美術館で作品を撮影してSNSにアップ……これって大丈夫?
インスタやFacebookなどのSNSのタイムラインで、「美術館に行ってきたよ~」という写真付きの投稿を見かけたことはありませんか? 美術作品がおしゃれに映り込んでいる画像は「もしかして著作権の侵害?」と疑問に思うことも。このような行為に問題はないのでしょうか。撮影禁止の「条件」を設けている美術館が多い
美術館側は写真撮影や撮影された画像の利用についてどのように規定しているのでしょうか。東京都内の主な美術館の規定をみてみましょう(情報は2017年6月時点)。・東京国立近代美術館
フラッシュ、三脚などの機材を用いての撮影は禁止。撮影禁止マークのある展示作品の撮影は禁止。作品を撮影された写真を個人的に使用する場合は、著作権法に触れることがあるので要注意。
・国立新美術館
企画展での展示作品の撮影は、借用の際の契約上、原則的に禁止。館内で撮影した写真は特定の営利団体や会社の広報などを目的とする使用は禁止。
・国立西洋美術館
企画展示室内での撮影は禁止。 常設展示室内では、個人的かつ非商業的な利用目的に限り、 ビデオ・写真撮影が可能。ただし、フラッシュや三脚などは使用禁止。混雑状況などにより、撮影を全面禁止にする場合もある。
・東京写真美術館
展示室内および1階ホールでの写真・動画撮影、模写や録音は禁止。展覧会により異なる場合は、会場に表示する。
・東京都美術館
展示室内での写真・ビデオ撮影は禁止。携帯電話(通話・メール・写真撮影)の使用禁止。
・森美術館
作品に触れない、他の鑑賞者の鑑賞を妨げるような撮影は不可。フラッシュの使用不可。三脚や自撮り棒の使用は不可。動画撮影不可。
・東京都現代美術館
撮影禁止マークの表示がある作品は撮影禁止。フラッシュ、三脚を使用しての写真撮影は禁止。撮影した写真を営利目的で使用することは禁止。写真の使用に関して美術館および作家は一切責任を負わない。動画の撮影は禁止。
こうしてみると「原則的に撮影禁止」という美術館は少なく、「撮影禁止マークの表示がある場合」「フラッシュや三脚を使用する場合」など条件によっては禁止とする姿勢の施設が多いようです。
撮影された画像の使用については「著作権に触れる可能性があるので注意して使用」「美術館や作家は責任を負わない」など、個人の責任のもと注意して使用することを促す規定が多く、「SNSへのアップは禁止」と強く禁止する施設はみられません。また、条件によって写真撮影はOKでも動画撮影は禁止とする施設もあります。
なぜNG? 美術館が「撮影禁止」にする理由
そもそも、美術館で写真撮影が禁止される要因は何でしょうか。館内で美術作品を撮影した場合、主に以下の問題が考えられます。- 著作権の侵害にあたる
- 商用利用される可能性がある
- 撮影音がうるさい
- 撮影に気を取られ、美術作品にぶつかる恐れがある
- 他の鑑賞者のジャマになる
一番の問題は著作権です。美術館で撮影OKとするにはアーティスト(または著作権の相続者)の許可を得る必要がありますが、数多く展示物がある美術館では全てのアーティストから許可を得たり、撮影可・不可の作品について撮影の監視を徹底したりするのは簡単なことではないでしょう。
撮られた写真からポストカードなどが無断でつくられ商用利用される危険性もでてきます。撮影をOKすることにより人気作品の前では人の流れが悪くなったり、撮影しようと後ずさりで離れて後ろの展示物にぶつかるといった事故の発生も考えられます。他には、フラッシュを長期にわたり浴びることで作品が劣化するなども理由にあげられます。
「SNSでの拡散が、美術館を訪れるきっかけとなれば」
美術館側は美術作品の撮影についてどう感じているのでしょうか。2009年に日本の美術館で初めて、来館者が自由に美術作品を撮影できる展覧会を開催した東京・六本木の森美術館へ実際に話を聞きに行きました。森美術館では、2017年2月4日から2017年6月11日までの期間で「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」を開催。企画展の作品は自由に撮影ができ、SNSでの拡散も条件つきで許可されています。開催期間中にはインスタグラムもサポートに入り「#emptyMoriArtMuseum」とハッシュタグをつけた投稿を促すイベントも催されました。「#empty」の取り組みは、ニューヨークのメトロポリタン美術館をはじめ海外美術館でたびたび行なわれていますが、日本の美術館では初の試みです。館長の南條史生氏に話を聞いてみると
「自分の作品を広めたいという若いアーティストにとって、SNS上での拡散はメリットです。人を惹きつける強いビジュアルを持っている作品だからこそ、”インスタ映え”する。現代アートはフォトジェニックでSNSとの相性が非常に良いのです。現代アートを扱う美術館として“現代”と共に生きる展示方法を模索したいですね。SNSでの拡散が、美術館へ足を運ぶきっかけとなれば」
森美術館のような施設は日本でも増えています。東京・六本木の国立新美術館で開催された草間彌生展「わが永遠の魂」では携帯電話・スマートフォンでの撮影が許可され(カメラでの撮影はNG)、インスタやTwitterに多くの投稿がみられました。森美術館や国立新美術館のように、今後は現代らしい「SNS投稿」という楽しみ方ができる展覧会が増えそうです。
撮影OKの展示をつくる工夫
撮影が禁止される理由となる問題点をクリアするために、美術館側ではどのような工夫をしているのでしょうか。さらに南條氏に伺いました。「著作権をクリアするために、N・S・ハルシャ展ではクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)の枠組みを採用しました。これは、著作者が指定した条件を利用者が遵守したうえで、美術作品を撮影した写真を自由に利用できるというものです(南條氏)」
展覧会場に設置された看板に書かれたCCライセンス表示によると、N・S・ハルシャ氏は「指定のクレジットを表示すること」「営利目的での利用をしないこと」「元の作品を改変しないこと」を条件に設定しています。
つまり、来館者が作品を撮影した場合、非営利目的であり、作品に合成やスタンプ・手書きなどの加工はせず、作家名、作品名およびクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの表示を明記すればSNSでシェアしたりブログに掲載しても良いのです。逆に、これらの条件を守らずに使用した場合、使用方法を明記している美術館には責任がなく、使用者が直接責任を負うことになります。
CCライセンスの枠組みを採用することで、管理が難しい著作権を来館者へわかりやすく伝え、条件を守るというお互いの信頼のうえで、より自由に作品が楽しめる仕組みがつくられています。
また、撮影可能なものと不可のものが混在する展覧会では、展示計画のなかで撮影可能な作品についてはフォトスポットとして誘導するような仕掛けがみられます。「撮影可能な作品前の通路は幅を広くとるなど可能な範囲で調整をし、混雑しても作品と鑑賞者が触れないような空間づくりに努めています」
美術館での撮影時にはルールとマナーに注意
著作権をめぐる環境が変化する中、美術館ばかりでなく、作品を撮影し楽しむ来館者もリテラシーが求められています。美術館が美術館の展示方法を変える中、美術館が提示するルールを守り、撮影時には他の鑑賞者や展示物へ配慮したマナーある行動を心がけたいですね。【関連記事】