は展開していきます。子供達が主人公となる部分は、映画『スタンド・バイ・ミー』的な表現も感じさせます。
イレブンから思い出したのが、 スティーヴン・キングの小説が原作となり、ドリュー・バリモアが超能力少女を演じた『炎の少女チャーリー (FIRESTARTER)』。ザ・ダファー・ブラザーズは、元々はスティーヴン・キング原作の『IT-イット-』のリメイク映画(アルゼンチン人のアンディ・ムスキエティ監督によって2017年に公開予定)を手がけたかったのですが、断られた結果、『ストレンジャー・シングス』が生まれることになりました。キングだけでなく、ジョン・カーペンター、スティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカスからの影響もあり、80年代映画へのオマージュに溢れています。
ストレンジャー・シングス 未知の世界 (Netflix)
レトロウェイヴなサウンドトラック・スコア
『ストレンジャー・シングス』の世界観は、レトロウェイヴな音楽により構成されています。レトロウェイヴとは80年代カルチャーへの引用を特徴とするエレクトロニック音楽の新ジャンルです(詳しくは記事「『ラ・ラ・ランド』ライアン・ゴズリングと80'sの関係」を参照)。『ストレンジャー・シングス』のサウンドトラック・スコア(インストルメンタル部分)を担当したカイル・ディクソン&マイケル・スタイン(Kyle Dixon & Michael Stein)の2人は、テキサス州オースティン出身の4人のアナログ・シンセサイザー奏者からなるバンド、SURVIVE(S U R V I V Eと表記されることが多い)のメンバー。テキサス州は保守的とされますが、オースティンは、SXSW(South by Southwest)が開催されるロックの聖地的位置付けのリベラルな都市です。
もともとSURVIVEのファンであったザ・ダファー・ブラザーズは『ストレンジャー・シングス』のコンセプトをNetflixに売り込む際、彼らの音楽をトレイラーに使用したことから、このサウンドトラックは実現しました。レトロウェイヴ勢の中でも、SURVIVEは80年代だけでなく70年代的要素もあるサウンドトラック(ジョン・カーペンター、タンジェリン・ドリーム 、ジョルジオ・モロダー、ハロルド・フォルターメイヤーなど)の影響が強く、ホラー映画や犯罪映画的ダークな香りが漂います。ドラマのオープニングを飾るタイトル曲「Stranger Things」はその典型です。
カイル・ディクソン&マイケル・スタインが全曲を担当したサウンドトラック・アルバム『Stranger Things V.1/V.2』として2016年10月にリリースされました。タイトル曲「Stranger Things」は、劇中で使われるバージョンと長いバージョンが収録されています。V.1とV.2を合わせると計75曲たっぷりと詰まっていますが、多くの曲は彼らが既に作っていた音源ストックをドラマに合わせてリメイクしました。タイトル曲以外にも「A Kiss」「Kids」などの美しいシンセ・インストルメンタル曲が聴きどころとなっています。アルバムは、2017年のグラミー賞でベスト・スコア・サウンドトラック部門にノミネートされ、ローリングストーン誌により2016年ベストアルバム50枚(47位)としても選ばれました。
Stranger Things V.1 (A Netflix Original Series Soundtrack) (amazon.co.jp)
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時代とジャンルを横断する挿入歌
サウンドトラック・スコア以外にも劇中では各話にて挿入歌が使用されています。80年代が若干多いですが、Jefferson AirplaneからThe ClashそしてMOBYまで、時代とジャンルを超えた選曲となっています。同時にTangerine Dream、Vangelis、New Orderなどの楽曲からは、レトロウェイヴのルーツを意図的に選んだ感があります。SURVIVEの重厚なミニマル・レトロウェイヴ
SURVIVEはこれまでいくつかのアルバムとシングルをリリースしていますが、『Mnq026』『HD009』『RR7349』と全て通し番号となっています。彼ら曰く、特にコンセプトがあるわけではないからだと、マーケティングそっちにのけのそっけない理由です。2012年に『Survive』にはタイトルらしきものがありますが、一部は『HD015』となっています。4人のシンセ奏者による重厚なミニマル・レトロウェイヴが堪能できます。RR7349 (Bandcamp)
チップチューン版も登場
映画だけでなく音楽にも注目を浴びた『ストレンジャー・シングス』ですが、様々なカヴァーが公開されています。Gruberは、V.1全曲をチップチューン化しています。カナダのエレクトロ系ミュージシャン・DJ、Deadmau5は彼の最新スタジオで『ストレンジャー・シングス』を演奏する様子をライヴストリーミングをしています。
Stranger Things - Deadmau5 (twitch)
反響を受けて、9話からなるシーズン2は、ハロウィーンのタイミングとなる2017年10月31日に配信が始まります。乞うご期待!
Stranger Things 2 | Super Bowl 2017 Ad | Netflix (YouTube)